プロローグ2 ひとりのナコ
「ただいま! そしてようこそモーくん、ここがナコのお城です!」
そこはお城というにはあまりにも小さな家だった。先ほど上空から見えた、草原に一軒だけあった小屋だ。
「晩御飯にはまだ早いので、おままごとをしましょう! みんなー新しいお友達だよ」
そう言って少女は私を部屋の中央にある円卓に置き、本棚の上からボロボロのクマやブタのぬいぐるみを取り出した。
「出たあモンスターベアーだ! あぶなーい!」
「ききいん」
少女は右手にクマのぬいぐるみ、左手に私を持って、動かした。
「ふう、危ないところだったナコは下がってな」
「騎士ホルスタイン!」
どうやら、私が彼女を守る騎士という設定のおままごとを演じて遊んでいるらしい。騎士ホルスタインというのは、私が白黒の牛の見た目だからだろう。
あまり、乱暴に掴まないでほしいものです。それにしてもこうやって一人で遊んでいるのですか、寂しいものですね。お友達はいないのでしょうか。というか、親はどこにいるのでしょう。
そうして一時間ほど「ずかーん」とか「どかーん」とか少女は叫び続けていた
「ぐああ。もう駄目だ、騎士ホルスタインのパワーはあまり持たないのだ」
「メテオブレイク! どっかーんぎゅるぎゅるぎゅるずどーん」
「いやあ、たすかったよ、魔導士ナコ」
「いや、時間を稼いでくれたおかげだわ! みんなの勝利よ」
「かくしてナコ一行は旅を続けるのであった。」
だみ声でナレーションをすると、少女は興奮して汗ばんだ両手を開いて仰向けに寝転がった。満足したらしい。私は先ほどおもちゃの剣を突きつけられたので、少しだけ右腕がほつれてしまった。どうせ暇なので、好きにしてもらっていいが、もう少し丁寧に扱ってほしい。
「今日の冒険も楽しかったな。モーくんもふえたし! ……でも、ナコもいつか本当の冒険に行きたいな」
本当の冒険? この子は冒険に憧れているのだろうか。
「ああ! もうこんな時間! ご飯たべなくちゃ」
少女は両手でやっと持てるほどの大きな缶を持ってきて開けた、中はほとんど空っぽで、ビスケットが一枚だけ入っていた。
「そうだった。今日で無くなっちゃうね……」
突然何かを思い出した少女は落ち込んでしまった。少女は最後のビスケットをとりだして少しだけかじって食べた。
「ねえ、もーくん、この缶はお母さんが置いてってくれたの」
一言話してからまたかじる。
「最初はね、缶いっぱいに入っていたの、お母さんが毎日すこしずつ食べなさいって」
また一口、今度は先ほどよりもさらに少量だけ食べた。食べ終わってしまうのが怖いことのように。
「それで全部無くなったらこれからは自分でどうにかしなさいって、お母さんはもう会えないからって」
少女の瞳は涙でいっぱいだった。捨て子か、こんなに小さいのに、ひどい親もいたものですね。
少女は最後のひとかけらを口に入れて飲み込んだ。
「全部無くなっちゃった、ナコ……捨てられちゃったのかな」
少女はずっとこらえていたのであろう言葉を吐き出した。途端に、涙と感情があふれ出す。
「わあああああああん」
私のお腹に顔をうずめて泣き喚いた。
うわあ、鼻水がべっとりですね。でもこんなに小さいのに、お母さん居なくなっちゃって不安ですよね。うん。好きなだけそうしてください。私にはなにもできないですが、これで少しでもあなたの気持ちが和らぐのなら。
本当なら、泣いている彼女の頭を撫でてあげたいが、私のふわふわとした腕は、自分で動かすことができない。
私は彼女に名付けられた名前を受け入れることにした。そして、彼女を少しでも勇気づけられることを祈って、心の中で祈った。
ナコ、大丈夫です。モーくんがついていますから。




