第1話 いよいよ明日は
広大な草原の中にぽっつりとたたずむ小屋、その中で、牛のぬいぐるみは本棚の上に一日中座って、少女の帰りを待っていた。
ナコはまだ帰ってこないのでしょうか? 今朝出かけたっきり全く帰ってこないではありませんか。それにしても、こうしてナコをひたすら待つ生活にも慣れたものです。出会ったころはナコをこの本棚から見下ろしていたものでしたが……
不意に玄関が開いた。ピンク色の髪の少女が小屋に入る。
おかえりなさい。ナコ。
牛はそう心の中で唱えたが、ナコは何も言わない。彼女が本棚の前に立つと牛は見上げる形になった。この本棚の上は牛の定位置だ。ナコの背が本棚よりも小さかった頃は、四六時中ナコは牛を持ち歩いていたが、ここ数年は牛はこの位置から動いていない。昔はよく私に話しかけてくれていたが、最近はそれもない。とはいえ、私が返事をすることができないのだから、仕方ないのかもしれない。
「今日も野菜のスープだけか……」
不満そうに呟いたナコは持ってきた袋から野菜を取り出して、鍋に入れ、スープを作り始めた。
彼女はまだ幼いころから毎日町に出て、清掃などの仕事をして生活をしていた。できることなら、私が彼女の仕事の手伝いをして、もう少しまともな食事をさせてあげたいのだが、それは叶わない。
「でも、こんな生活も今日までの我慢だからね」
ナコがそうつぶやいて、青い石が埋め込まれたペンダントをバッグから出した。首にぶら下げると、鏡の前に立ち、ポーズを決める。
おお! それが解放石ですか。ついにもらえたのですね! 似合っていますよ、かっこいい冒険者様のようです。
14歳になると、解放石を身に着けることが認められる。解放石とは、身に着けていると体内のマナが解放され、魔法が使えるようになる石だ。魔法が使えれば、危険なダンジョンに足を踏み入れることができるので、念願の冒険ができると、ナコは昔からこれを買える時を待ちわびていたのだ。もっとも、最近ではダンジョンで宝を見つけ、金を稼ぐことが目標となっているらしいが、彼女の生活が豊かになることは、牛の望みでもあった。
「あたしはどんな魔法が使えるようになるのかな、火属性とかかな?マナがたくさんあるといいな」
長年の願いが叶うとあって、ナコの目が輝いていて、牛も幸せな気持ちになった。しかし、不安もある。ダンジョンは金が稼げる場所でもあるが、危険な場所だ。彼女が怪我をしたりしないか、牛は気が気では無かった。
神様、ナコは毎日本当によく頑張ってきました。彼女にご加護をください。
牛は祈った。長年ナコの様子を見守ってきた牛は親のような気持ちになっていた。
「ダンジョンに行ったら、宝箱見っけて……」
ナコはにやにやと企むような顔をした。
なんだか、ちょっと悪い顔をしていますね、いったい何を考えているんですか、モーくんにも教えてほしいです。何度願ったことかわかりませんが、考えるだけじゃなくて声が出せればいいのになあ
その夜、ナコも牛も寝静まった頃、ナコの解放石が輝き、それから牛の体の中で何かが光った。




