×牛が聞いていたサーカス
ナコをすぐに追いかけた牛ではあったが、ギルドの戸を開けるともうナコの姿は見えなかった。心当たりのある場所に向かいながら、彼の頭の中ではナコが叫んだ名前を反芻し始めた。
「フーシっていうの!」
牛が少女と出会って数日、彼女はその日食べるものを得るために働く場所を探していた。しかし、年端もいかず、何もできない彼女を雇う人はいなかった。そのため毎日のように町中でゴミをあさっては食べられそうなものをもって小屋に帰ってくるのだった。けれども、その日は普段と違った様子だった。
「それでね、今日友達になったそのサーカスがね、フーシに入れてくれるんだって!」
むむむ、なにやらごちゃごちゃになっていますが、どうやら友達ができて、しかもサーカスで働かせてくれるということでしょうか、
良かった…本当に良かったですよ
毎日落ち込んで帰ってくる彼女を見て心を痛め、少しでも安心させようとした牛の口調はすっかり変わっていた。だからこそ、その希望を見つけた姿は彼を安心させた。
「親父さんはね、これから泊まっていってもいいって言ってたんだけどね、ナコはモーくんいるからやっぱり帰ってきたの!」
親父さん?サーカスの主様でしょうか、これは一度挨拶に……はいけませんね
「そしたらね、晩御飯持ってっていいって!」
テーブルにサンドイッチをだして食べ始める
美味しそうに頬張る彼女の姿を見ながら、一度家に帰ってきたその真意は、母親の帰りを待っているからなのだと察していた。
やはりお母さんに会いたいですよね、ナコ…
次の日、朝からナコは出かけていった。
ナコがでてしまうと牛は暇で仕方がない、更には彼女がうまくやれているのか、友達に迷惑をかけていないのか、そもそも信用できる集団だったのかと余計な心配ばかりしてしまう。もし本当にそうなったとしても彼にできることは何一つ無いはずなのに。
夜になると、その心配とは全く別の形で牛はショックをうけることになった。
「そんでよ、今日は料理をしたの、だぜ!」
ほう、料理ですか、雑用などから覚えていく形なのでしょうか、ん?だぜ?
「でもうまくいかなくて焦げんだよ、まじ最悪だよな」
甲高い声と幼い顔に似合わない口調になっている
んーなんですかその言葉遣いは、真似してしまったのですか?女の子なのによくありませんよ
「面白い言葉いっぱい教えてくれたんだぜ、糞、きんたま、アバズレ、自主規制、自主規制、自主規制 意味はわかんないけどな」
─────ッ!??
どこのどいつですかこんないたいけな少女に汚らしい言葉を仕込んだ愚か者は!??
牛の頭の中では大パニックになっているがそれは一切表にはでない
「フーシのジャグリングはすげーの!手品とかもできるし料理も掃除もできてナコと同じくらいなのにね」
ああでも口調はまだ以前のものとごちゃごちゃになっているようですね、これ以上酷くならなければ良いのですが、しかしながらナコが生きていくためには彼らに頼る方がまだましですよね、私など声を上げることもできないのですから…
それにこんなに楽しそうに友達のことを語るナコを見るのは初めてですし悪いことばかりじゃないはずです。
次の夜
「モーくん!!これフーシにもらったの、だぜ………じゃなかった、、だよ?」
ナコはカラフルな赤、青、緑の玉を取り出した、語尾をなんにするのかで迷っているようだった
「これね、ジャグリングっていうの!それでねフーシが教えてくれるんだ」
ほお、これがジャグリングに使うものですか、それにしても少し言葉が前に戻っているようですね
「あとね、周りのおじちゃんたちは変な言葉いっぱい使うんだけど、フーシは女は使うなっていうの、これ貰ったからナコは使わないことにしたんだ」
おおお!フーシ君ナイスですよ、そうです女の子にはふさわしくありませんものね、
小さいのに大したものですね、立派ですよ、
「あとね、フーシの親父さんはサーカスのリーダーなんだけどね、フーシはいつか超えるんだって、すごいよね!ナコも掃除とか料理とかジャグリングとか頑張るんだ!」
そして数週間通い続けたある日
「明日はね、サーカスお休みの日だから家にいていいんだって、」
休み、ということは明日は日中も暇することはなさそうですね、最近は夜しかナコが話しかけてくれなくて寂しいものです。
そして一日、ナコはここ数日にあったことを牛に語りかけた。牛は同じ話を既にきいていたがその楽しそうな顔を見ているのには飽きなかった。
そして翌日、ナコがいつものようにでかけると、珍しく昼間に帰ってきた。
「サーカスが…………無いの」
ナコの目から涙が溢れている
??、それはどういうことでしょうか
「近くにいた人に聞いたらね、昨日サーカスが移動日だったんだって、もう遠くの国に行っちゃったんだって……」
牛の座る本棚の前にぺたりと座りむ
久しぶりに見るナコの悲痛に満ちた顔だった。
「ナコ、また…また捨てられちゃったのかな、ナコはみんなにとっていらない人なのかな?……もうフーシには会えないのかな」
立ち上がり本棚の上の牛に手を伸ばす、牛を抱きしめて泣きわめく、また出会ったばかりの頃に逆戻りだった。
その後も毎日のように帰ってきては思い出し泣いていた、しかし前とは違い、掃除などの雑用の仕事をもらえるようになった。サーカスのもとで教わったことで仕事ができるようになったのだった。
それから数年経ってもフーシたちからの連絡もサーカスがこの街に戻ってくることもなかった。最初は泣いてばかりだったナコは次第に置いていかれたことに怒るようになり、
「シーフが先に嘘ついたんだから、ナコも約束なんて守らないもん、…守らねぇよ」
と言ってサーカスで真似した言葉遣いも、無理に使っているうちに体に馴染んでいった




