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オンライン講座【ジョブ編】



 理央と手合わせをしてから、三週間が経った。


 たった三週間。


 でも、なんというか。

 妙に長かった。

 いや、別に毎日が暇だったとかそういう話じゃない。


 覚醒者養成プログラム自体はちゃんと続いていたし、学校もあった。


 ただし、全員が同じ日に集まるわけじゃない。


 初級は基礎中心だからか、参加者の都合も踏まえてある程度柔軟に回しているらしい。


 宗介は水曜と週末のどちらかに出ていると言っていた。


 中級は火曜と金曜の18時で固定。


 上級は木曜が基本で、あとは遠征組が別日で現場に 出る。


 だから同じプログラム参加者と言っても、案外顔を合わせる機会は少ない……いや、全くと言ってないな。


 宗介は宗介で初級の方に放り込まれて、基礎だの安全講習だのを受けていたらしい。


 最初は「怖い」「帰りたい」みたいな顔をしていたが、この三週間で少しは慣れたらしい。


 もちろん怖いものは怖いんだろうけど、それでも「知らないままの方がもっと怖い」という気持ちが強く、案外ちゃんと食らいついていた。


 なんだかんだ、あいつは真面目なのだ。


 一方の壬生彩葉。

 彼女は彼女で相変わらずだった。


 上級の内容を軽く聞いてみても、


「別に普通」


 くらいしか言わない。


 いや、普通なわけあるか。


 でも壬生がそう言う以上、壬生の中では本当に普通なんだろう。


 やっぱりちょっと基準がおかしい。


 そして俺はというと。


 いや、まぁ。


 落ち着かなかった。


 正直に言おう。


 かなり落ち着かなかった。


 理央との手合わせ。


 あれは普通に衝撃だった。


 自分より強いやつがいることなんて、当たり前だ。


 そんなのは分かっている。


 でも実際に殴り合って、しかも「あ、こいつまだ全然上あるな」って分からされると、思っていた以上に来るものがある。


 悔しいとか情けないとか、もちろん多少はあった。


 ただ、それ以上に。


 面白かった。


 上がある。

 まだ強くなれる。

 だったらこっちももっと上に行けるってことだ。


 そう思ってしまった時点でもう、俺の廃ゲーマー魂が燃えて燃えて仕方なかった。


 

 * * *



 そしてその週の金曜日。


 火曜と金曜、週二回ある中級プログラムも今日で八回目を迎えた。


 俺は中級おなじみである会議室の壁に背を預けながら、スマホの画面を眺めていた。


 周りにも何人か同じようにスマホを見ている人たちがいる。


 パイプ椅子に座ったり、


 床にそのまま座ってたり、


 俺と同じように壁にもたれてる人もいたり。

 

 おそらく……いや、間違いなく全員のスマホには同じ映像が映されていることだろう。


「覚醒者のためのオンライン講座【ジョブ編】」


 画面の向こうには、三十代前半くらいの男。

 カジュアル寄りのシャツにジャケット。


 背景は白ベースのシンプルなスタジオ。


 国の公式動画というより、なんか普通に登録者数十万くらいいそうな解説チャンネルの雰囲気である。


『はいどうもー。今回は覚醒者の肝となる、ジョブとジョブスキルの基礎について、なるべく分かりやすく説明していきますよー!』


 喋りも軽快だ。


 見る側としてはとてもありがたい。

 

 国のプログラムって、もっとお堅い会議室で、お堅い人間が、お堅いスライドをめくりながら説明するものだと勝手に思っていたからだ。


 でも実際は違った。


 効率重視なんだろう。


 あるいは、こっちの方が若い覚醒者には入りやすいと判断したのかもしれない。


『まず結論からいきましょう。覚醒者はレベル10に到達すると、ジョブが解放されます』


 画面に簡単な図が出る。


 レベル1から9までは、基礎段階。


 10でジョブ解放。


【剣士系】

【魔導師系】

【防御系】

【闘士系】

【支援系】


『ここの種類は、正直まだ被験者が少なくてですね、ほんと未知数なんですよ〜』


 その先で職ごとの成長ルートが分かれる。


『そしてジョブ解放時には、そのジョブ固有のアクティブスキルを一つ得ることになります』


 アクティブスキル。


 その単語に、俺は少しだけ姿勢が前のめる。


『ここで言うアクティブスキルとは、いわゆる必殺技ではありません。そのジョブとして成立するための、基礎を立ち上げるスキルです』


 動画の男はそう言って、画面に例を表示した。


【剣士系:剣理】

【魔導師:魔導回路】

【付与術師:付与領域】


『剣士系であれば、剣を扱うための身体感覚や軌道の理解。魔導師であれば、魔力を扱うための回路や基盤。付与術師であれば、付与を成立させるための領域構築。こういった職としての前提が、アクティブスキルによって立ち上がるわけです』


 なるほど。


 それはかなりゲームっぽい。


 いや、むしろゲームよりちょっと理屈っぽいか?


 でも分かりやすい。


 つまりアクティブスキルとは、単に技を一個覚えるんじゃなく、まずはそのジョブになる仕組みを作るということだな。


『そしてそのうえで、各ジョブに応じた発動スキルを、レベル上昇や訓練の中で少しずつ覚えていくことになります』


 発動スキル。


『こちらは言葉の通り、技です。剣士系なら斬撃技、魔導師なら属性魔法、付与術師なら特定の能力を付与する技、といった具合ですね』


 こっちは分かりやすい。


 技だ。


 ようするに、俺たちが普通にスキルと聞いて想像するやつに近い。


『大事なのは、ジョブ解放はゴールではなくスタートだということです』


 画面の男はそこで少しだけ声の調子を変えた。


『自分のジョブを理解して、アクティブスキルを扱い、発動スキルを増やしていく。その過程で初めて、そのジョブらしい戦い方ができるようになります』


 その説明を聞きながら、俺はふっと息を吐いた。


 いい。


 かなりいい。


 想像してたより、ずっといい。


 レベル10でいきなり全部完成するわけじゃないのが、逆にいい。


 ジョブを得てからが、本当の成長。


 最高じゃないか。


「蓮くん、顔に出てるよ」


「は?」


「いや、すごい楽しそうだなって」


 隣を見ると、藤ヶ谷理央が俺と同じように壁にもたれて普通に笑っていた。


 この間戦ってからというものの、気づけばすぐ近くにいるんだよな。


「別に」


「へぇ」


「いや、まぁ……ちょっとは気になりますけど」


「ちょっとどころじゃなさそうだけどね」


 うるさいとは言わない。

 いや、普通に言えない。

 一応先輩だし。

 でもだいぶうるさい。


 それから動画は終盤に入る。


『最後に一つだけ。ジョブは覚醒者の強さすべてではありません』


 画面の男は、指を一本立てた。


『ですが、今後の戦い方を決める大きな土台にはなります。焦る必要はありません。ただし、自分のジョブを知り、向き合い、理解することは、覚醒者としての成長に直結します』


 そこで動画は締めに入った。


 画面が暗転し、最後に簡単なまとめだけが表示される。


【レベル10でジョブ解放】

【ジョブごとにアクティブスキルを1つ獲得】

【発動スキルはその後、少しずつ習得】


 なるほど。


 かなり分かりやすかった。


 というか、余計に楽しみになった。


 周囲も同じようだ。

 どのジョブがいいだの、自分なら何になりそうだのと、ちょっとした雑談が続いている。


 剣士系が無難だとか。


 魔導師は派手でいいとか。


 支援系は地味だとか。


 好き勝手言っている。


 でも、今の俺にはあまり関係なかった。


 当たりとか外れとか。


 向いてるとか向いてないとか。


 そんなのは、実際に手に入ってから考えればいい。


 でもまぁ、


 自分がなんのジョブになるのかは気になるな。


 この三週間、覚醒者同士の組手や試合などを経て、俺のレベルは9まで上がっている。


 ちなみに経験値についても、この三週間で少し分かってきたことがある。


 といっても明確な数字が見えるわけじゃない。


 あとどれくらいでレベルが上がるのか、そういう親切な表示も一切ない。


 ただ、上がった時だけ分かる。


 体の奥で何かが一段噛み合うような感覚があって、そのあとシステムから通知がくるというだけだ。


 だから正確な経験値量までは分からない。


 分からないのだが。


 それでも、理央と戦った時の伸びがかなり大きかったことだけは分かる。


 俺はこの間、ようやくレベル7になったところだった。


 それなのに、理央との手合わせが終わったあとにはレベル8になっていた。


 勝ったわけでもない。


 倒したわけでもない。


 むしろ、最後まで普通に押されていた。


 それでもレベルが上がった。


 つまり相手が強いほど。


 格上に食らいつくほど。


 戦闘の密度が濃いほど。


 得られる経験値も大きくなる可能性がある。


 あくまで可能性だ。

 確実なものじゃない。


 だがグレハンを何体も倒して少しずつ積み上げていた時とは、明らかに違った。


 理央との一戦はかなりデカかった。


 だからってもう一回やりたいかと言われると、それはそれでちょっと考える。


 まぁそれでも、


「あとちょっとだな」


 それは間違いない。


 ――さてさて、どんなジョブを獲得できるか。

 

 今の俺にはそれだけが、どうしようもなく楽しみだった。

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