第39話 どうしようモーくん
ナコが救出されてから2日目、ナコはマーから事情徴収を受けていた。
昨日騎士団は樹海を調査するも、他に敵は見つからなかった。地下室には魔術の研究に使う機材などが残されていたが、肝心の研究書などはどこにもなく、敵の組織に関しては多くの謎を残していたのだ。そんな中、敵の本部に数日間いた彼女の話を聞くのは当然だった。
「そうか…」
マーが目線を落とした。
「あの、ごめんなさい…何も覚えてなくて」
「いや、マナを吸い取られていたんだ、気を失っていたのも無理はない。それに、騎士団で保護していたのに君を守れなかったのは帝国騎士団の落ち度だ。隊長として深くお詫びする」
マーは頭を下げた。
「まぁでも、こうしてナコが元気でいられるのも帝国騎士団のおかげなわけですし…、それにもうこれでナコは冒険にでかけてもいいわけですよね?」
牛の言葉にナコは陰りのある表情を見せた。
「ああ、もちろんだ。これ以上自由を奪うわけにはいかないしな。ただ敵がどこかにまだ潜んでいるかも限らないから、一応こちらから一人護衛をつけさせてほしい。」
「それくらいなら構いませんよね、ナコ」
ナコは黙って頷いた。
「そうか、ではこのアリスを連れて行ってくれ、まだ新米だが一応去年のトップ合格者だ。腕は保証する。」
後ろで控えて退屈そうにしていたアリスがはっとした顔をした。
「え?!!隊長私は聞いてませんよ」
「それはそうだ。言ってないからな。」
「私にも自分の仕事があるんですよ?!」
「それなら問題ない、俺がやっておくからな。」
「…そういうことなら、了解しました。」
アリスは渋々納得したが、マーにとっては新人には荷が重い任務に連れて行ったことを気にして、後輩を労うつもりでの提案だった。
「ちょっとマー君、樹海の資料って、どの部屋にあるんですか?」
リサが部屋に入ってきた。
「じゅ、樹海の資料は…」
明らかに取り乱してマーグランは部屋の外に出ていった。リサとアドラは樹海での一連の騒動について後始末をするために帝国騎士団にしばらくいることになったのだ。長い間立入禁止区域になっていた樹海のデータを更新する仕事で、立入禁止になる以前の樹海と現在の樹海をどちらも知る人物ということで依頼されたのだった。
もちろん、マーのリサに対する心情を知ってしまったアドラとアリスは、彼の取り乱すさまを見て終始にやにやしていた。
アリスはその光景をもう見れないことに心底がっかりした。
「いやー少し前に来たのがだいぶ昔みたいですねー」
牛、ナコ、アリスはアーント洞窟に来ていた。またこの洞窟のアーントが増えているからほどよく数を減らすという依頼だった。
「さて、手っ取り早く済ませますわよ」
アリスは一帯に攻撃魔法を片っ端から放つ。そして、相変わらず上司がいないところでは口調が独特だ。
牛も得意のサンダーソードで一匹のアーントに攻撃を始めた。とはいえ、硬い装甲を牛の力で破ることは難しく、何度も何度も叩いている内に少し疲れてあたりを見回した。
アリスは持ち前の複数属性をつかって炎と雷の嵐を生み出している。中のアーントは一網打尽で、やはり帝国騎士団トップ合格というのは伊達ではないようだ。
そしてナコを見ると彼女は杖を構えて詠唱している途中だった。
アリスさんの魔法もすごいですが、うちのナコもマナ量はたいしたものなのです。ほら…
すぐに大きな火柱が上がりますよ…
しかし、いくら待っても牛が期待する火柱など上がらず、ナコの顔はこころなしか苦しそうでもある。ついには杖を離してその場にへたりこんでしまった。牛は心配してすぐに駆け寄った。
「どうしたのですかナコ、やはりまだ体調が優れないのですか?」
アリスも手を止めてナコの方を見た。
ナコの手はかすかに震えていて、か細い声でつぶやいた。
「どうしようモーくん、あたし、魔法打てなくなったかもしれない。」
「え…やはりなにか──」
「ちがくて…、魔法打つのが怖いみたいなの、詠唱を始めると体が固まって、次の詠唱が唱えられなくて…」
「なるほど、そんなにおかしな話ではないですわ。冒険での恐怖心から魔法を使えなくなる人は多くいますわ。まだ経験も浅いうちからあんな経験をしましたの、無理もありませんわ。」
ナコの震える姿をみて牛は、なぜ自分は彼女の変化に気づいて挙げられなかったのかと後悔した。思えば救出してから、彼女にしてはどこかしおらしい言動が多かった。ナコをだれよりもそばで見続けていた自分が気づかなくてどうするのか。
「ナコ、ひとまず街に帰りましょう。」
ナコが力なく頷いた。
帰り道、牛はアリスに問いかけた。
「アリスさん、ナコはまた魔法を出せるようになるんでしょうか?」
「わかりませんわ、術の詠唱というのは凄まじく集中力を使いますの、恐怖心が邪魔をして集中できなければ術を使うことは難しいですわ。その恐怖心を払拭できればあるいわ…」
ナコはずっと冒険することを夢見てきた子だ。こんなことで冒険できなくなるなんてあんまりではないか。牛はトボトボとついてくるナコを見つめ、どうにか治す方法を考えていた。
───い、──せ
なんですか、また空耳ですか。いやいや、今はそんなことに気を使っている場合ではないのです。




