作戦開始
昼下がり、街の南側にある平原に少女は一人立っていた。戦闘になっても周りに被害が及ばない場所であり、犯人が見つけやすい場所、さらに、帝国騎士団が駆けつけるのに時間がかかる場所としてこの場を選んでいた。
作戦を決行する直前、リサは心配そうに声をかけた。
「ナコちゃん、少しでも危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね、本当は私が囮になれればよかったのですが……」
アリスに化物と言わしめた実力を持つリサだったが、単純なマナの量はそこまで多くなく、平均的な魔道士レベルだ。犯人がどの程度の相手を狙ってきているのか不明だったが、もし犯人が本当にマナの多い相手をターゲットにしているのならば、ナコは喉から手が出る程ほしいはずだ。ギルドのメンバーが捕まり、なるべく早く無実を証明しなければいけない一行は、より成功率の高い選択をせざるをえなかった。
「はい、大丈夫です! モーくんのためですから」
リサはナコの手を両手でギュッと包んだ。
「必ずナコちゃんを守りますからね、私はナコちゃんのお姉ちゃんですから」
「はい」
ナコは照れながらも嬉しそうに返事した。
全員が持ち場に移動する。犯人に気づかれないように、数十メートル離れた草陰にアドラたちは隠れる。
ナコが杖を構え、詠唱に入った。ブツブツと声に出している。町の換金所に出かけるだけの予定だった一行が持っている武器は、今朝、逃走中にアドラがつけで手に入れた杖と、牛が肌身離さずもっている果物ナイフだけだ。その一本の杖は、敵をおびき出す可能性を上げるため、より派手な魔法を使えるようにナコが装備していた。
「ファイア!」
ナコの前方に炎が上がる、そしてその範囲はどんどん広がっていく。マナをより強く込めようと息を吐くと、メラメラと音を立てながら更に範囲が広がった。
「すげぇ……」
初めてナコの魔法を見るウマメンは感嘆の声を上げた。
ナコは杖をさらに強く握りしめ、力強く踏ん張った。炎の範囲はさらに広がる。ギルドタンポッポの敷地の面積よりも広いだろう。ナコにとっても一度にここまでマナを込めるのは初めての経験だった。
「マナ量が多いのは分かっていたけど……ここまですごいなんて」
「ああ、だが時間が心配だ、あまり長い時間やれば、先に帝国騎士団の方が集まってきちまう。それに、そろそろナコちゃんも限界なはずだ」
事実、ナコは肩で呼吸し、大粒の汗をかいていた。
しきりにアドラは周りを見渡すが、なんの影も見えなかった。
「くっそ、作戦失敗か……、リサ、そっちはどうだ?」
リサはアドラが見ているナコの方角とは反対側を見張っていた。しかしこちらも何も見つけられなかった。
「駄目です。何も居ません」
リサの脳裏に作戦失敗がよぎったとき、ふと空を見上げると、遥か遠くに鳥の影が見えた。
え? あの鳥だんだん大きくなってませんか? というか変な形をして……まるで……ひとがた――――
「空です!! 飛んできます!!」
「!? なにぃ!」
アドラが振り向くと同時に、急降下してくる翼の生えた人形は彼らを横切った。
「ナコちゃんが危ない!!」
アドラとリサは慌てて駆けつけようと走り出した。
人型の翼の生えた物体、つまり人形はナコの少し奥に砂煙を上げて着地した。起き上がりながら振り向きざまにナコを見つめる。
「あなた、素晴らしいマナをお持ちですねぇ」
人形はナコに迫りよる、しかしナコはそれに驚いて魔法をやめた直後だ。全力のマナをつぎ込んだ魔法を出したことは、彼女をかつてないほど疲弊させていた。足がふらつく。
アドラは足に強化魔法を使って全力で走る。しかし、間に合いそうに無い、どう考えても人形の手がナコに触れる方が速そうだ。リサは自分の使える魔法の中から、ここから敵を足止めできそうな魔法を探す。しかし、リーチが足りないか、詠唱が間に合わない魔法しか思いつかなかった。犯人に罠だと感づかれないように、遠くに隠れていたことが裏目に出た。飛んでくるのは完全に予想外だった。
「や……めて……さわら……ない……で」
言葉も出ないほど疲れきり、へたり込むナコに、人形の明らかに人とは違う成分でできた手が触れようとした時――――
「――――ナコにさわるなあああああああ!!」
横から飛んで来た牛がその勢いのままに人形の手を弾いた。そのままナコと敵との間に割り込む。
両手を精一杯横に広げ、人形を睨みつける。ナコを守ろうとする小さなその背中は、いつもより大きく見えた。




