第21話 帝国騎士団南支部
ステイン帝国直属騎士団、その南支部に牛達は来ていた。ナコはこれだけ大きな建物に入るのは初めてだった。
「どうだ、何かわかったか?」
数多くの魔道具を置いている部屋の中、マー・グランは部下の研究者に聞いた。
真ん中には下半身が切り離されたままの牛のぬいぐるみが台の上に寝かされていて、それを取り囲むように研究員、アリス、ナコ、リサそしてアドラがいた。
「あの、、、、ここれは、わわたしも見たことがない術式で、かか解読には時間が、、かかりそうです。でも、、そそそそもそも私程度の知識じゃわからないのもとうぜんというか、、だめですね私、、もうクビに・・・」
挙動不審な研究員の丸眼鏡をかけた女、ラウラ・バッシはたどたどしい口調で言った
「どうしてそのようなことをおっしゃるのですか?ここで一番の実力者ではないですか」
アリスは自信を無くしている先輩に声をかけた。しかしそのまっすぐに見つめる瞳を先輩は見つめ返すことはできない。
「ラウラ、お前の知識はステイン帝国でもトップクラスなんだ、もっと自信を持て」
勇気づけるマーの言葉もあまり効いていない様子だ
「なあマー坊、一通り見たんだったらこっちの牛っころ縫いつけてやってくれないか?いつまでもこのままってのもさすがに気の毒だろう」
アドラが言った。マーはその呼び方に若干不機嫌そうな顔をしつつも牛を差し出した。すぐさまナコの手で縫い付けられ、その手際の良さをリサは感心して眺めていた。
ラウラは南支部でもかなり上の位にいる隊長に対して、マー坊と呼びかけるこの男はいったい誰なのかと、アリスに問いかけた
「ああ、この人は何でも隊長の古くからの知り合いらしいです」
耳元に近づいて小声で続けた。
「明らかに昔何かあったみたいですよ」
「へー・・・」
普段上司としてきりっとしたグラン隊長、ここまでダイ隊長とのペアが最もはかどりましたが、あの隊長を坊やのように扱うこの態度は、・・可能性のかたまり・・・
その類まれな処理能力を持つ脳は幾万通りのシチュエーションの妄想に脳を働かせていた。
「隊長!!私これからもここで頑張りますね!」
「あ、ああ」
突然今日一番の声量で返事をしたラウラに少し戸惑いながらも、やる気を出したようで上司として安心するグランだった。
時を同じくして、ウマメンは同じ建物の地下のフロアにつかまっていた仲間たちに会いに行っていた。
「おう、お前ら大丈夫だったか?」
仲間を見るやいなやウマメンは駆け寄った。
「ウマメン!!俺たちは心配ないよ、お前らの方こそ大丈夫かよ、みんな無事か?」
支部に入る前からマーからの命令が届いていたため、ギルドの仲間たちはとっくに釈放され、礼もかねて手厚く対応されていた。しかも彼らの尋問を担当したライス・ホワイトは温厚な性格だったため、彼らは元気そうな顔をしていた。
「そうかよかった、じゃあ俺らのほうが大変だったかもしれねえなあ、死ぬかと思ったんだぜえ」
普段共に依頼をこなしている仲間たちの元気そうな姿を見て、ウマメンの表情もすっかり緊張がほぐれ、しばらくさっきまでのウソのような戦いを話していた。
「そこのお馬さんここさ来らいん」
ずっと立ってしゃべっていた馬に対して、ちかくの座敷に座っていた3歳ほどの黒髪少女が話しかけた。
「ん?あの娘は?」
ウマメンはそれまでその少女の存在に気づいていなかった。
「なんか、この部屋に通されたときからいたよ、ギルドの関係者じゃないから、騎士団の人の子供かと思うんだけど」
「へー、帝国騎士団って言っても結構緩い集まりなのかな」
「ほら、お馬さん、ここさ座らいん」
少女はそばにある座布団を片手でポンポンとたたいた。
「はいはい、わかったよ」
「んふふ、お馬さんはいどーぞ」
少女は満足げに笑った後、まんじゅうを差し出した。
「お?くれるのか?ありがとうな、」
差し出されたまんじゅうを半分ほどかじって食べた。
「おお、うまいうまい、お嬢ちゃんありがとうね」
馬がわざとらしくリアクションすると少女はもっと嬉しそうに笑った。馬は少女が誰かに何かしてあげたくなる時期なのかと思って和やかに見ていたが実はそうではなかった。
少女が両手で叩いて音を鳴らすと、馬が食べていたまんじゅうが石に変わった。
「なんだこれ、石になったぞ」
突然硬くなったまんじゅうを吐き出して、馬と周りは驚いた。その姿を見て少女はもっとキャッキャと喜んでいる。どうやらいたずらをしたかったようだ。
「こりゃあ、いったい・・」
縦に長い口に入った石のかけらをどうにか取り除いていると、黒髪の何とも特徴のない男が入ってきた。
すると少女は彼を見て「お父さん」と叫んだ
「ああ、ここにいましたか」
男は机の上に置かれた岩のかけらをみて状況を察知したようだ。
「ああああ、すみません、またいたずらを・・・」
「あ、この人がさっき言った俺らの尋問担当てくれた人だよ」
ウマメンに小声で教えた。
「ああ、あなたが、俺は草を食う時にもたまに砂とか飲みこんじゃう時もあるからいいんだけど・・・どういうトリック?」
「本当すみません…ええと、この子は催眠系の魔術が得意でして、でもいたずらはしてはいけないといつも言っているのですが・・」
「へえ、こんなに小さいのに魔術を・・・え?でもマナの解放は?」
魔術を使うために必須のマナの解放は14歳になったときに自然と起こる。しかしこの子は明らかにその年齢に達していなかった。
「あの…実はそれが…」
「おお!お前ら元気だったか?」
アドラ達が部屋に入ってきた。牛の縫合が終わってギルドメンバーを見に来たのだ。
「アドラさんこそ、大変だったらしいじゃないですか」
ギルドメンバーの一人が元気よく返した。否、一人だけではなく、それまでは体は全快でもどこかふさぎ込んでいた人たちが明るい声を上げていた。やはり、このギルドにおいてアドラの存在は大きい。
「まあな…、おっそこにいるのはホワイトじゃねーか、おこのさんは元気か?」
「ディグナスさん、お久しぶりです、隊長はですね…」
ライスは少しうつむく
「お父さん、この人だれ?」
見上げる少女とちょうど目があっていた。
「お父さん?!ホワイトお前、子供いたのかよ、しかもそんなに大きい!」
リサもアドラの横で口をおさえて驚いている。
「いやいやいや、違うんですよ、この子は私の子じゃなくて」
「お父さん…」
否定するホワイトを見て少女はかなしげだ。
「お父さんって言ってるじゃないですか」
リサが口を突っ込んだ。この状況を分析して別れた女の子供か、養子か、いろんなパターンを想像するうちに、彼を見る目つきが鋭くなっていった。最近ナコと知り合っているだけに、子を捨てる親への評価は限りなく低い。
「リサさん、違うんですよ、誤解なんです」
「あーあ、こんなのおこのさんがよく黙ってるもんだな」
「誤解なんですってば、……実は…この子はおこの隊長なんです」
「ばばあがボケて幻術かけてるだ!??」
アドラ、リサは唖然としていた。一方後ろで引いて見ていたナコ、フーシ、牛は何のことだか分からない。
「はい、数年前はちょっと物忘れ激しいかな?てくらいだったんですけど、最近は自分の姿を幼いころの姿に見せてることも忘れて、自分が本当に3歳の子で、僕の事をお父さんだと思ってるみたいです。」
「ん?今のおかしいぞ、自分の姿を幼いころの姿に見せてるって」
「ええ、隊長は幻術の達人ですから、実際が80を越えたお婆さんでも、周りの人にそう見せることくらいならわけないです。」
「いや、そこじゃなくて、、あの、おこののばばあだろ!!子供の頃だって、こんな可愛らしいわけないだろうが!」
「そんな、僕だってわかんないですよ、隊長の子供の頃なんて知らないですし、でも本人がそう言ってるんですから」
当のおこのは疲れたのかリサの膝枕で寝てしまっている。
「なあ、あたしたちにはなんの話かさっぱりなんだが、誰だって子供の頃はこんなもんだろ?」
ナコが言った、その隣で牛が「ナコも子供の頃は可愛かったですものね」と言おうとしたが控えた。
「いや違う、、あのばばあは、見た目も魔女だが、中身は鬼みてぇな、入隊したばかりのとき何回殺されかけたか……、きっと子供の時から悪魔だったに違いねえ、」
アドラは思い出して言葉にしただけで自然と震え、腕をさすらせた。
「だが、あのクソババアもついにボケたか…ハッハッハハッハッハ」
なんだか突然アドラが上機嫌になっている。
「アドラのションベンタレが、よく喋るじゃないかい……でなんだって?誰が悪魔だとかなんとか」
アドラの巨体がまるで子猫の毛が逆立つように震え上がった。ゆっくりと、皆が少女の方を向く
しかし少女は寝ていた。
「ねごと……」
リサがつぶやいた。
「今の声は……紛れもなく全盛期の…、すごいですよディグナスさん、ここ半年くらいねごとでも子供のままだったのに」
ホワイトがアドラを見るとアドラは恐怖のあまり固まっていた。




