表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士ホルスタイン  作者: コジュ
PR
28/43

第27話 過去

マー、リサ、アリスは洞穴で黙って座っていた。体力を回復するために少しでも眠らなければいけないのだが、三人ともそんな気分にはなれない。アドラは見張り番をするために洞穴のそとにいた。

 

洞穴に座って一時間ほどした時、ずっとうつむいていたマーが立ち上がった。


「マー君?まだ見張り交代には早いですけど‥‥」


「すこし‥‥奴と話してくる。」


リサは表情を少し動かしてまたうつむいた。


マーが歩いて行って、お互いに声を出しても聞こえないくらいに遠ざかると、リサは初めてアリスと二人きりの環境になっていることに気づいた。どこからか、水滴が落ちる音が聞こえる。


「あの、グラン隊長に…いえ、皆さんには…過去に何があったのですか?」


アリスの質問にリサの視線は下がった。

「やっぱり…アリスちゃんには話しておかなきゃいけないですよね」

アリスの目を見る。

「でもこの話されるの、マー君は嫌がると思うから、内緒にしてくださいね」


「はい」

アリスは真剣な表情で返事をした。もう先輩が君付けで呼ばれることには慣れたようだった。


「昔、わたしとアドラさんそれにマー君が帝国騎士団で同じ小隊を組んでいたことは知ってますよね」


アリスはうなづく


「その小隊の四人目がリーシャ・レクシオ、私の姉です。姉さんはとても優秀な医療魔術師でした───────────










「あれ?マー君すりむいてるじゃない?こっちおいで」


「これくらい‥‥かすり傷ですよ、リーシャさんに治してもらわなくたってすぐ治ります」

離れようとするマー・グランの服をつかんで止めた

「いいから、これが私の仕事なの」

しぶしぶマーもふくれっ面をして治療を受ける。


「おーい、行き止まりだったみてぇだ、今日は帰ろう」

前方から大剣を肩に担いだアドラが大きな声を出した。リサも隣を歩いている。


「あ、はーい」

リーシャが顔を上げ手を振りながらアドラに返事をすると、マーは少し強引に彼女のそばを離れた


「あ、まだ終わってないのに」


「もう十分です。」

マーの頬は少し赤い、まだ帝国騎士団に入りたてのマーは心の変化を隠すのが今よりも下手だ。


アドラたちがマーのもとまでついた。

「みんな大きなけがはないな」


「うん、それにしても、通報はなんだったのかな?オークなんて一匹もいなかったけど」

リーシャはアドラに訊いた。


アドラ達はオークの集団を見かけたという通報を受け、調査に来ていたのだった。


「誤報だったんじゃねーか?その辺のおっさんをオークと見間違ったんだろ」


「それならいいんだけど、リサの術はなんか信用できなくて」


「もう、お姉ちゃん、だったら自分で唱えればいいでしょ」


リサは非常に多くの種類の魔法を使える。周囲のマナを感知するマグネティックフィールドも得意な術だった。それに対してリーシャは回復魔法や補助魔法しか使えない。しかし回復魔法の腕は帝国騎士団でも傑出していた。


「あ、そういうこというんだ~」


リーシャはマーの耳元に口を近づけてささやいた

「ねー、こんな娘のどこがいいのかな?」


「なな何の話ですか」


「えー、好きなんでしょ?リサのこと?」


アドラの顔が真っ赤になる。


「え?マー君と二人で何話してるの?」

リサが訊いてくる


「なんでもない!!!」

力強く否定する。


マーはリサの奥に何か気配を感じた


「あ、あぶない!!」

リサに向かって飛んできた石を弾き飛ばした。


「石!?なんで」

リサが飛んできた方向を見て唖然とした。

「嘘…‥」


いま彼らが通ってきた道にオークの集団がいた。そして今まさにその集団が走って向かってきている。


「おい、あんな奴らさっきはいなかったよな」


「そうだよ、でもそんな話してる場合じゃないよ」

先頭を走るオークがアドラに切りかかってきた


すかさずアドラは敵を大剣で切り捨てる

「ああ!そうみたいだな、これだけの人数で俺らが気づかなかったんだ、こりゃなにかあるぞ、気をつけろ」


「はい!アドラさん」

向かってくるオークの攻撃を右の短剣で受け止め、すかさず左の短剣で腹を切り裂いた。


二体のオークが地に伏す。その後ろでレクシオ姉妹は術の詠唱を始めた。リサは敵にむかって攻撃魔法を、リーシャは味方に能力上昇魔法を唱えた。


その時だった。すでにマーに腹を裂かれて横たわっていたオークが立ち上がり、詠唱中のリーシャに向かって飛びついた。

「なに!?」


すかさずアドラが切る。オークは再び倒れた


「ありがとう、でもどうして…」

リーシャが倒れた敵を見つめ、思慮を巡らした。


すると今裂かれた傷跡が、ぼこぼこと音を立ててふさがり始めた。


「!?再生魔法…」


「敵の中に高度な魔法を使うやつがいるらしいな、長く生きたオークの中には魔法を使うやつがいるとは聞いたことあるが‥‥」


「リサのマグネティックフィールドの感知を潜り抜けたのもそいつの術かな?」


「たぶんな、マナ感知無効化術をオークどもに使って俺らを袋小路に誘い込んだわけだ。」


「リサ、敵の指示出してるやつはどこにいるかわかるか?」


「ひときわマナが強いのは一番奥です。」

マナ感知無効化はもうとけたようだ。


「魔法届くか?」


「致命傷を与えるようなレベルの魔法は無理です。届きません」

リサは周りに向かって氷のつぶてを出しながら言った。


「直接術者に叩き込まないことには、逃げることも勝つこともできないか」


「飛び込むの?」


「ああ、得意分野だ、リサとマーは頼むぞ」


「うん、死なないでね」


「ああ」


迫りくるオークと立ち上がってくるオークの攻撃を防ぎながら、この二人の会話をマーは聞いていた。


「リサ、マー坊聞け!俺は敵陣突っ込んで敵の指示者ふっとばしてくる。いつものやつだ、頼むぞ」


「はい!」

「はい!」

二人が大きく返事をした。


この戦術は小隊の得意とするスタイルだった。まず、無類の突破力をもったアドラが敵陣に単体で突っ込む。

「強化!」

猛スピードで突進していった。


「だあああああああああああああらああああああああああああ」

雄たけびが上がると共にオークの体が宙に舞う。


初撃で乱れた隊列の穴をアドラは見逃さない。強化されたその強靭な脚を使い、走るというよりは、地面すれすれを飛ぶように突っ込んだ。


しかし、そこは敵陣。当然全方位から攻撃を受ける。オークは角を使い、アドラの横っ腹に突っ込んできた。


「ぐうう」


これをアドラはよけることなく腹で受け止めた。角が食い込み血が噴き出る。しかし、アドラの目は前だけを見つめていた。

前方に向かって全身全霊の一撃を叩き込んだ。そしてまた突っ込んでいく。

敵が回復する以上、敵の攻撃をよけている暇はなかった。何よりも敵の親玉をたたくことを第一に考え、そのためにひたすら前に進む。


周りの敵や味方、自分の体すら気にも留めず、未だ姿の見えぬ敵に向かって進む。その姿はオーガよりも鬼に近い。



ただ、いくらアドラでも周りの攻撃を受けて何もしなければ、たどり着く前に死んでしまう。


「ヒール!」

リーシャの治癒魔法がアドラに届いた。

この戦術の肝はリーシャの援護にあった。遠くから治癒魔法をかけることでアドラの単独突進が成立するのだ。

ただ、遠距離での詠唱には時間がかかるため、リーシャは無防備になる。言葉も発せないほどに。リサとマーは彼女を守ることに徹していた。



「どあああああああああああああああああああ」

アドラの雄たけびが聞こえる


「すごい、あと少しでアドラさんたどりつくよ」

リサは周りの敵を短い詠唱の術で対応する。さらに逐次周りのマナを感知して、周囲そしてアドラの状況を把握していた。


「お姉ちゃん、アドラさんそろそろ回復待ってると思う」

リーシャはうなづいて返事した


「あ、マー君後ろから2体きてる、お願い」


「わかった」

マーが冷気をまとわせた攻撃を放つ、オークの腕が落ち、切断面は凍って動きを止めた。凍ると再生は弱まるようだ。

マーは笑みを浮かべた。


強い、この小隊は強いぞ


アドラの戦いぶりにマーは強いあこがれを抱いていた。そしてその小隊で一役買っていることを誇りに思っていたのだ。


この小隊なら…本当にどこまでだって行ける。なんだってできる…



「リサ!!!!!」


リーシャの甲高い声を聞きマーはすぐさま視線を向けた。


リーシャがリサを突き飛ばし、そしてリーシャの首にはオークの爪が突き刺さっていた。

リサとリーシャが倒れる。


マーは声も出ず、迅速にそのオークを刻んだ。


リサは半身を起こし、倒れているリーシャを抱きかかえる。すでに大粒の涙を流し、泣き叫んでいた。

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!ヒール!!ヒール!!」

リーシャの首に向かって治癒魔法をかける、しかしその雪のように白い首筋からは鮮血があふれ出て、一向に止まらない


「う、、、うわああああああああああああああああ」

マーは無防備な二人に向かって突っ込んでくるオークを切る。動揺した彼の動きは不格好で、普段の鮮やかな手さばきとは比べ物にならない。


リーシャはリサの声に反応しない、体は小刻みに震え、か細く息をしていた


リサが背後の敵に気づけなかったのには理由があった。最初マナ感知を欺いてきた敵だったが、姿を見せてからはマナを感知することもできたため、リサはいつものようにマナ感知をもとに周りの敵に対応していた。しかし、敵はマナ感知無効化をかけたオークを数体残していたのだ。リサのマナ感知を潜り抜けたオークがリサの背後から忍び寄り、リーシャがかばって攻撃を受けた。

しかし、そんなことはこの場の誰も考えていない。ただリーシャがこのままでは死んでしまうという事実を前に頭が真っ白になった。


「ああ‥‥私のヒールじゃ‥‥お姉ちゃん起きて!!自分にヒールかけて!!」


「やだな…‥別に寝てたわけじゃないよ」


リーシャがか細い声をだした。


「お姉ちゃん!!!」


「ずっとね、アドラへの詠唱続けてたんだよ、だからうまく声出せなかっただけ」


「そんな、でも早く、自分にもヒールかけて」


「だめだよ、…アドラは今も私より何倍も攻撃受けてるんだから、アドラが死んじゃうよ」

そういわれてリサはすぐさまアドラのマナを探知する、たしかにひどいダメージを受けていた。ここから治癒を受けなければ死んでしまうかもしれない。

リサは何も言えなくなってしまった。


「ほら、やっぱりアドラもボロボロなんだよね‥‥‥」

少し微笑んでそういうと、またリーシャは詠唱をし始めた。


「お姉ちゃん!!」

リサもリーシャへのヒールを続け、合間に魔法を撃ち続けた。

そしてマーは自分の無力さを悔いながら敵を切り裂き続けた。




とめどなくあふれる涙は返り血で赤く染まった























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ