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騎士ホルスタイン  作者: コジュ
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紅く揺らめく瞳

 ふらつくナコのローブの端を牛が引っ張って先導する。とはいえ、牛の力ではナコの歩くスピードが大きく変わることはなかった。

 振り向けば、アドラたちの姿がかなり小さい点に見えるようになった頃、だんだんと大きく見える点があった。

「あれは誰でしょうか? 味方であってほしいですが……」

 そうは言っても、敵である可能性がある以上、まだ足を止めるわけにはいかない。二人は時折後ろを見ながら、逃げ続けた。

 しばらくすると、近づいてくる点は人の形に見え始め、あの場にいた茶色いぬいぐるみだと判別できた。

「敵みたいだね」

「まさかアドラ殿たちを抜けてくるなんて……」

 あれだけの強さを見せたアドラとリサが追手を許したということが牛には信じられなかった。

「仕方ない、残りのマナを使ってファイアで迎え撃とう」

「待ってくださいナコ! ここは私の魔法で足止めします。だから、ナコは逃げてください!」

「モーくんの豆電球とか、マッチの火じゃ、足止めできないでしょ?」

「豆電球でも何でも、死ぬ気で奴を止めます!! だから!!」

 牛の必死の叫びも聞かず、ナコは杖を構え詠唱を始めた。疲弊した今、詠唱には時間がかかったが、敵が魔法の射程範囲に入るまでの時間を考えれば丁度良かった。

 やがて、敵の顔がはっきりと分かる距離にまで近づいた。敵のぬいぐるみの走り方はでたらめなフォームだったが、速い。

「ファイア!」

 残りのマナを絞った炎が出た。敵は炎に包まれ姿は見えなくなった。

 数秒間轟音が響き、敵が燃え尽きたかと思えた頃、炎の端から敵が飛び出してきた。

「だめか…」

 敵の体に傷は無かった。ナコの炎ではあのぬいぐるみを止めるにはぬるかった。

 マナを使い果たして限界まで疲弊したナコは、その場から逃げようとするも、足がもたれ、転んでしまった。

 もう、すぐそこまで敵は近づいてきていた。知的生命体とは思えないそのでたらめな走り方がナコの恐怖を助長した。

「止まりなさい!」

 牛がナコの目の前に立って叫ぶが、敵は聞いていない。牛は果物ナイフを取り出して構えた。それから向かってくる敵に対して、斬りかかった。

 しかし、敵の左腕になんのことはなく払われて一瞬の足止めにもならない。

 敵は、走ってきた勢いのまま、滑り込むようにナコに飛びついた。左腕でナコの首を掴んで地面に押し付ける。

 ナコは苦痛の声を漏らす。

 敵は魔法を使い、右腕に渦を巻く高圧の水を纏った。その右腕に触れた草は粉々になった。

 敵の紅い瞳にナコが恐怖と死を感じた時、後ろから牛が電気をまとったナイフで斬りかかった。

「ナコから手を放しなさい!」

 敵の首に牛のナイフが刺さり、ぶちぶちと音を立てて、毛糸が切れていく。

 しかし、それに気づいた敵は、高圧の水流を纏った右腕で牛を振り払った。右腕に触れた牛の腰から下は切り裂かれ、体が真っ二つになった。

「も……くん」

 ナコが首を絞められたままかすれ声を上げた時、切り裂かれた牛の布や綿があたりに散った。同時に牛が腰に下げていた巾着袋も破れ、中からウミグモの糸が飛び散った。それは敵の右腕に切り裂かれることなく、敵の体を覆った。

 水生生物を掴んで身動きを取らせないために進化してきたウミグモの糸は、水に強く高圧力の水属性魔法でも切れない。さらに、その持ち前の粘り気は敵に絡みつき、敵の身動きを取れなくした。

 上半身だけになった牛は、身動きが取れない敵の背中にしがみ付き、雷を纏った刀を首に刺した。

 先ほど切った部分と切り込みが重なり、敵の首はほんの毛糸一本だけ残った。その毛糸一本で敵の頭は肩からぶら下がっている。あと一本を切ろうとした時、先ほど使用した魔法の効果が切れて、牛の刀の電圧が弱くなった。

 下半身が無くなり、力の入らない牛には、電気を纏わせ切れ味を上げなければその一本は切れない。

 とはいえ、後は毛糸一本、身動きの取れない敵が相手では、落ち着いて切り裂けばいいと考えた。     

 ちらりとナコの方を向くと、ナコの首をつかむ敵の手の力は微塵も弱まっていないことに気づいた。首を絞められ続けているナコの目は朦朧としている。さらに、毛糸一本でぶら下がる頭についた瞳は、見開いてナコだけを見つめていた。

 この姿になってもなお、無心にナコの命を狙い続ける、その紅く揺らめく瞳に牛は戦慄した。

 早く敵の息の根を止めなければ、手遅れになる。気づけば、牛の刀はかつてないほどの電圧を纏っていた。牛はありったけのマナを込めたのだ。

 渾身のマナをこめた一撃は敵の首を確実に切り裂いた。

 敵の首が転がる。そして、それとほぼ同時に牛の意識が途切れた。



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