×属性適性
「―――――――というように、この術式を覚えて、頭の中でも声に出してでも詠唱すれば魔法が打てます。複雑なものになるとそうもいかないですが、まずはこの基本のものを撃ってみて適性を見てみましょう。」
リサは以前にも言っていたようなセリフを唱える。決まり文句のようなものなのだろうか。
ナコ、フーシ、牛、リサ、そしてアドラは、フーシに基本的な魔法を教えるためにラビットー平原に来ていた。
「では先にナコちゃんとモーくんさんの魔法の進展具合を見てみましょうか、その間にフーシ君は覚えていてくださいね」
「よし…じゃあ…………」
ナコが杖を構えて何もない平原に向けた
「サンダー」
何も起こらなかった
心地よい風があたりに吹いている
その後いくつかの魔法を試したが、発動するものはなかった。ナコは明らかに不機嫌な態度を示した。
「ナコちゃんは火属性適正だけみたいですね、でも落ち込まないでください、その分火属性魔法を極めればいいんですから」
ナコは自分の機嫌の悪さを気にさせてしまったことに気づき、両手を後ろに組んで杖を持ち、目をそらした。
「では!次はモーくんさんですね」
こころなしか声は高くなったようだ
「はい、ではサンダー!さらに帯電!」
牛は背中に背負っていた果物ナイフに帯電させた
「わあ!素晴らしいですよ!モーくんさん、以前よりもモーションが早くなってますし、電圧も高くなったんじゃないですか?」
牛を掲げて抱きつきながら褒め称えた、
「そりゃ金属持ってりゃ黙ってても帯電するだろうよ、それにそんなカエルルがびっくりする程度の電圧で喜ばれてもよー」
アドラがボソッと本音を漏らす
「カエルルがびっくりする程度……」
牛はショックを受けてあからさまに落ち込んでいる
「ちょっとアドラさん!モーくんさん落ち込んじゃったじゃないですか!」
リサが牛をよく褒めるのはその実力がすごいわけではなく、動くぬいぐるみを触りたい口実からであった。
アドラを責め立てるリサの横で、ナコは一人で術式書を眺めるフーシを見つめる。そして彼もまた移動式のサーカスに生まれたために初等教育を受けてこなかったであろうことに思い至った。彼女も覚えたての術式文字の読み方を教えようと、そばに寄ろうとするとフーシの声が響いた
「ウィンド!」
彼を中心として周りの草が渦を巻き始め、彼の体が少し浮いた。風を起こしたのだった。
「フーシ、お前それ読めるのか」
ナコが訊いた
「ああ、初等教育まではサーカスの連中に教わってたからな」
「そうか…」
若干声のトーンが下がった
学校になど行っていなかったはずなのに基礎知識を心得ていた牛のおかげで、フーシのことを初等教育を受けていない仲間ができたと期待していたところもあったのだ。
「しっかり発動できてますね、じゃあ他の属性も見てみましょうか」
その他数種類の属性魔法を試したが、発動したのは最初の風属性だけだった。
「ということは複数種類の属性を持っているのはモーくんさんだけですね、凄いですよー、褒めてあげましょうか」
またも牛を抱き上げるためにジリジリと近づいていく、牛もまんざらでもない顔で照れている。
「んな…複数属性持ってるなんていまどき珍しくもねーよ」
「アドラさんだって火属性適正しかないじゃないですか」
「ほーほー全属性適正持ちの稀代の天才、リサ様は偉いもんだな」
「ぜっ、全属性!!?」
三人は同時に驚いた。
「いや、適正属性が多すぎても良いこととは限らないんですよ、巷では器用貧乏なんて言われますし」
良いこととは限らないにしても、全属性適正持ちの人なんてそうは居ないであろう、それが何故現在落ち気味のギルドにいるのか、ナコは疑問に思った。
そして牛は単純に、自分が複数属性持ち程度でもてはやされたことが恥ずかしくなった。
「あの、あたしがこれからもっと強くなるためには何からはじめたらいいんだ」
「ん?そうですね…ではナコちゃん、炎を出してみてください」
「お、おう!」
ナコは平原に向けて杖を構えた
「ファイア!」
あいかわらず凄い迫力だった。
前方の草は燃えて焦げ臭い。
「あっつ!何だこれすっげえ」
その火を始めて見たフーシは驚いた
「もうナコは一人前なのではないですか」
「それではナコちゃん、炎の中に薄っすらと見えている岩をとかしてみてください」
「おう、」
杖を持つ右手に力が入る。すると炎の範囲は半径3歩分ほど広がった。しかし岩の影に変化はない。そのまま数秒間発動させて止めると、目の前に焼け野原が広がった。岩は焦げ付いて黒くなっていたが形に変化はない。
「はい、凄いマナ量ですね、将来が楽しみです」
リサは微笑んで、一息ついているナコを見る。そうして焼け野原にぽつんと残っている岩に杖を構えた。
「ファイアの術式の場合、マナを力強く込めれば込めるほどその炎の範囲は広がり、長い時間込めれば長い時間発動します。しかし、その瞬間に出る炎の威力は変わらないのです。だから…
────コンデントファイア!」
岩の中心から白い光が漏れ出したかと思った直後、岩の真ん中に穴が空き、向こう側の草原が覗けるようになった。岩は溶けたのだ。
「…術式で操作する、つまりはランクの高い魔法を覚えるしかないのです。とはいえ、それには更に難解な術式文字や理論をマスターしなければなりまs」
「──教えてほしい、どうすればいいんだ?」
ナコは食い入るように訊いた。その目は新たな魔法を覚えられる可能性を見つけてキラキラとしている。
牛は彼女が幼い日に冒険に憧れていた、あの目を思い出した。
「いいですよ、さっきフーシ君が読んでいた魔術書にかいてあるはずです」
ナコは急いでフーシから本を取って!ページをめくり、それらしき項目を開いた。しかし、そこで彼女の手は止まった。
「でも、読めませんよね、ごめんなさい少し意地悪してしまいました。本来この段階には高級学校でも半年程勉強をしてたどり着く魔法なのです。ナコちゃんは少し焦りすぎですよ、そのままではいつか怪我をしてしまいます。」
みんなで少しずつ勉強していくことを約束して、その日は帰った。




