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騎士ホルスタイン  作者: コジュ
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第33話 効果的な幻術

アドラ、リサ、マー、アリス、牛、おこの、フーシは拠点を出発した。ウマメンは南支部に現状報告のため町に戻り、ライスは応援部隊が来た時に事情を話すために拠点に残った。



皆、無言で歩く。フーシは先ほどおこのに言われた言葉を反芻していた。


”自殺しに行く理由”…‥俺はナコを助けるためにここに来たんだ。自殺しに来たわけじゃ…


おこのをちらりと見た。するとぎろりとにらみ返して、あ?と威圧している。正気のこの人は怖い


「おい、霧だ。」

おこのはそう言って立ち止まった。気づけば前方に霧が蔓延している。


おこのは飛び跳ねるようなしぐさをして、フーシに幻術耐性上昇の術をかけた。


「よし、行くぞ」


フーシは目をつぶって霧の中に入る。

「おお、霧に入っても平気だ。」


「ただ効き目はすぐに切れるからあたしがそばにいないと使えないよ」


一同は警戒しつつも足早に進んだ。


アドラ達が引き返し始めた地点から、敵の指揮官が逃げていった方向に向かう。数分歩くと一軒の小屋があった。牛がナコと暮らした家を連想させられるほど、こじんまりとした小屋だ。


「あやしいな、敵が潜んでいるかもしれない、気をつけろ。」

アドラが大剣を構えて警戒する。


「腕を落としても動く奴らが休むのかどうかは疑問だが‥」


マーがそう言い終わると同時に扉が開く。そこから長身で大きな翼をもった人形、オクール・タクタキシヴィリが出てきた。


「これはまた大勢のお客さんですねぇ、ご機嫌よう」

自分の頭を手でつかみ、帽子をとって礼をするようなしぐさをする。逆さになった顔。赤く揺れる瞳はしっかりとこちらを見つめていた。


「ナコを返せえええええええええええええ!!!!」

牛が勢いよく飛び出した。大剣、もとい果物ナイフを振りかぶってとびかかる。


しかし、腕で払われ岩壁に突き刺さった。


「あなたはマザー様にふさわしくないといったはずですよねぇ‥‥人間などになついて、恥を知りなさい」


ぶん!!

アドラの大剣が空を切った。一瞬で間合いを詰めてはなった一撃を、一歩下がってかわされたのだ。


「ああ、あなたも必要ないんですよねぇ、実は昨日かなりうちのぬいぐるみが減ってしまいまして、もう少しマナの素がほしかったところなんです…、後ろの女性三人はそこそこ絞れそうだぁ…、いただきますよ」


オクールの体がぶれる。翼を使った高速移動術だ。しかし、高速移動して大外から抜けようとした時、オクールの視界は大剣にさえぎられた。


「ちょっとなめすぎじゃないか?お前の相手は俺だ」


紅い瞳の光は反射して、刀身を流れるように過ぎた。アドラをにらみつける。


「バティスト・リュリ!ツギ・ハギ!出番ですよ…」


小屋から小さな影がボールのようにはねてマーたちの方に飛んでいき、太い棒をマーにたたきつけた。マーは短剣2本を重ねて受けきる。


「了解しました。」

それはあのアドラから逃げていった指揮官だった。


前回アドラが折ったものよりもさらに太く長い棒、彼の背丈の倍はある棒を地面にたたきつけると、周りの茂みからぬいぐるみが出てきた。


「やるぞ!!」

マーが叫ぶ


リサ、アリスが返事をした。



そして、小屋からもう一人歩いて出てきたのは、ピンク色の髪、白い肌、すらりとした手足の長身の女性。ナコだった。


「ナコ!!」


その姿を見てフーシが走る。牛はいまだ岩壁に突き刺さってうまく抜けないでいた。


「ナコ!!無事だったのか、よかったそこまでケガもないし」

フーシは彼女の両手をつかんだ。元気そうな彼女の様子に安心し、少し涙ぐむ。


「ああ」

にっこりと笑う彼女の顔に氷のつぶてが突き刺さった。


「ええ!、ちょ、ナコ?」

フーシは困惑して氷が飛んできた後方を見る。


「あんたバカなんじゃないのかい?数日間監禁されてた少女がそんなに血色言い訳ないだろう」


おこのの発言にさらに困惑したフーシは再び女の顔を見る。すると氷がめり込んだ部分から血は流れておらず、顔の肉が動いて氷のつぶてを吐き出し、もとに戻ろうと動いていた。そして埋もれていた口が表面に出ると声を出した。


「人間…殺す」

顔の肉の動きが止まると、その口は耳の近くまで裂けていて、ナコの顔とは全く違う造形であった。


フーシは女から距離をとった。

「なんだこいつ!!」


「へえ、変形するのか、そいつは便利なもんだ」

おこのは杖を肩に担いで不敵に笑った。


「便利なもんだって、おこのちゃん、この状況だと俺とあなたであの化け物と戦わなきゃいけないみたいだよ、勝算あるの?」


「当たり前だろうが、まあみてろ」


おこのは杖を構え、やわらかな眉間に力を入れ集中する。この年齢の女性ならばしわだらけになるのだろうが、幼女の姿の彼女にはしわなどない。


「ほううわ!!」

おこのが叫んだ


「なんだ?今なんの術をかけたんだ?」


「今のは幻術、やつは今おそろしいものに囲まれているように感じているはずさ」


「おお、それはなんかすごい!!」


フーシは一度敵の様子を見た。敵は一言も声を上げず、姿勢を低くして構える。すると体の肉が流動し、足に集まっていく。そしてふくらはぎがアドラのそれを彷彿させる姿になった。


次の瞬間、敵は飛ぶように突っ込んできた。


直線的な攻撃をフーシはジャンプおこのはかがんで避けた。


「ちょっと、あいつめっちゃ攻撃してきたけど」


「むううう、あやつ、幻術効かないのかもしれんな…」


「ええ!!」

フーシは牛も幻術が効かなかったという話を思い出した。

「じゃあこれどうすんだよ?」


「まあ、あわてるなフーシよ、あたしは幻術の他には低レベルな氷魔法くらいしか使えんが─────」


敵はまた突っこんできた。

今度はこれをフーシがおこのをつかみ跳んでかわした。


「奴に幻術が効かないからといって、幻術のすべてがこの場で無効というわけではないんだよ‥」

おこのはフーシの腿に手を置いた


「それはいったいどういう」

困惑するフーシの腿に念を込めた。


また敵は突進しようと助走をつけ始めた。


「ちょっと!!、またあいつ来るよ?!」


おこのは依然として目をつぶり、念を込めている。


敵は突っこんできた。

フーシは無防備なおこのをつかんで回避しようとしたときおこのが叫ぶ、


「避けんでいい!!正面から受けろ!!」


「ええ?そんな無茶な」


「いいからやれ!!」


もう敵は目前だ、フーシは腹をくくりナイフを両手に持って防御の体制をとった。


金属音が響いた。


フーシは敵のなにやら硬化されている爪を両手のナイフで止めていた。


「おお!!」

自分でも驚きに声が出る。


敵は無言で距離をとった。


「今お前に幻術をかけた。お前の目には自分の姿が普段よりも強そうに見えているだろう?それが本来の力を呼び起こす要因になる。」


「なるほど、言われてみれば俺の腕が太く見えるぞ!…‥‥‥え?でもそれってつまり中身は何も変わってないってことじゃ?」


「ああ、そうだ、だがお前は今敵の攻撃を防いだ。お前は自分で思ってる以上に力をもってる。」



敵は筋肉を上半身に動かして殴りかかってきた。今度は拳ごと硬化させている。


今度は低く滑り込むようにかわし、すれ違いざまに細くなった足を切った。


「おお!すごい!!俺、ほんとはこんなに強かったのか」


「ああ、勘違いんするんじゃないよ」


「え?」


「人間は本来持ってる力のごく一部しか使い切れていないってやつさ。それをいま出してるだけで、別にお前が他の人間に比べて特別強いってわけじゃない」


「へええ…」

若干落ち込みつつも今はそんなときではないとフーシは切り替える。


脚に傷を負った敵を正面から切り刻んだ。

敵はばらばらになり、無残な姿になった。フーシは敵、それも人形とはいえナコの形をしていたものをこれ以上切るのをためらった。


「それにしてもおこのちゃん、これほんとにすごい力だな」

おこのの方を見る


「ああ、だが油断するな、こ奴らは魔石をつぶさない限りは動くんだろう?」


「それはそうだけど、ここまで分解されたらもう攻撃しようもないから─────」

フーシは背後から聞き覚えのある音が聞こえた。それは粘性のある液体が流れ落ちるときのような音で、先ほど敵が肉を動かすときに聞こえた音だった。正面のおこのが目を見開いて吃驚している。


「後ろだ!!!」

おこのが叫ぶのとほぼ同時にフーシは振り返った。


敵のとがった爪がフーシの腹を切り裂く、フーシは倒れていく中で、敵の五体がすでにつながっていることを確認した。


じわじわと血が出ているのがわかる。激しい痛みの中でフーシは後悔した。敵が体の肉を流動体のように動かせる時点で、再生能力に特化している可能性を加味するべきだったと。


「なにやってんだい!!」


おこのが敵をフーシから引き離す。

「おい、フーシ起きろ!!死ぬんじゃないよ」


おこのが叫んでいる声がどんどん小さくなる。血が出ていく感触もだんだんわからなくなっている。視界も霞んできた。腹から出た血の池は広がっていき、ほほに血がついたのを感じた。


ああ死ぬんだ。や─────





















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