第22話 幻術
アドラ、ウマメン捕まっていたギルドメンバーは一度ギルドに戻り、ナコ、フーシ、牛、リサは南支部に泊まることになった。
南支部には泊り込みで仕事をする人のための部屋や大浴場が用意されている。人形をおびき出す作戦から始まったこの日、皆泥のように眠った。
翌日、アドラたちは突然空にしてしまったギルドの後処理におわれ、マーやアリスは飛び去った敵の捜索、牛やナコは休息を得た。
「可愛らしいお嬢さん!私フーシの華麗なるナイフさばきをご覧あれ!」
フーシがおこのに向けてナイフをジャグリングする芸を見せると、キャッキャッとして喜んだ。しばらくすると、彼女は何もないところから両手にナイフを出現させ、フーシと同じように投げて回した。
少女は得意げに笑っている。
「??!やべえな」
フーシは何年間もかけてようやくものにした芸をいとも簡単にまねられたことが癇に障った。
「ではではこんなものはいかがでしょうか?」
手を振り上げたかと思うと、そのままバク転した。一回で終わることなく何回もぐるぐると回ると、数メートル後退したところで止まった。
すると少女は手をたたいて喜び、自分も真似しようとして飛び上がった。空中で逆さになり地面に手を伸ばすと、フーシは大変なことに気が付いた。彼女は腕が短く、このままでは手よりも先に頭がついてしまうのだ。
「あ、あぶなーい」
とフーシは叫んだが、それは杞憂におわった。彼女の腕が突然伸びたからだ。彼女の頭は地面にかすることもなく、華麗にバク転を何回も決めてフーシの隣に立った。今度は挑発するような顔でフーシを見上げる。腕組をしていたが、その体に対して腕だけ異様に長いため違和感があった。
フーシは口をあんぐりと開けて呆然としたかと思えば、
「くっそおおおこれならどうだあああ」
叫んでまたバク転をしながら、部屋を出ていってしまった。少女もまたそのまねをしながらついていった。
「何やってんだあいつ・・・」
一部始終を見ていたナコがあきれていた。
「あれもね、幻覚でそう見せてるだけで、実際にそうなってるわけじゃないの。だからフーシ君もあんなに気にしなくてもいいのにね」
リサがくすくすと笑っている。
「あれで中身はあたしの何倍も生きてるおばあちゃんっていうんだもんなー」
ナコのすぐ隣に牛は座っていたが、彼女たちの会話も、フーシの叫び声も、彼の頭を通り過ぎて行った。オクールという人形が言った、同胞という言葉が頭の中で反芻されていたのだ。
人のマナを吸収して使うシステム、ですか…、今にして思えば私が急に目覚めたのもナコのマナが解放したからだったのでしょう。つまり、私がナコに出会う前、私は敵の関係者であった可能性が高い、・・・私はナコのそばにいてもいいのでしょうか
ぬいぐるみがナコを狙っていたときの目を思い出す。いつか自分が同じようになることを想像してぞっとした。
「………なあ!おい牛!」
ナコが怒鳴りつける
「は、はい、、なんですか?」
「なんですか…て聞いてなかったのかよ、ったく辛気くせえなあ・・・・・風呂入ってくる」
ナコは立ち上がって大浴場の方へ向かった。
「ちょっと、ナコ単独行動は控えなさいと言われているでしょう」
「うるせぇな、こんだけ騎士がいるところに敵もわざわざこねぇよ!」
「まあまあ、あとから私も行くから大丈夫、ナコちゃんも昨日はゆっくり入れなかっただろうから…」
牛とリサは二人同じ方向を向いて、壁を背もたれに座っていた。
「大丈夫ですよ、」
「ええ、確かにこの支部の中なら安全ですよね…」
「それもですけど、不安なんですよね、自分がいつかあんなふうになっちゃうんじゃないかって」
牛が驚いたそぶりをした。
「気づきますよそりゃあ、きっとナコちゃんも感づいていると思いますよ、…でもきっと大丈夫ですよ、ナコちゃんをこんなに愛しているんですから。」
「しかしです、、私にはナコと出会う前の記憶がない、」
「大丈夫です、大丈夫」
リサはおっとりとした、それでいて芯のある声で言った。何の根拠もないその言葉には、妙な説得力があった。
大浴場、高所に設置され大きな窓もあるため、町が一望できる見晴らしの良い作りになっていた。
大きな湯船につかって、窓から青空を眺める。たまにしか湯船につかれない生活を送ってきたナコにとって、当然初めての経験だった。
大きなため息をつく。
「あらあら、ため息なんてついて・・」
後ろから女性が歩いてきた
ちゃぷん、湯に入ってナコの隣に座った。
「……リサさん、あたし、怖いよ」
「どうしたの?」
彼女もそれほど胸が大きいわけではないが、成長途中のナコにくらべれば成熟した女性の体をしていた。
「牛が意識なくなった時、怖くて仕方なかった……全然、そういう話じゃないのに、また、捨てられちゃうんじゃないかって、独りにしないでって」
声が少し震えている
「ふふ……ナコちゃんには私がいるじゃない?」
「いや、それはわかっているんだけど」
お姉ちゃんになってあげる、という彼女の言葉を思い出して少し照れた。そして同時に強い違和感を覚えた。
【牛がいなくなることが捨てられるように感じられて怖い】この返答に【牛はいなくならないから大丈夫】でも【そうならないようにしないとね】でもなく【いなくなってもひとりではない】返す様な人だったか
「リサ…さん??」
「あらあら、生まれたときから一緒にいる私の名前がわからなくなっちゃったの?」
温かい湯の中で、背筋が凍りついた。
「‥‥あたしがリサさんと出会ったのはついこの間だ……おまえ、誰だ」
女は立ち上がった
「あらあ、オクールの奴話が違うじゃない?まあいいさ、姿形は通用するみたいだし」
女の声が一気に別人になった。そして口がだんだん裂けていく
「楽しかったわあ、人間みたいで……ねぇ、ナコちゃん……」
突然浴場の方から爆発音が聞こえた。
「なんですか!!?」
「ナコちゃん!!」
二人はすぐさま走り出した。
浴場のドアを開けると窓が割れていて、ナコと口の裂けた人形がそのそばにいた。ナコは人形につかまれて身動きが取れない。
「うっ離せ」
「人形!?ナコちゃんを離しなさい!」
「いやーよん、せっかく捕まえたんだもん・・・・ねえ、それよりさあ私がどうしてここには入れたか気にならない?」
そういうと人形の口は端からだんだんとふさがっていき、姿かたちが人間の女に近づいていく。そしてリサとうり二つの姿になった。
「うそ・・・私?」
「はああん、そうそれ、その顔よん」
「幻術?でもそれなら誰かに見破られるはず・・」
幻術はよっぽど実力が離れていない限りは、同じ幻術の使い手には見破られる。南支部にはおこのには劣るもののレベルの高い術者がたくさんいた。警戒態勢になっている今、人形がここに来るまでに彼らに全く合わないのは不可能に近かった。
人形は鼻で笑った。
「幻術なんてちんけなものと一緒にしないでよ、確かに変わってるの、変形して変態してるの、」
そういってナコをつかんでいない方の手を鞭のように変形して見せた。
「こんな・・技術が・・・」
リサはにわかには信じられずに立ち尽くした。
「ナコからっ!手を!はなせえええ」
突然横から牛が飛びついて、ナコから離そうとした。しかし敵のつかむ力の方が圧倒的につよい。
「なんだお前」
人形が牛を振り払おうとすると、その拍子に一直線上に並んでいた、リサ、ナコ、人形の並びがくずれた。
射線からナコちゃんが外れた・・これなら
「アイスランス!!」
人形の体に直撃したが後ろに飛びのくことでその勢いを弱めていた。そして、人形が飛びのいた先には割れた窓、数十メートルの高さから人形、ナコ、それにしがみついていた牛は落下していった。
「落ちた?!」
支部の下には多くの騎士たちがいる。いくら腕の立つ人形といえどもそこを突破するのは容易ではない。攻撃を食らったからといって自分から下に落ちていったことがリサには解せなかった。それ以前に生身のナコがこの高さから落ちればただでは済まない。そんな思考が次から次へとリサの脳をめぐった。
すぐさまかけつけて窓の下を覗く、しかし地上で騒ぎを聞きつけてこちらを見上げる兵士しか見えなかった。
「これはこれは美しきマドモアゼル、また会いましたねぇ…」
「お前は、オクール!!!」
以前ナコをさらいに来た翼のついた人形が、女の人形やナコを掴んで目の前に飛んでいた。リサが破壊したはずの腕も、もう元通りになっていた
すぐさまリサは詠唱を始める。
「コンデントファイア!!」
爆発は人形の腹に直撃した───かと思いきや、爆発した周りにひびが入っていく。人形はリサとの間に氷の壁を張っていたのだ。
「昨日は、リサ、あなたを甘くみて痛い目を見ましたからねえ‥‥充分用心させてもらいました。では、ごきげんよう・・」
振り返り飛んでいこうとする人形に対し、両手を前に突き出して声を荒げ魔法を連射した。
「ああああああああああああああああああ」
あたりが見えなくなるほどの魔法が氷を完全に打ち砕くころには、敵はもう遥か遠くを飛んでいた。
いくら魔法を撃っても敵はすでに射程の外、リサは膝から崩れ落ちた。




