いけませんよナコ
リサ放つ魔法の灯をもとに一列になって進む。乱れた呼吸の音と、3人分の足音が洞窟内にこだましていた。
「もう少しで緊急時の集合場所につく、きっと今頃他のギルドメンバーも集まってるはずだ。」
アドラが迷路のようだと言っていた洞窟は、たしかに入り組んでいて、内部の構造を知らない人が迷い込めば、たちまち遭難するだろう。通路の太さは人一人通るのがやっとといった感じだった。
「あの、アドラさん、この洞窟は一体何なんですか?」
「前にキングアーントを一掃したときに残った巣だ。」
ナコは自分がいる空間の天井や壁をまじまじと見つめた。ここにアーントがたくさんいたと思うと、鳥肌が立った。
「巣って言っても、今は一匹もいないから心配しなくてもいい。キングアーントってのは、アーントの中でも特にでかいやつでな。巣も規格外にでかい。昔うちのギルドで中のアーントを一掃してから、非常時の隠れ場として使っているんだ」
穴の奥の方に灯りが見えた。
「おっ! やっぱりみんなここに来てたか」
灯りのついた広い場所にでると、そこには馬面の男一人だけいた。アドラは神妙な面持ちになる。
「ウマメン、お前一人か、他のみんなは?」
「30人くらいの騎士団員が来て、俺以外はみんな捕まった。俺はたまたま外に出ていたから逃げてこれたけどよ…… なぁアドラさん、一体俺たちが何をしたって言うんだ? あいつらろくなも説明しないでみんなを連れて行きやがったんだ」
「それは……」
アドラは説明しづらそうにした。
「私がいけないのです! こんな得体の知れないぬいぐるみがギルドに関わったばっかりに、皆さんにご迷惑を……」
「それは違いますよモーくんさん! あなたは何も悪くないはずです!」
自分を責める牛をリサが止めた。
「モッさん? リサさん、アドラさん、一体何があったんですか?」
状況が一向につかめないウマメンに、アドラはここまでの経緯を説明した。
「動くぬいぐるみが魔道士を誘拐している……? そんな馬鹿な話って言いたいところだけど、実際にモっさんが目の前にいるわけだもんな。帝国騎士団も無視はできないか」
「捕まったメンバーの尋問担当が厳しい人じゃないといいんですけど……」
リサは心配そうな顔をした。
「あの、さっきから気になっていたんですけど。どうしてアドラさんとリサさんはそんなに帝国騎士団に詳しいのですか? さっきもあの指揮官と知り合いみたいでしたし」
「隠そうとしてたわけじゃないが………俺とリサは昔、帝国騎士団に所属していた。そんでマーは、その時の部下だ。」
牛もナコもそれほど驚かなかった。帝国騎士団のレベルの高さは知っていたが、それを相手に互角以上に渡り合う二人の様子を、目の当たりにしたばかりだ。これでただの低レベルなギルドの主、という方が違和感を覚える。
ウマメンはすでにそのことは知っていた様子だ。
「そんな話は今はいいんだ。そんなことよりモっさん、あんたとはウマが合うからこんなことは言いたく無いけど、本当にやってないんだよな?」
ウマメンは牛の目を見て言った。ウマメンは仲間に手荒な真似をされているのを見て、それでも奥歯を噛んで逃げてきたばかりだ。今ごろキツイ尋問を受けているかもしれない仲間たちのことを思うと、気が気でなかった。
「私は誓って誘拐なんてやっていません、そんな事件があったことも知りませんでした。」
「牛っころはやってねぇよ。依頼をこなしていたアリバイもあるが、第一この体で大人の魔道士を捕まえて連れ去らうなんてできるわけがない」
「それはそうか…… モっさん、疑ってすまなかった。でも、じゃあどうするんですかアドラさん! 仲間たちが今頃、キツイ拷問を受けてるかもしれないんですよ、早く助けてやらないと!」
ウマメンの不安でいっぱいの表情を見て、牛は口を開いた。
「やはり、私が帝国騎士団に行きます。何もしていないのですから、すぐに無実が証明されて……」
「奴らのとこに行くのは辞めたほうがいいぞ牛っころ、容疑はすぐ晴れるだろうが、動くぬいぐるみが犯人の手がかりとか言っていたからな。体を隅々まで切り裂いてでも実験データを集めるだろう。そんで結果的に二度と目を覚まさない……なんてことも有り得る。帝国騎士団は甘くねぇ、これ以上被害者を出さない為にはためらわねぇよ」
アドラの言葉を聞いて、ショックを受けたナコは口元をおさえた。ナコの悲痛に満ちた表情を見て、牛は何も言えなくなった。
「なら、俺たちで真犯人を捕まえましょうよ、そうすれば、帝国騎士団だって何も言えなくなる。ギルドの仲間たちだって返してもらえる」
「あれだけの兵を動かせる帝国騎士団が束になっても捕まえられない相手だぞ。この人数じゃ無理だ。犯人を捜索している途中で俺たちが帝国騎士団に見つかる可能性の方が高い。」
「そんなこと言ったって、このまま黙って隠れ続けるわけにもいかないでしょう! 仲間たちがキツイ尋問を受けているっていうのに」
ウマメンが声を荒げた。
「それは……何か策を考えるしかないだろう」
アドラが俯く。
「何かってなんですか? 早く言ってくださいよ、こうしている間にも仲間たちが────」
「────ウマメン! アドラさんだって、みんなのことが心配なんですよ!」
リサがウマメンを諫めた。
「す……すいません」
この場でウマメンだけが、捕まる直前の仲間を見ている。それだけに最も危機感と焦りを感じていた。
「私に考えがあります」
ナコに全員が注目した。
「あの騎士団の人は、マナ量の多い人を狙った誘拐だと言っていました。だから私が囮として、大規模な魔法を使えば、犯人をおびき寄せられる」
「────いけませんよナコ!! あなたが囮になるなんて、危険です。」
牛はナコの意見にすぐさま反対した。
「もともととモーくんがギルドに関わらなければ、ギルドの皆に迷惑をかけることにはならなかったんだよ。だから私には責任があるの」
「責任の話をするなら、最も責任を取るべきなのはぬいぐるみの私です! やはり私が帝国騎士団の元に自首します。ナコに危険が及ぶくらいなら、私が尋問でも実験でも受けた方がマシです。たとえそれで私が永遠に目覚めなくなったとしても、その方がずっとマシです!」
「マシじゃない! そんなのあたしが嫌なの! 永遠に目覚めなくなるとか、そんなこと言わないでよ!!」
ナコは顔を真っ赤にして言った。牛が見上げると、ナコの目は今にも涙が溢れそうになっていて、牛は何も言えなくなってしまった。大好きなナコにこんな顔をさせてしまったことが辛かった。
「待ってくれナコちゃん。たしかに君のマナ量は桁外れに多い。本当に犯人がマナ目当てで誘拐をしているなら、誘き寄せることもできるかもしれない。だが、そもそも帝国騎士団が手を焼く相手だ。誘き寄せたところで、俺たちが勝てる保障は無いんだぞ」
ウマメンが口を開く。
「でもアドラさん、さっきの話じゃ、誘拐犯も帝国騎士団と正面切って戦ったわけでは無いんでしょう。あくまで捕獲できないって話だ。それに対して、あなたは元帝国騎士団隊長だ。十分勝てる相手なんじゃないですか。他に手が無い以上、やるしかないでしょう」
「……やむを得ないか」
そう言ったアドラは眉間に皺を寄せている。
「アドラさん、その作戦をやるなら、囮役を私がやるわけにはいきませんか?」
リサが言った。
「いや、リサのマナ量は魔導士としては平均レベルだ。誘拐犯を誘き出せるかは分からない。それに誘拐犯と戦いになった時、リサは重要な戦力だ。誘き出すためにマナを浪費させるわけにはいかない。」
「そうですか……。ナコちゃん、必ず私たちが守りますからね。」
リサはナコと目を合わせて言った。
その後、作戦を組み立て始めた四人の話を牛はただじっと聞いていた。




