第23話 ただの点
強い風が打ち付ける、牛はどうにかナコを助けたかったが、彼女の服に捕まっているのでやっとだった。
オクールの目が牛に止まった
「おや、あなたそんなところにいたんですねぇ、てっきりどこかで落ちたものとばかり思っていました」
「ナコを、返しなさい」
「んーそれは無理な相談です。マザー様からのご命令ですからねぇ、それにいつまでそうしているつもりですか…マザー様の御前にあなたのような安いぬいぐるみ…ふさわしくない………ハギ」
オクールは右手に掴んでいる女の人形に指示した。
「はい、はい、人使いの荒いオトコね」
ハギはナコの肩にしがみついている牛を引きはがそうとした。
「むぅ」
「おい、やめろよ!」
牛は必死でナコを掴み、ナコはハギの腕を払った。
「いったいなぁ、おとなしくしててよ」
ハギはナコの手をがっしりと掴んだ。
「あら、綺麗な手ね、真っ白な肌に、細い指、羨ましいわあ」
ナコの指先を惚れ惚れとした顔で見つめた。ナコに悪寒が走る
「ナコにさわるな!その手を放せ!」
牛は捕まっているのに精一杯で騒ぎわめくことしかできなかった。
ナコはハギの手をひっかいて抵抗した
「やだ、傷ついちゃったでしょ」
確かにハギの手に爪痕がついたが、みるみるうちにふさがった。オクールに比べれば人に近い体つきをしているが明らかに人ではない。
「全く騒がしい方々ですねえ・・・・・それにしてもあなた、マザー様に作られしぬいぐるみのくせにマザー様に逆らうのですか?」
ここまでずっとちらついて悩んでいた。それでもリサの言葉でかろうじて心を保っていたのだ。しかし「自分はマザー様とかいう敵の親玉に作られた存在であること」をはっきりと敵の口で言われたとき、愛するナコの肩にぴったりとしがみつくことを彼の理性は拒絶した。
瞬間、捕まる力が弱まる。
牛の体は空中に放りだされた。
しばらくは慣性で人形と共に動く、すぐさまナコは手を伸ばした。
「うし───」
「なこ───」
けれども伸ばした手が触れられることは無かった
あっという間に離れていく
ナコの声が風にかき消される
ナコの表情がわからなくなる
ナコの姿がみえなくなる
あれだけ大きく覆い被さっていた人形の羽がただの点になった。
ナコを連れ去られてしまった。
自分は何をしているんだ、たしかに自分は敵の兵器なのかもしれない、だがそれでも今彼女をやつらに連れていかれては元も子もないではないか、そんな自責の念に駆られた。
一際冷たい風がほおをなでる。するとあの顔がフラッシュバックした
ナコの幼いころの顔、孤独におびえる顔だ。
牛の目の焦点はどこに合わせるわけでもなく、震えた
すぐに…今すぐに駆けつけなければ!
しかし、空中では身動きが取れない。
地上を見下ろす。まっすぐ下には濃い緑が広がっていて、前方には岩肌の露出した山が見える。そこを人形は抜けていった。地面はまだ遠いい、少しずつ一面に広がる森の木の一本一本が認識できるようになった。
正面から空気が牛の耳の間を抜けていく、頭を下方にむけてより早く落ちていける態勢に変化した。
早く、早く、早く早く早く落ちろ!私はナコを追いかけなければ・・・・、早く、・・ナコ・・・・ナコ!ナコ!ナコ!ナコ!なあああああああああああああああああああこおおおおおおおおおおおおおお
「ぽふっ」
一気に加速していき、木々の隙間に落ちた。かなりの速度が出ていたが、その衝撃音は小さなものだった。
「ナコ!」
着地するやいなや牛は人形が向かった方向に走り始めた。
ナコ‥‥ナコ‥‥必ず、助けに行きます・・・あなたを一人にはさせません




