第30話 夢、サーカス
フーシは深い霧の中にいた。
ここは…一体‥?俺は…何を‥?
瞬間、見える景色が変わった。そこは見慣れたサーカス小屋だった。
あれは親父?なんで‥
「いいか、フーシ…しくじるんじゃねえぞ」
体のでかい男が小さな子供の頭をつかみ、声をかけた。
しかも、あれは俺?なんだこれ?夢か?なんで今更こんな夢を…?
子供のフーシは返事をして外に出ていった。
また景色が変わる。スラム街の路地、孤児が集まっている。その中心に幼いフーシがいた。
「いい話があるんだ、うちのサーカスは人を募集している。お前たちよかったら来ないか?雇ってやるぞ」
その話を聞く孤児たちの目は希望に満ちていて、何の疑いもなくフーシの言葉に耳を傾けていた。
もう、こんな夢はやめてくれ、見たくない‥‥
幼いフーシは数人の子供たちを連れてサーカスに連れて行った。子供たちの中には幼いナコもいた。
フーシはサーカスまで行くと彼らを父親に引き合わせた。
「やあ、君たちよく来たね、掃除や洗濯で今日から働いてもらうよ、ちゃんとお金も払うからね。」
父親は子供たちに笑顔で話をした。
少しして、父親とフーシ二人で話を始めた。
「よくやったぞフーシ、大漁だ。特にあの女の子、変な髪色だったが、色白で美形だ。高く売れる。」
サーカスは国を移動して開演をする裏で、奴隷商売をしていた。ステイン帝国民の奴隷は他国で高く売れるが、国をまたぐ際、騎士団に見つかれば厳しく処罰される。だからこのサーカスではあくまでも自主的に参加した子供として他国に連れていき、そこで奴隷として売っていた。フーシはその第一段階として連れていけそうな孤児を集める役割を担当していた。
この時も数日間孤児に家事を学ばせ、商品価値をあげてから連れていく計画だった。そして移動の日、孤児の一人が来ず、サーカスの団長であるフーシの父親は困惑していた。
「おいフーシ!一人足りねえぞ!!どういうことだ。」
「俺、知らない」
フーシは目をそらす。ものすごい形相で父親は数秒間にらみつけた。
「とんでもなく素直な娘だったから家も特定してないしなぁ、ちっ、しかたねぇ諦めて移動するぞ」
フーシは前日ナコに、明日は休みだと嘘を教えた。絶望的な状況でも腐らずに頑張るナコに恋心を抱いていたのだ。しかし、少年はもう二度と会えないことを覚悟していた。
景色がまた大きく移り変わる。
「被告人を奴隷売買の罪で死刑に処す」
裁判官が判決を言い放つ。あの父親は静かにフーシをにらみつけていた。
「フーシ君、報告感謝する。」
ブレス・セヴァートがフーシに声をかけた。
「いえ」
長い年月が経ち、フーシは騎士団に父親の悪事を密告したのだ。フーシは幼い日々から逆らえない状況だったことと、密告したことが逮捕につながったことが考慮されて無罪だった。
ただ、フーシにとってその結果は決して満足のいくものではなかった。フーシは密告のつもりで悪事を伝えたのではない、過去に自分がだましたことで過酷な生活を送ることになったであろう人々がいる。そんな罪の意識から自首したのだ。
自分は幸せになってはいけないという考えを抱いていた。
死んでいるような目をしたフーシにブレスは提案する。
「私の知り合いに、ギルドをやっている者がいるんだが、疲れているならそこにいくといいよ、話をしておこう。」
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「ライスさん、フーシはどうしちまったんだ。」
ウマメンが気を失って倒れているフーシの横に座り、正面のライスに訊いた。
「幻術をかけられています。それもかなり強力です。」
彼らは立ち入り禁止エリア外の拠点にいた。ウマメンは急にいなくなったフーシを追いかけて南の樹海に行き、そこで倒れているフーシを見つけた。気を失ってうなされている彼を見てどうしようか慌てているときに、通りがかったライス・ホワイトに出会う。その後、ライスに連れられてフーシを背負ってきたのだ。
「幻術?なおせないのか?」
フーシはずっとごめんなさいとつぶやいている。
「私の仲間もほとんどあの霧にやられました。先ほどおこの隊長が正気になったので幻術を解いてくれたのですが…」
ライスは奥でシャボン玉を飛ばしている幼女をさした。
「今はボケちまってるのか…‥」
「はい、申し訳ないです」
「いや、そもそもフーシや俺が来てること自体間違ってるんだ。そんで霧ってのは?」
「はい、ここに来てしばらくするととんでもなく濃い霧にあたりが包まれまして、無事だったのは私とおこの隊長だけ、他の隊員はフーシ君のように倒れてしまいました。過去に行方不明になった三隊はあの霧にやられたのでしょう、少数先鋭の小隊を選んだ支部長の選択は正しかったのかもしれません」
「他の隊員さんたちはいまどうしているんだ?見当たらないが」
拠点はなかなかな大きさのテントだったが、そこに他に人は見当たらない。
「また霧にのままれれば同じことの繰り返しです。帰らせました。ウマメンさんも早く帰った方がいい」
「ああ、フーシが起きしだい連れて帰るよ」
「俺は…生きていたらいけないんだ」
フーシが急に大きな声をだした。
「目を覚ました隊員は皆、昔の夢をみていたと言っていました。フーシ君もきっとずっと過去の夢を見ているのでしょう」
「フーシ‥‥」




