第28話 洞穴
「アドラさんが敵の指揮官を倒してから戻ってくるころには…もう手遅れでした。」
過去にあったことを、リサの目から見えたことをゆっくりと語った。気づけばどこからか聞こえていた水滴の音も聞こえなくなっていた。
「そんな‥‥大変なことが、ごめんなさい…つらいことを聞いてしまって。」
「ううん‥‥アリスちゃんには言っておかなきゃいけないと思ってましたから。」
二人の間に沈黙が訪れ、そしてまたリサが口を開いた。
「それから、アドラさんは危険な仕事を極端に避けるようになって、戦い方も私が攻撃を受けない戦法に変えました。でもそれじゃ帝国騎士団じゃやっていけなくなったから、ギルド「タンポッポ」を作ったのです。」
アリスはここまでの話を自分の中で整理して、質問しはじめた。
「グラン隊長はどうして、あんなにアドラさん対して…その…」
アリスは言葉にするのをためらった。
「─────怒りっぽいのかってことですよね?」
「はい」
いいづらそうに返事をした。
「私もはっきりとわかるわけじゃないですけど、マー君はアドラさんに、ううん、アドラさんの戦いぶりに憧れてました。だから、アドラさんが責任を感じて戦い方を変えてしまったことが悔しいんじゃないかな」
アリスは両腕で膝を抱えて座りなおした。最近、らしくない隊長の行動にを部下として疑問に思っていた。それが彼女が知るはずもない過去を聞いて腑に落ちたようで、それでいて、上官の行動にはリサの話では説明がつかない何かがまだあるような気もした。
「それにしても、マー君とアドラさん遅いですね、もうそろそろ見張りの交代の時間になるんですが」
「私見てきます、次の見張り私ですし」
「あ‥‥、たぶん、今日のことを話してると思いますから、もう少し…待ってあげてください。」
「わかりました。」
「なあアドラ、何も俺はあの時の自分の体の傷も顧みないような戦いをしろと言っているわけじゃないんだ。もうリーシャさんのような治癒魔法を使える人はいないからな。ただ、リサやアリスは俺に任せて戦いに集中してくれればそれで─────」
「だから、なんども言うように無理なんだ‥‥、リサもお前も俺が気に掛ける必要はないし、先に進むためにはそれではいけないこともわかってる。ただ、無理なんだ…、他の誰が後ろで戦っていても俺は戦いに集中できる。でもリサが攻撃されると思うと‥‥‥」
「だから!リサは平気だ、俺が─────」
「リサも歳を重ねてリーシャによく似てきた。」
アドラの声は震える。
「なんの話だ?」
アドラは気にせず続ける
「リサが攻撃を受けると思うと…あの時のリーシャを思い出してしまう‥‥」
アドラが握るこぶしからは血が滴っていた。
マーはあの時見た光景を思い出した。
もうとうに冷たくなっているであろうリーシャのなきがらを抱きしめ、むせび泣くアドラの背中を。
マーは何も言えなくなってしまった。
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「オクール様、大変申し上げにくいのですが…人形兵20体が全滅してしまいました。」
バティスト・リュリ。アドラが逃がした人形だ。オクール・タクタキシヴィリの前に跪く。
「なにをやっているのですかぁ?バティスト‥‥、彼らは大切なマザー様のしもべですよ…」
「はっ!!申し訳ございません!!」
「まぁいいんです…、時期的にみてもあなたのお仲間でしょう‥あのマドモアゼルはとっても強かった‥ねぇ、ナコちゃん?」
オクールの隣。ナコは鎖に縛られ、憔悴していた。オクールが頬を撫でても反応がない。
「100体あげましょう…」
「へっ?」
思いがけない言葉にバティストが困惑すると、オクールはにやりと笑った。
「人形兵を100体あなたにあげると言ったんです‥‥。なあに…心配ありませんよ‥‥ナコちゃんがいればまだまだ作れますからねぇ…クックック」
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