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異世界召喚 〜リアルすぎるカードバトルを添えて~  作者: 一刻一機
第二章 ~獣人村の異変~
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第二章 ~獣人村の異変~(3)


 きっかけは流行り病だったそうだ。


 門番の人に起きてもらい、俺とキリアは、集落中心にある、他のテントよりもかなり大きく立派なテントの中に連れて行ってもらった。

 そして、その中で『長老』と呼ばれた老人から、門番が求める「助け」について話を聞かされたのだ。

 長老の周辺には、数人の男女が険しい顔で俺達を囲むように座っているが、害意等は感じない。

 むしろ、切羽詰まった、縋る様なような表情だった。

「始めは、ただの風邪かと思っておりました。しかし、どうやら伝染病の一種だったらしく、次々と寝込む者が増え、そうなればやがて元気な者が看病と狩りにと疲労で倒れ……元々人数が多くありませんからな。あっという間に、この村は立ちいかなくなりました」

「私達の国にご相談いただければ……」

「いえいえいえ!まさか、聖樹様の国にやまいを持ち込むこどなぞできませぬ。ですが、確かに村の中には、外に助けを呼ぶべきがと主張するものも多数おりました。そして、その中の一人が、先走って帝都へ薬を買いに行ってしまったのです」

 獣人の長老は渋い顔でかぶりを振った。


 話の途中になってしまうが、ここで『獣人』の容姿について伝えておきたい。

 結論からすれば……別に『獣人』じゃないじゃん。と声を大にして言いたくなるようなものだ。

 別に頭部が動物だと言うわけでもないし、獣耳けもみみが生えているわけでもない。

 まあ、冷静に考えれば人体の構造上、マンガやアニメのように頭頂部近辺に耳が生えるのはありえないとわかってはいるんだけどさ……期待したっていいじゃないか。だって異世界だもの。

 男女を問わずちょっと毛深く、種族によっては尻尾が生えている点がせめてもの特徴らしいが、尻尾を確認するには下半身を露出してもらわなければならないので、尻尾を見たいと言えば間違いなく変態扱いされる。

 容姿だけに限って言えば、服さえ着ていれば完全に普通の人間である。


 だからだろう。

 その帝都に行ってしまった獣人も、どうせばれないと思ったに違いない。

 しかし、獣人の集落では、魔物モンスターの皮を使った見る人が見ればわかる、特殊な民族衣装を着ているのだ。

 その薬屋(異世界にもあるのか!)でも、あっさりと獣人だとばれたらしい。

 だが、薬屋の店主は獣人だからと言って差別をせず、むしろ獣人の集落まで来て診察をして、より正確な薬を調合してくれる話になったとか。

 喜び勇んだその若い獣人はさっそく薬師を連れてきて、渋る長老を説き伏せ、薬を作ってもらった。

「最初は、多少は体力のある若い衆にその薬を飲ませました。すると、これがまたあっという間に元気になりまして、しかも薬を格安で譲ってくれると言うではありませんか。我々は、薬師に感謝し、その薬を大量に譲り受けました。それで最初は次々と、皆が元気になりこの村は助かったのだと思いましたが……」

「薬で元気になったの、良かったのではないですか?」

 キリアは単純に何が悪いのかわからなかったようだが、俺はその薬師の行動に裏を感じていた。

 単純に聖人のような人物だったのかもしれないが、知能犯罪の横行する現代日本で育った身としては、あまりにも親切過ぎるように感じたのだ。

 ちなみに、アヴェルとは話の途中で寝てしまい、話そのものを聞いていない……

 キリアの不思議そうな顔と、アヴェルの子供らしい寝顔を見ていると、俺一人がけがれているように感じてしまう。ただの被害妄想だろうか。

「むしろ薬が効きすぎてしまったのです。その薬を一度飲んだものは、気分が高揚し、空を飛ぶような快感を味わう程で、一度でもその薬を飲んだ者は、すぐに何度でも同じ薬を服用したくなるようなのです」

「そ、それって……」

 一気に背筋が凍りついた。

 俺の予想が正しければ、「ソレ」は間違いなく薬ではない。

 いや、「クスリ」は「クスリ」なのだろうが、決して人間を治療する目的のものではないはずだ。

「しかも、服用回数を重ねる毎に効果が薄くなるらしく、更に薬を求めるようになり……遂には、その薬師に借金をし出すものまで……」

「借金って……もともとこの集落は自給自足が基本でしょう?」

「はい。だからこそ……非常に困ったことになりまして……」

「あ!!ま、まさか……あんたら!」

 俺は立ち上がって、長老を睨み付けた。

 気づいてはいけない、一つの予想に辿り着いた。

 そして、恐らくそれは当たっている。

 当たってしまった、はずだ。

「ミ、ミナト?どうしたの急に、まだ話の途中よ。失礼だから座り……」

「キリア……いや、長老様。ひとつ俺の質問に答えてくれ。


 あんたら、仲間を……いや、子供達をどうした!?」


「え?」

「……」

「ちょ、ちょっとミナト……貴方何を?今はその薬の話を……」

「だから、その『クスリ』を手に入れるために、『何』をその薬師に売ったのか聞いているんだよ!答えろじじい!!」

「ま、まさか!?」

 キリアの両目が開かれ、長老も周囲の獣人を見回したが、誰も彼もが顔を伏せこちらに目線を合わせようとしない。

 いや、中には泣いて顔を上げる事が出来ない者もいるようだ。

「はい。子供達は借金のかたに、帝都に連れて行かれました……こ、この村はもうお終いです。子供達がいなくなれば、もう我々の生きる意味も……」

「なんでそれを解っていながらそこまでして薬を……それに子供達が連れて行かれるのを黙って見ていたんですか?そんなの、ガロ様がお許しになるはずがありません!」

 キリアが思わず立ち上がり、全員を睨み付けた。

 握った拳の強さから怒りの感情が伝わってくる。

「実は……ガロが最も薬の影響を受けておりまして……」

「え……ガ、ガロ様が?では、ガロ様は、それにサリーとコリーは……?」

「ガロは勇者として率先して薬の実験台になったため、一番薬の影響を受けてしまい……今は薬が手に入らなくなったせいで発狂し暴れ出したため、已む無く牢に繋いでおります。サリーとコリーもまた、他の子供達のために率先して身を売りに……」

「そんな……」

 キリアはショックのあまり、よろめき床に座り込んだ。

 顔は蒼白になり、吐き気をこらえるように手で口を押えている。

「俺の知っている『クスリ』と同じなら、それは薬が手に入らなくなって発狂したんじゃなくて、薬の効果が切れ始めた時に発症する禁断症状だ。牢に繋いだのは正解だったな。今度は自傷行為も始めるから刃物の類は全て取上げた方がいいぞ」

 何が愉快で明るい獣人の集落だ。

 不愉快だ。

 女子供を犠牲にして『クスリ』に手を出した挙句、「勇者」がヤク中だと?

「確かに自らの身を傷つけ始めましたので、武器はおろか爪も切ってなお後ろ手に縛り、鋭い牙を抑えるための猿轡さるぐつわまで噛ませております。キリア様のお連れ様は、随分と博識でいらっしゃいますが、もしやあの薬がどういったものかご存知で?」

「俺だってプロじゃないから、そこまで詳しくは無いが……俺が知っている『クスリ』と同じような物なら、それは少なくとも病気を治すような物じゃないぞ」

「「え!?」」

 長老を含む獣人達とキリアが、驚いた顔で俺を見た。

「その『クスリ』は精神を昂らせたりするだけの効能で、基本的にはただの毒のはずだよ」

「毒!?あれは、毒なのですか!?ですが、実際に病が治ったものも多数おりましたよ!?」

「これは予想だけど、多分あんたらの食事は肉食がメインだろ?ちょっとした病気でもきちんと栄養バランスを摂らないと病が重くなる事もあるんだよ。だから、毒と一緒にビタミン剤でも混ぜでやれば、基礎体力次第だけどあっという間に治るさ」

「びたみんって何かしら?」

 キリアが手を挙げて質問してきた。

「えーと、野菜とかに含まれている健康にいい成分だよ」

「た、確かに我等はあまり、菜食を好みません。それに、ここは開拓地ですから一から畑を起こすのも大変で……」

「そんなの知るか!それで子供達を売り飛ばしたってんなら、何の言い訳にもなるかよ」

「面目次第もございません……」

 俺の言葉に長老はただただ項垂れるばかりだ。

 しかし、『クスリ』のせいだったとは言え快楽に負け、子供を身売りさせるような連中にかける優しさを俺は持っていない。

「貴様!さっきから黙って聞いておれば、長老様に対し無礼だぞ!」

 だが、さすがに言葉が過ぎたのか、周りにいた獣人男性の一人が立ち上がり、怒りに染まった眼で俺を睨み付けてきた。

「ああん?無礼だ?馬鹿かあんたら。敬われたかったら『クスリ』の快楽なんかに負けてんじゃねえよ!人間とけだものさかいってのはな、理性があるかどうかなんだぜ?『クスリ』の快楽に負けたあんたらはけだものだ!誰がけだものに礼を尽くすかってんだ」

「ミナト!それだけは言っちゃいけない!」

 キリアが、俺を慌てて止めたがもう遅かった。

 それに俺は解っていて言ったのだ、獣人族に対し『獣』呼ばわりは最大の侮辱になる。

 道中キリアに聞いていた話だった。

「小僧ぉ!我らがけものだと!?いい度胸だ!この刀の錆びにしてくれるわ!」

「はっ!腹が立ったらすぐ殺すって?この短絡さは、やっぱりけだものだな!」

 俺も立ち上がり、その獣人に殺気を込めて睨み返した。

 どちらともなくテントから広場に出ると、相応の距離を持って対峙する。

 改めて俺の前に居る獣人を見ると、黄土色の短髪を刈り上げ、細長の眼と大きめの口をした彼は、恐らく猫か獅子に属する獣人ではないだろうか。

 ぱっと目では普通の人間と変わらないが、やはりどことなく元となった動物の名残を感じる。

「タパナ!止めなさい!キリア様のご友人じゃぞ!?」

 長老も周りの人に支えられながらテントから出てきて、タパナと呼んだ獣人を説得しようと試みるも、彼は全く聞く気がないようだ。

「ミナト!ヤるなら、間違っても殺しちゃダメよ!」

「ミナト、頑張るのじゃ!」

 そして、何故か俺のサイドはやる気満々だ。

 あ、止めるわけないか、あいつ戦闘狂バトルジャンキー兼師匠だからな。

 どうせ、これも良い修行になるとか思っているんだろう。

 アヴェルもいつの間にか起きていたらしく、幼い顔を輝かせて応援している。

 俺は運動会で走るお父さんか何かか?

「いや、キリア様。彼が勝つような口ぶりですが、タパナはこの村でガロに次ぐ実力者ですぞ?さすがにあのような子供では……」

「ミナトは幼く見えるかも知れませんが……あれ?そう言えばミナトって何歳だったかしら?」 

 おい、あいつ俺の年覚えてないのかよ。

 って、そう言えば俺もキリアとアヴェルの年齢を聞いた覚えが無い。

 異世界こっちに来てから、それどころじゃなかったからな……

「キリア様ご安心を。殺しはしません。こやつに少し礼儀と言うものを教えてやるだけです」

 キリア達の会話をどう捉えたのか知らないが、タパナは獰猛な笑みを浮かべ剣を抜いた。

「剣を抜いたな?なら、お前は死ぬ覚悟があるんだな?」

「ほさけ小僧。殺れるもんな殺ってみろ」


 どいつもこいつも……


 子供達を犠牲にしておきながら、こんな時に決闘「ごっこ」とは……


 子供達ヲ犠牲ニシナガラ……


 俺ハ、誰一人、救エナカッタ……


 ああ、腹が立つ……

 あまりの怒りに視界が「赤く」染まっていく。


「あ、やばいかも」

「ん?何がじゃ?」

「ミナトの奴、あの時ばりにキレてるわ」

「げっ!皆の者退避じゃ!退避するのじゃ!」

 キリアの言葉を聞いて、アヴェルが慌てふためている。

「何をおっしゃってるんですか?タパナは片手剣が主体で、範囲魔法等は使えませんから、そんなに慌てて離れなくても大丈夫ですよ?」

「そうじゃない!そうじゃないのよ!」

 逆に長老とキリアは意思疎通が上手くいかず、キリアが苛立っている。

 キリアとアヴェルめ、人を大量破壊兵器のように扱いやがって。こいつらは、腹が立つが別にそこまでする気は無いぞ。


「外野がうるさくなってきた。さっさと始めよう」

「違うだろ。俺はさっさと『終わらせたい』んだよ。ほらかかっこいよけだもの。俺の言っている意味ぐらいわかるんだろう?」

「貴様ぁぁぁぁあ!」

 俺の挑発に乗り、タパナがカトラスと呼ばれる反りの入った片手剣を振りかぶり、凄まじい速さで突進してきた。

「遅いな」

 だが、キリアに比べれば蠅が止まる程遅く感じるし、聖樹の森の魔物モンスター達と比べても、遥かに遅い。

 精々が、聖樹の森最弱の満月熊フルムーンベアと同程度だろうか。

「それに剣の振りも遅い。『防御強化ディフェンスアップ』十枚」

「はぁ!?」

 タパナ本人としては会心の一撃のつもりだったかも知れないが、その刀の勢いは、帝国の大将だったカミラよりも遥かに弱々しく、ましてや使っている武器が『火燕剣かえんけん』と違い普通の武器だ。

 結果としてタパナのカトラスは、俺の体を覆う「金色」の魔力の膜に止められ、その刃が俺に届くことはなかった。

「ぼけっとすんなよ。『攻撃強化パワーアップ』」

「うぐぅ!?」

 俺の右拳がタパナの腹に深々と刺さり、タパナはその場で体をくの字に折り崩れ落ちた。

 複合魔法コンボマジックを使えば殺してしまう可能性があるので、あえて普通の強化魔法だけを使ったのだ。

「なっ……あのタパナが子供扱いとは……しかも、魔力だけで刀の動きを止めて見せた……」

「よかった、魔力が『金色』だった……あいつそこまでキレてなかったのね……」

「よかったのじゃ。七重複合魔法セブンフォールドコンボマジックを乱発されたら、この集落ごと消し飛ぶかと思ったのじゃ」

 驚く長老とは反対に、無難な結果に終わった事をキリアとアヴェルが喜んでいる。

 一体全体俺を何だと思ってるんだ!

 まあいい、いずれにせよこんな不愉快な場所にもう用はない。

 俺は、さっさと帝都に行って、家に帰る手段を探さなければならないのだ。

「さて、こんなくだらない集落とこは、さっさと出ようぜ」

「ちょっと待ってミナト、その前にガロ様の様子を見たいわ」

「あ、ああ……(やっば、すっかり存在を忘れてた)」

「ミナト、貴方何しにここに来たか忘れてたでしょ」

「いやいや、そんな事ないよ?ただほら、どうせヤク漬けになってるなら会っても無駄かなと思って」

「……怪しいわね。それに、ガロ様は強い人よ。どうせ、すぐにそんな薬の影響を振り切って復活されるはずだから、今のうちに私達の目的を伝えておかないと。それに、サリーとコリーを助け出す事も伝えておきたいわ。きっと心配しているわ」

「そうかなぁ……」

 キリアの中で、その「勇者ガロ様」が美化され過ぎている気がする。

 俺の中では、既に「娘を売った金でヤク中になったおっさん勇者(笑)」までイメージダウンされているのだが……

 とりあえず、本物に会ってみるまでその評価は保留しておくか……

 

 

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