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十六


「メシアまでついてくる必要はなかったですよ」

≪いいじゃない、あそこにいると誰とも会話できないし暇なのよ≫


 メラリィさんたちと話をしてから二日後、パフィルネールさんの案内で一路聖都へと向かっていた。

 ただ予想外だったのはメシアまで付いてきたことだ。ま、餌は勝手にどこからか採ってくるし、今だってお弁当と言いながら頬袋をぱんぱんに膨らませているから面倒を見る必要はない。むしろ俺に果物を採ってきて欲しいくらい。

 それはそれとして、やはりこれから向かう聖都は危険なのだ。内戦がいつ起こっても不思議じゃないらしいしな。

 そんなところへ何の対抗手段も持っていない愛玩動物のメシアが行けば踏みつぶされるんじゃないか?

 だが俺の杞憂をあっさり蹴るメシア。


≪私は愛玩動物だし、きっと誰も私なんて目もくれないと思うわよ?≫


 確かに怪しい人間なら目を付けられるけど、小動物がうろちょろしててもどこかの家か店から逃げたのか、としか思わないか。

 うーん、いいのかなぁ?


「何をぶつぶついっているのだ?」


 メシアとこっそり会話していると、先導してくれているパフィルネールさんが声をかけてくる。

 この人、後ろから見ているけど、なかなかきわどい鎧を着ているんだよな。背中に弓を背負っていて革の鎧というダークエルフっぽい装備と服装なんだけど、軽さを追求しているのか部分鎧だけで、足とかモロ出しなんだよな。

 肝心な部分はちゃんと隠しているけど、ちょっと目の保養に……って、違う、尋ねられているんだった。


「あ、いえ、なんでもありません」

「ふむ、そうか。それよりこのペースだと遅いし、もう少しあげたいのだが構わないか?」


 うぇ!? 今でも結構ハイペースなんだけど……。

 ここはやはり自転車を作るべきだよな。そうすりゃ移動もかなり楽になるだろう。馬などの生き物でもいいけど、維持費かかるし。

 いやいやそれよりも、分速数千回くらい爆発系の魔法を連発できるのならエンジンだって作れるし、自動車も夢じゃない。……分速数千回って無茶だな。


「今でもかなりきついです」

「うーむ、ケイも鍛錬は必要じゃないか? 今度暇があれば付き合うぞ」

「は、はぁ……ちなみにその鍛錬ってどのような事をやるのです?」

「基本は走り込みだ。冒険者はいかに体力を持続させるかが勝負だからな。いざという時疲れてまともに動けない、というのは致命的だ。軽く二時間ほど走ってから一時間ほど武器の鍛錬、それを一日三セット。肉体をいじめ抜き、繰り返せすことで徐々に限界が上がっていく。自分の力が上がっていくのは楽しいぞ? それに食事も美味くなる」


 ものすごく楽しそうに、更に笑顔まで見せてくるパフィルネールさん。

 なんだよその体育会系のノリは。三時間を三セットってそれだけで半日終わるじゃん。

 でもパフィルネールさんって見た目すらっとしていて筋肉がついているように見えないけど、触ったら鋼のような感触がするのだろうか。


「さすがにそれは辛そうです」

「そうか? 半年も続ければそれなりに体力はつくと思うんだが」


 ま、そりゃそうだろうね。特にこっちの世界の肉体スペックは高いからなぁ。

 なんせこの身体だって元の身体に比べりゃ雲泥の差だ。

 でもそんなメニューをこなす自信は全くない、精神力が続かないよ。


「しかしさすがにアタシではラッティーネのようにケイを背負って走るだけの体力はない。しかしこのペースだと二日ほど余計に時間がかかってしまうが……ふむ、途中で馬でも借りるか?」

「あー、実は馬は乗ったことがありません」

「心配するな。ケイはアタシの後ろに乗っていればいい。アタシはともかくケイは体重も重くないだろうから一頭で十分だろう」


 体重……そういやどれくらいなのかな。体重計ないから分からん。

 でもパフィルネールさんだって身長はあるけど、ほっそりしているしそこまで重くはなさそうだが、中にみっちり筋肉が詰まっているのかな。

 ま、馬があるなら楽できそうだ。


♪ ♪ ♪


「ほら、しっかりアタシに捕まって! 足も馬の背を挟み込むように力を込めて! 更に走るのに合わせて上下に身体を動かす!」

「ちょっ、む、無理ですっ!」

「しっかりしないと落馬するぞ」


 馬に乗れば楽になる、そう思ってた時期が……以下略だ。

 なんだこれ、めちゃくちゃ辛い。思っていた以上に速く走るが、その分地面からの衝撃がまともに尻へくるから痛い。更に鞍なんてないからパフィルネールさんのお腹に必至でしがみついてる状態だ。

 思ってたよりパフィルネールさんは柔らかかったけど、そんな感想自体が吹っ飛ぶような状況である。


 馬を借りる、と言ってから四時間ほど、次の宿場町というか宿が数件並んでいる小さな村のようなところに着いた。

 俺がいたところは聖国から一番近い街だが、それ故に交通の要所であり旅人商品も多く、何かの祭りがあった時など宿が満席になるらしい。そのため比較的近場にいくつか仮の宿場町を設けたそうだ。

 素直に街を拡張すればいいのに、と思ったけど土地の利権とか水問題、領主や周囲の意向とか色々とあって衛星都市ならぬ衛星宿場町となった。

 俺の足では四時間かかったけど普通の旅人なら徒歩三時間ほど、走れば一時間程度で付くそうだ。

 何となく距離的に二十キロ弱ってところかな、ってか二十キロを走って一時間ってオリンピック出られるようなレベルだな。肉体のポテンシャルが違いすぎる。

 あと馬を借りる値段、とても高かった。

 何でも買い上げと同じ額を請求され、馬を五体満足で返した時にレンタル料を差し引いた金額を返金されるんだって。そうしないと途中で捨てられたり怪我を負った時に問題があるからだそうだ。

 

 ま、それはともかく尻が痛い。

 でもおかげで宿場町を出て翌日には国境にたどり着くことができた。


「では国境門で審査を受けるが……そうだな、ケイは見聞を広めるために旅をしていて護衛としてアタシを雇った、というのが一番か。幸いケイは見た目はどこかの貴族に見えるし、着ている服も酒場の給仕とは思えないほど立派だし概ね問題はなかろう。愛玩動物のスクリウムもいることだからな。突っ込まれるとすれば金持ちのお嬢様がアタシしか付き人がいない点だろうけど、そこはどうにかしよう。執事がいたが途中怪我を負って置いてきたといえば済むと思う」


 下馬したパフィルネールさんと俺は、遠くに見える国境門を眺めながら打ち合わせをしていた。

 打ち合わせといっても俺は経験豊富な彼女の案を聞くだけだがな。


 ただし国境の門番に俺が使徒だってばれると面倒な事になりそうだし、それに俺なら正規のルートで通る必要はない。


「心配ありません。私がこっそり国境を越えられる術をかけますので、あそこを通る必要はありませんよ」

「……どういう意味だ?」


 ダークエルフの整った美しい顔が困惑になる。

 メシアも言ってたけど、女神カサライデの結界が張られている国境は力押しではまず通り抜けられないのが一般常識だ。

 しかし俺はあそこを通り抜けた実績があるのだ。その時メシアも通れたのできっとパフィルネールさんもいけるはず。

 更に今回は女神本人から直々のお願いを聞いてここへ来ているのだ。祈ればあっさり通してくれるだろう。


「女神カサライデの結界をこっそり通り抜けられる、ということです。でも人目につかないよう夜まで待ちましょう」


 俺がにっこりと笑うと、首を傾げつつもパフィルネールさんは了承してくれた。

 きっと俺が女神カサライデの回復を使い、同胞たちを癒した実績があるからだろう。


 別に夜じゃなくても人目につかないところから通り抜ければ良いんだけど、尻が痛いので休憩したいってのが本音だけどね。




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