十
ちょっと短めです
「それでボクに冒険者たちを雇うお金を出して欲しいと」
「はい、借りた分はここで働いてお返ししますから何とかお願い出来ますか?」
俺はラッティーネさんに頼み込んでメラリィさんと話をして貰える場を設けて貰った。ただし同席するのは俺だけである。
そして今までの経緯を話して金を出して貰えるか、交渉をしてみた。
が、何がおかしいのかメラリィさんは始終笑いが止まらない、といった表情である。
なんだこいつ! 今もダークエルフの女性たちがオークに酷いことをされているかもしれないのに!
でも彼女からすれば全く見ず知らずの人たちだし、助ける義理もないのは分かっている。だからここでメラリィさんの機嫌を損ねる訳にもいかないので、ぐっと堪える。
「ケイにとってダークエルフは知らない奴らばかりだよね。何故ボクにお金を借りてまで助けようとするのかな」
「例え見ず知らずの人たちでも、助けられる手段があるなら何とか助けたいからです」
「仮に助けたとしても君にとって得になる事はない、強いて言えば彼らダークエルフたちと知己になる程度だよね」
「損得の話じゃありません。私はそれが正しい行為、と思っているからです」
「ふーん、そういうところはカサライデの使徒って感じだね。彼女にそっくりだ」
なんだか女神の事をさも知ってそうに言うな。
しかしカサライデって確か三百年ほど昔に人から神になったんだっけ。
三百年前に神様になったと聞くと、意外と最近じゃん、って思うけど現代日本で三百年前だと江戸時代だ。かなり昔なんだよね。
笑いを堪えるようにメラリィさんはお茶を一口飲んだ後、角砂糖を一つ直接口に入れた。
うわっ、甘そう。それに砂糖を直接食べるなんて、思いっきり甘党だな。
思わず大きな目を開いて彼女を凝視する。
対するメラリィさんは逆に目を細め、そして口元を人差し指で抑えながら俺と、隣に立っているラッティーネさんを交互に見た。
「しかし、まさかボクに対して力じゃなくお金を目当てに来るとは思わなかったよ。うん、面白いから協力してあげよう。ラティ」
「わたくしが手を貸してもよろしいのですか?」
「君もここ最近運動不足だろ? 豚どもならちょうどいい相手じゃないかな」
「たかがオーク如き準備運動にもなりませんわ」
突然ラッティーネさんと会話するメラリィさん。
え? え? ど、どういうこと?
俺は金を借りにきたんだけど?
「あ、あの……お金を借りる話しなんですけど……」
「うん、ラティがいればわざわざ冒険者たちを集めなくても簡単にオークたちを駆除してくれるよ。さあ、行っておいで。早くしないと危険なんだろう?」
メラリィさんはこれで話は終わりだと手を振った。それを合図にラッティーネさんに引っ張られ部屋を追い出される。
何故か金を借りに行ったらラッティーネさんをお借りすることになったでござる。
「まじで!? ラッティーネが? そりゃ百人力だな」
「あのメラリィを説得するなんてねぇ……。ま、ラティが行ってくれるなら安心だわ」
一階へと戻り事の顛末をみんなに言うと驚かれた。特にアリエスさんとベイルフールさんが一安心したように力を抜いている。逆に当事者であるパフィルネールさんは疑問を持っているかのようだ。
メシアもいるけど、朝ご飯なのか木の実を囓ってて、こっちの話には興味なさそうだ。
ラッティーネさんは身体を動かすことが嬉しいのか、普段とはちょっと違って顔が緩んでいる。
でもこれからダークエルフ三十人以上を壊滅させたオークと戦いにいくんだけど……本当に大丈夫なのか?
ただアリエスさんもベイルフールさん、そしてパトラッシュさんも、もう終わったも同然、という雰囲気だし、きっと強いんだろう。武器も持っていないけど。
「ええ、メラリィ様から頼まれましたので、今から行ってきますわ。ケイさんパフィルネールさん、行きますわよ」
「え、あ、うん、頼んだぞ」
「は、はいっ!」
≪私も行く!≫
ラッティーネさんに引きずられるように店の外へ出る瞬間、メシアが俺の頭に飛び乗ってきた。
遊びじゃないんだけどなぁ。
♪ ♪ ♪
パフィルネールさんの故郷っであるサレインの森はここから徒歩で一日かからない距離にあるそうだ。
彼女が重傷を負いながらも何とかこの町まで戻って来れたのは、手持ちに体力を回復する薬があったこと、距離がそこまでなかったこと、そして森を抜けた時偶然そこを通りかかった隊商に乗せて貰えた事だったらしい。
確かこの町は貿易を行う商人たちが頻繁に通るようになって栄えたんだっけ。だからか結構人通りはあるようだ。
ま、それはさておき、俺は素人である。旅なんて聖国からここへ歩いてきた一週間くらいしか経験がない。
つまり、何が言いたいかと言えば。
「ケイさん、歩くの遅いですわ」
「いくら旅に不慣れとはいえ、それは遅くないか?」
思っていた以上にこの二人の歩く速度が速かった。
何とかこの二人に置いて行かれないようペースを上げたけど、一時間後にはすっかり体力もなくなって荒い息をしていた。
おかしい。この身体は元の世界の身体に比べ遙かに運動能力が高かったはずだ。それなのに、この二人に追いつかない。
どういうことだよ。
「ケイって何歳だ?」
肩で大きく息をしながら、それでも頑張って歩いているとパフィルネールさんに尋ねられた。でも正直分からない。
鏡を見たときは中学生くらいに見えたけど……でも日本人は童顔だから実際より若く見えるらしいし、それを考えるとこの身体だって中学生くらいに見えるということはもっと年下かも知れない。
ま、どのみち実年齢は二十五なんだし、詐称は間違いないんだから適当でいいか。
「十三です」
「もう少し年下かと思っていたが……。しかしその年齢だと子供ではないな。もう少し頑張るが良い」
あ、十三って事は大人扱いになるんだ。
じゃあもっと下にしてたらどうしてたのだろうか。
と思った矢先、突然ラッティーネさんが俺を担いだ。
「ふぁっ!?」
「ケイさん、この調子ですと夜遅くについてしまいますから、わたくしが運んで差し上げますわ」
え、と思うまもなく俺を肩に担ぎ上げ、今までよりも速い速度で歩き……じゃない、もはやこれは走ってる。
慌ててそれを追いかけてくるパフィルネールさん。
「ちょ、ちょっとまて。さすがにこのペースだと着いた頃には体力がなくなっている!」
「心配ご無用ですわ。わたくしが一人でやりますので、貴女方は到着しましたらゆっくりとご休憩なさってて下さい」
いくらこの身体の体重が軽いといっても人一人担いでいるのだ。三十キロや四十キロくらいの重さはあると思う。体重計ないから知らないけど。
でもラッティーネさんはまるで俺という荷物など無いがごとく軽快に走っていく。
なんだこの人、ものすごい体力だよな。しかもこのペースで走って、更に現地ついたら一人でオークの集団と戦うんだろ?
いったいこの人何者?




