お姉ちゃん
「ウインドランス!」
首を失ってなお魔法を放とうするぬいぐるみの腕をリサが切り落とした。地面に落ちた腕から魔法の光は消えていくが、首と片腕を失っても、ぬいぐるみ本体はまだ動いている。
「あれだけやっても倒れないなんて……」
リサは驚きを隠せなかった。
アドラは倒れたウマメンの様子を見た。ここからでは生きているのかどうかも分からない。アドラは尋常ではない量の冷や汗をかいていた。
「さて、敵が一人減ったところですし、あなた達はあの娘をそろそろ追いかけなさい」
人形がぬいぐるみに指示を出した。、二体のぬいぐるみがナコの方を向いた。しかし、一体は足を氷漬けにされているので、うまく動けない。
「おやおや、そういえば凍っていたのでしたねぇ」
人形が一歩踏み出すと、足の氷は何事も無かったかのように外れた。それからぬいぐるみの足の氷を風魔法で砕く。
「行かせません!」
リサがぬいぐるみたちに向かって詠唱を始めたとき、人形は自分の腕に氷の刃を纏わせ、高速で突っ込んできた。
「硬化!」
金属音が鳴り響く。アドラが人形の刃を拳で受け止めたのだ。硬化魔術は体の部位を鋼鉄のように固くすることができる。
人形は攻撃の手を緩めない。高速移動を繰り返し、アドラがリサを抱えている右腕側から追撃する。アドラは素早く体の向きを変えて氷の刃を受け止めた。
しかし、さすがのリサも詠唱が止まってしまった。高速での戦いにおける瞬間的な振動は、走っているときの比ではない。そうこうしている内に、ぬいぐるみ達がナコがいる方に向かって走り出してしまった。
しかし、人形が絶え間なく攻撃を仕掛けてくるので、アドラがそれに対応していると、抱えられているリサも詠唱ができない。
「アドラさん、詠唱ができません。一度降ります。」
しかし、アドラは中々リサを抱える手を緩めようとはしなかった。その間に、ぬいぐるみたちはどんどん遠ざかる。
「? ……ちょっとアドラさん! 早く降ろしてください!」
リサがアドラの顔を見ると、アドラの呼吸は不自然に乱れ、下唇は小刻みに震えていた。明らかにいつもの様子では無い。
「こいつらは危険だ。俺の手から離れて、お前を守りきれるか分からない。また、リーシャのように……」
「まだそんなことを言っているのですか?! お姉ちゃんは覚悟ができていました! 私にだってそれくらいの覚悟はできています! 今はそんなことを言っている時じゃありません、このままじゃ、ナコちゃんが危険なんですよ! 今は私がお姉ちゃんとしてナコちゃんを守らなきゃいけないんです!」
リサが激昂すると、アドラは唇をかみ、それからようやくリサを離した。
リサはアドラの肩から飛び降りて地面に足をつける。既にかなり離れてしまったぬいぐるみに向けて詠唱を始める。
「許しませんがねぇ」
人形は詠唱を止めようとリサに切りかかった。アドラはその刃を止める。
「アイス!」
発動したリサの魔法は、既に首の無くなったぬいぐるみを氷漬けにした。その隣を走るもう一体のぬいぐるみに向かって再び詠唱を始める。
「人間ごときが……」
ここまで攻撃を防がれ、イラついた様子の人形が、少し離れた場所に倒れているウマメンを横目に見た。
アドラは人形がウマメンを攻撃するつもりなのだと察した。その直後、人形はウマメンとリサに向かって同時に氷の礫を投げつけた。
アドラは予測していたウマメンへの攻撃を潰したが、リサに向かう氷の礫には間に合わなかった。
「リサ! 避けてくれ!」
リサは間一髪で人形の攻撃を避けた。しかし、詠唱は魔法を発動する前に止まってしまった。もはや、ぬいぐるみは魔法の届く範囲にはいない。リサは焦った。
「アドラさん! まずはこいつを倒しましょう! それからすぐに二人でナコちゃんの元へ!」




