第37話 許さない
視界がぐらつく、片翼を失ってバランスを失ったからだ。
続けざまに繰り出されるアドラの攻撃をかろうじていなす。
どうしてこうなった。この人間は以前は取るに足らない存在だったはずだ。私一人でも消耗したこ奴らごときはすべて倒し、主の墓前に捧げるには十分だったはずだ。
あなた様が交流を恐れ接することができなかった人間共と、あなた様のために生まれた我らをこの樹海に捧げ、せめて長い眠りの時を寂しさを感じさせずに送らせる。その程度の心遣いすら私にはできないのだろうか。
「コンデントアイス!!」
不意にオクールの右手が凍りつけられ身動きが取れなくなる。
その一瞬、アドラの一撃が決まる。オクールの視界は宙に投げ出された。
魔石が頭の中に埋め込まれているオクールは、切り離された胴体を動かすことができない。力なく倒れる自分の体が見えた。横を見ると、もうすでにリュリの魔石も破壊されぬいぐるみ兵もすべて動いていない。戦況が片付いたリサに背後から術をかけられたようだ。気づけばもう物音がしない、遠くで戦っていたツギハギも負けたのであろう。
これまでですか…マザー様申し訳ございません
「おい、お前らの仲間はこれで全部か」
アドラの問いかけになど答える気もなく、首だけになったオクールはただ、ぼーっと虚空をみつめていた。
「アドラ、その首だけは殺すなよ、敵の情報を聞き出すために使う。これだけの兵を生産できる敵の親玉を逃すわけにはいかないからな。」
マーの忠告にアドラがうなづき、オクールの頭を片手でつかみ持ち上げた。
「みなさん!!大変です。敵のボス、マザーはすでに死んでいます!!」
牛の声が響き、その場にいた全員がその方向を見た。小屋のドアが開いていて、モーくんがその前に立っている。
「なに!?それはいったい…」
状況を確認するために一斉に小屋に向かって走りだした。
牛の姿を見ると、もはや戦意を喪失していたオクールの腹の底から怒りが沸々と湧き上がった。
こやつはいったいなんなんだ。この牛のぬいぐるみの正体ならとうに知っている。幼きマザー様に作られた後捨てられた必要のないぬいぐるみだ。だがそれがなぜ我らの邪魔をする。なぜマザー様の敵である人間を助けるためにここまで来た。マザー様に作られしぬいぐるみの分際で、マザー様亡きあと、あろうことか人間に仕えようというのか?…‥‥‥‥‥許さない
小屋に向かって走る中、リサは近くでオクールのマナが高まっていくのを感じた。
「アドラさん!!!オクールです。何か術を仕掛けようとしています!!」
オクールの瞳が鋭い光を放った―――――か、否かというところでアドラが地面に打ち付けて魔石ごと粉砕した。
辺りに風の音がなる。皆あたりの警戒をして、オクールの殺気の剣先を突き付けられていた牛は固唾をのんだ。
全員が構えたまま、5秒、10秒と時間が過ぎる。
「発生前につぶせたようだな、殺しちまって悪かったなマー坊」
アドラが警戒態勢をといて言った。
「いや、今の状況なら俺でもそうした。むしろよく術を止められたよ、それよりまずは敵のボスがすでに死んでいるって話を聞こうか」
牛はアドラやマーに部屋のベッドに寝ていたマザーの死体を見せた。ナコはリサやアリスによって回復魔法をかけられ、歩ける程度には回復した。
戦闘を終えたフーシとおこのも合流ししばらく小屋を調べていくと、地下室への入り口を見つけたが、全員かなり消耗していたため探索は明日以降にしてこの日はひとまず街まで戻ることになった。




