第24話 ブレス・セヴァート
長い廊下をアドラは息を切らして走る。
「ディグナスさんこちらです」
部屋の前に立っていた衛兵がアドラに声をかけた。
アドラはうなずいてドアを開けた。
部屋に入ると長い机が置いてあり、部屋の奥側にマー達隊長が座っていて、少し手前側にそれ以外の隊員、そしてリサとフーシが座っていた。
アドラがリサの隣に座る
「久しぶりだな、アドラ」
机の一番奥に座っていた金髪の男が声をかけた
「ああ」
低く声で短い返事をした。
「全員揃ったかな…これより対帝国脅威会議を始める。グラン隊長、まず現状を確認しよう」
金髪の男、ブレス・セヴァート支部長がきりだすと、マーが説明に入った。
「近頃南支部周辺で騒がれていた誘拐事件の犯人が特定された。みんなも知っての通り敵は人形、奴らは人のマナを吸い取って活動のエネルギ―源としている。さらに、先ほど騎士団で保護していた最大規模のマナをもつ少女が誘拐された。敵の戦力がどれくらいなのかは未知数だが、少女のマナを使って兵士を量産できるのだとすればこれはただの誘拐事件ではすまされない、帝国存続の危機だ!!」
帝国存続の危機という単語には兵士たちもどよめいた。
「セヴァート支部長」
マーの向かいに座っていたウェドだ。
「なんだダイ隊長」
「帝国存続の危機というのは…いささかオーバーな表現では?騎士団の警備をかいくぐる変身能力や飛行能力は確かに厄介ですが、なんでも実際に敵と対峙したのはあちらの女性やそのギルドの方だとか・・、事件を担当していたにもかかわらず駆けつけられなかったグラン隊や、警備担当だったおこの隊の不手際を、敵の実力を必要以上に大きくしてごまかしているようにしか見えません。」
マーは眉一つ動かさず、おこのはフーシを見て覚えたジャグリングをして、そしてライス・ホワイトは図星をつかれたような顔で唾をのんだ。
「いや、ダイ隊長、お前が入隊する前の話だから知らないのも無理はないが、アドラは数年前うちで隊長をやっていた。それにリサも魔術学校を首席で合格した実力者だよ。」
ウェド・ネズ・ダイは驚いた。
「あと、おこの隊にも片手間で他の仕事も受けてもらってたからしかたないよ、正直今回の敵の動きは全く予想できなかった。責任があるとすれば、この一大事に南支部を離れていた私の責任さ。」
ライスはほっとした表情を見せた。ウェドは他隊の地位を落とせると狙っての発言だったため不満気だ。
「あの!早く会議を進めてもらっていいですか?」
しびれを切らしたリサが発言した。彼女は平静を装っていたが、ついさっきナコを目の前で連れ去られた直後なのだ。目は赤くはれた後がのこり、今の本題に入ろうとしないこの会議にはイラついていた。
「こんな悠長に話している場合ではなかったな。グラン隊長、敵の拠点の目星は?」
「先日の捜索で手掛かりを得られなかったこと、そして飛び去った方角からして南の樹海エリアかと」
「南の樹海…か…」
セヴァートは眉間にしわを寄せる。
南の樹海は現在立ち入り禁止区域とされていた。リサやアドラが騎士団をやめてから少し経った後、南の樹海に立ち入った冒険者たちが行方不明になる事件が相次いだ。当時の南支部長はこの状況を重くとらえ、ダンジョン探索業績が特に優秀だった三隊、総勢150名を引き連れて原因解明に向かった。しかし、彼らが戻ってくることはなかった。その後当時隊長だったセヴァートが支部長になり、初めに南の樹海への一切の立ち入りを禁じた。それでも命知らずなギルド所属冒険者は好奇心につられ入っていったが誰一人帰ってきてはいない。
「一刻を争う状況かつ、敵の戦力は未知数、・・目星は南の樹海・・・ふむ、ではこうしよう、まず私は他支部に援軍をもらいに走る。おこの隊、ラッカス隊は立ち入り禁止区域の直前地点に兵を引き連れて拠点を作れ、そして、肝心の南の樹海探索はアドラ、リサ、グラン隊長、ヴァルディアの四人小隊に任せる。」
一同がざわついた。
「支部長、私とおこの隊で拠点をつくるのは構いませんが、いくら何でも南の樹海に四人というのは・・」
まず言葉にしたのはローグ・ラッカス隊長だった。
「ローグ、お前は私のもとで当時の支部長や隊長たちを見てきたからわかっているだろう、彼らでさえも通用しなかったのが南の樹海だ。半端者は無駄死にするだけだ。」
「しかし‥‥」
ラッカスは口をつぐんだ。
今度はウェドが話し始める
「少数精鋭というのは理解できますが、なぜ彼らなので?現隊長である私が元隊長で現場から退いていた彼らに劣ると?」
にわかには信じられないといった表情だ
「そうはいっていないが、君の得意分野は大規模隊の指揮だろう、ダンジョン探索においては経験不足だ。それにアドラの4人小隊は私の知る限り最強だよ。君には私がいない間の南支部のことを頼みたい。」
「了解いたしました。」
ウェドにとってよく知りもしない人間の方が評価されていることが不快だったが、一時的にでも支部のトップで指揮をできるという話は気分の良いものだった。
立て続けに今度はマーが話した。
「支部長、アドラは今回の件に関しては手を引くと言ってまして───」
「──まてよ、それは昨日までの話だ。今は状況が違う、うちのギルドのメンバーが誘拐されたんだ。俺もリサも二人だとしても助けに向かう覚悟だよ。」
「支部長!、今のアドラは…昔とは違う、現に三体の人形兵を相手に後れをとっていた腑抜けです。」
机をたたいて抗議した。
「おいおい、マー坊、ついこないだ俺に蹴飛ばされたの忘れたのか」
マー・グランの奥歯がこすれる音が部屋中に響き渡る。
「あのふざけた戦い方はしないんだろうなあ」
ものすごい形相でにらみつけた。
「もとよりそのつもりだよ、そういう覚悟だ。」
アドラもまっすぐに見つめ返す。
先の戦いではあれだけ言っても自分を降ろそうとはしなかったアドラの変わりようにリサは驚いた。
「ならいい」
マーは目をそらし渋々納得した。




