十五
やっと後半戦。文字数も五万ちょっとですし、十万文字以内には収まりそうかな
翌朝、早々にラッティーネさんを介してメラリィさんの部屋を訪れた。彼女は朝なのにも関わらず普通に出迎えてくれ、お茶まで出してくれた。
聖国へいくならやっぱり情報は欲しいし、メラリィさんはパフィルネールさんを雇って情報を集めていたらしいしな。それに彼女は俺の事を理解している人だ。味方、とは言えないし謎の多い人だけど、俺に興味を持ってくれているうちは庇護をくれるだろう。
ということで、聖典を燃やすようカサライデに頼まれた事を伝えると、彼女は殆ど表情を変えずお茶をゆっくり飲んでいた。
「なるほどねぇ、夕べ変な力を感じたのは知ってたけど直接カサライデと話をしてたのか」
「分かるのですか!?」
「ああ、そりゃ分かるよ。この家はボクの縄張りみたいなものだしね」
事前にある程度知ってたからこんなに優雅にお茶飲んでいたのか。それは凄いな。
縄張りというか結界みたいなものがあって、そこを通り抜けると分かるとか、そんな感じなのかな。
「そういう訳でして、聖国の聖典とやらを燃やすために聖国へ行こうと思っているのですけど、何かしら情報を知ってたら教えて欲しいのです」
そう頼むと彼女は少しだけ考える仕草をし、そして周りを固めているラッティーネさんたちの顔を順番に見渡す。
なんだか不穏な空気が生まれた。
カチコミいくぞごるぁ、って暗に言っているような顔つきである、こえぇよ。
「聖典を燃やすなら壁を壊すって事だよね、なら大歓迎だ。最近あそこは調子に乗ってるから、一度きつーいおしおきが必要だと思ってたんだよね」
目を細めいかにも楽しげな笑みを浮かべるメラリィさん。ラッティーネさんたちも頬が緩んでいる。
いやいや、確かにラッティーネさんは強いと思う。
でもおしおきって、国相手に喧嘩売るのかよ、本気か?
「つい先日パフィルネールが持って帰った情報を教えてあげるよ。ラティ、頼んだ」
「畏まりました」
「それと、残念ながらラティは聖国には入れないからね。パフィルネールが後日また聖国へいくから、その時ついていけばいいよ」
あ、そうなんだ。ラッティーネさんが一緒ならちょっと怖いけどその分頼もしいと思ったんだけど。
まあ彼女はメラリィさんお付きの人で長期間ここを離れる訳にはいかないのだろうし、なんだか指名手配喰らってそうな雰囲気だし、あの壁があるからこっそり入り込む事も普通はできないだろうし、色々理由はありそうだ。
それにパフィルネールさんだって高ランクの冒険者だし、彼女と一緒なら道中は安全になると思う。
道中はそれで問題ないとして、残りの懸念点だけどどうやって教団に入り込むか。
聖典っていうくらいだし、きっと教団のアジトの一番奥の部屋で厳重に管理されていると思う。いくらざる警備だからといって、教団にとって聖典は命綱のような貴重品だし、そこはしっかり守られていると思った方が良い。
でもこれについては簡単に思いついた。
以前メラリィさんは、俺は使徒だから連中は血眼になって探していると。じゃあ素直に姿を現せばそのまま勝手に連れて行かれるだろう。
捕まった後どういう扱いになるのか、監禁や洗脳されるのではないか、なんて怖い考えも浮かんだけど、一応使徒なんだから丁重に扱われる……と思いたい。ま、多分殺されるって事は無いだろうし、最悪向こうで暫く暮らして隙を見て聖典を燃やせば良いだろう。
ものすごく行き当たりばったりだけど、忍び込むよりは確実だ。
「先日パフィルネールさんが持ち帰った情報ですが、どうやら聖都では大規模な動きがあるらしいですの」
「それってどこかへ戦争を吹っかけるため、ですか?」
「いいえ、聖国の兵士は人相手ですと非常に弱いですわ。回復しか能が無いですし殻に閉じこもっているのがお似合いですわ」
おおう、辛辣。
でも回復が使えるなら一撃で死なない限りゾンビアタックできそうなんだけど、ゲームのように考えたらダメなのだろう。
「聖国は王族と教団は仲が悪いですの。パフィルネールさんの推測では、どうやら使徒を召喚したのにも関わらず発見できていないため、王族から圧力がかかったらしいですの。それを警戒して教団が動き、呼応するように王族もまた軍を招集かけた、と」
「内乱が発生しそうですね」
「ええ、ですが教団と王族の軍では教団が有利でしょうね、なんと言っても女神カサライデの眷属が何人もおりますから」
弱兵同士だと回復がいるだけで差がでると。
お祈り一発で怪我がすぐ治っちゃうんだから卑怯だよな。
……ってまて、よく考えたら使徒が行方不明になったから内乱が起こりそうなのに、俺がそこへ顔を突っ込んだらどうなるんだ?
王族としては教団を疎ましく思っているんだから、この機会に教団の勢力を削りたいって思っている。
教団もそれに対抗するため兵力を集めている。
そこへ俺が、こんちわー、って顔を出したら?
教団は俺を確保したいだろう。使徒が見つかったと宣伝すれば、王族の大義名分なのかは知らないけど文句を言う原因が取り除かれる。
更に使徒は確か眷属を増やせるんだし、単純に戦力の強化にもなる。
じゃあ王族側としては教団の力を削ぎたいと思っているんだから、俺がいくと困ったことになる。なら消しちゃえ、って事になるような気がする。
これってかなり危険じゃね?
教団側に見つかれば良いけど、王族側に見つかったら普通に拉致監禁、最悪殺される。
でも、それを見越して王族側に、一緒に教団やっつけちゃいませんか、と売り込めばどうなる?
なんと言っても女神の使徒だ、王族側に付けば教団の大義名分は失われるし面目もなくなる。
……俺ってかなりキーマンになってね?
その考えをメラリィさんやラッティーネさんに伝えると、軽く却下された。
「確かにケイが付いた方が且つ可能性は高くなるね。でもその後ケイはそのまま取り込まれるよ? ケイにとっては教団の人形になるか、王族の人形になるかの違いだけさ。どちらも聖典は国に取っての宝だからカサライデが破棄したいと伝えてもなんだかんだ言って断られるよ」
「……そうですか。それって女神の意向を無視してますよね」
「はっ、人間なんて所詮そんなものさ。今まで加護を貰っておきながら、カサライデの言う事は聞かない奴らだからね」
そう改めて聞くとダメな国だな、って思う。
じゃあやっぱりこっそり忍び込んで聖典を燃やすしかないなぁ。
「今は一触即発ですわ。それに乗じて忍び込んで燃やすのが一番早いと思いますの」
「そうですよね。でも私にそんな芸当が出来るかどうか」
「教団のフードを深く被っていけばある程度は中へ入り込めるさ。フードについてはパフィルネールに任せれば入手してくれるよ。ま、そこから先は運だけどね」
……運って。
でも途中までは普通に入り込めそうだから、何とかするしかないんだろうなぁ。
取りあえず、これで聞きたいことは聞いた、かな。
メラリィさんもお茶を飲み干して、そしてラッティーネさんが片付け始めた。
俺は立ち上がり部屋から出ようとすると、メラリィさんが声をかけてくる。
「ボクが以前渡したお守りは持っているよね? 最悪の状況になったらそれ握ってボクの名を呼ぶんだよ、きっと何かが起こるから」
あ、イヤリングか、そういえばずっとつけっぱだったな。
メラリィさんの名前……ねぇ。効果あるのかな。
はい、とだけ返事をして部屋から出て行く。背後では妖しい目でメラリィさんが俺を見つめていた。




