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異世界召喚 〜リアルすぎるカードバトルを添えて~  作者: 一刻一機
第二章 ~獣人村の異変~
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第二章 ~獣人村の異変~(4)


「うわ……臭っ……」

 気絶したタパナを広場に捨ておいて、俺達は長老の案内の下、集落の中でも特に小さいテントの前に来ていた。

 貴重な鉄を使った特性の牢だそうで、その中にくだんの「勇者ガロ」がいるのだ。

 テントの外壁に当たる部分が一部めくれるようになっており、そこから中の様子を見る事ができる。

 その外壁をめくった途端、鼻が曲がりそうになる、酸っぱくすえた匂いがした。

「糞尿を垂れ流しておりますが、中に入れば危ないので、あまり掃除もできませんで……」

「……。……」

 テントの中のガロは、薄暗くてよく見えないが、両手両足を縛られた状態で転がされている。

 何かをぶつぶつと呟いているが、猿轡を噛まされており、何を言っているか聞き取ることはできない。

「こ、これが本当にあのガロ様……?」

 汚物にまみれながら腐った魚の眼をしたガロを見て、キリアは呆然としている。

 それはそうだろう。

 幼い頃からの憧れの人物が、薬にはまった挙句、正にゴミの様に転がっているのだ。

 隙間から流れた新鮮な空気を感じたのか、何かうわ言を呟くだけのガロが、こちらに向かって顔を向けた。

「こちらに向かって何か言っていますね。誰かガロ様の猿轡を外せませんか?」

「はい。……おい、お前立行ってきなさい」

「「はっ!」」

 長老の指示を受け、厚い皮の防護服を着た数人の若い男が、小さなテントに入って行った。

 そして彼らは慎重にガロに近づくと猿轡を外し、すぐに牢の鍵を閉め直した。

「キリア……?キリアの嬢ちゃんの匂いがする……」

 自由になった口は、猿轡をはめていたせいか涎が垂れている。

「ガロ様!?そうです、私です!わかりますか?聖樹の国のキリアです!」

「キリア譲ちゃん……俺ぁもう駄目だ……帰ってくれ。こんな俺を見ないでくれ……」

「ガロ様!そんな事をおっしゃらないで下さい!サリーとコリーが帝都に連れて行かれたのですよ!?一緒に連れ戻しに行きましょう!」

「サリー……コリー……ああ、そうだった……あいつら……サリーとコリーを渡せば、もっともっと薬をくれるって言ったのに……」

「ガロ様?ガロ様!?」

「薬だ!薬が何故来ないんだ!?俺に薬をくれ!よこせ!……ああ……ああ!ああああああ!帰れって言ったのに!……帰れ!帰れよぉぉぉ!それか、薬をよこせよぉぉぉ!」

「ひっ……」

 あの強気なキリアが腰を抜かし、地べたに座り込んでしまった。

 聖樹の森の魔物モンスターにさえ物怖じしないキリアだが、ヒトの狂気には流石に抵抗が無かったようだ。

「こりゃ駄目だ。キリア、やっぱりあきらめて、俺達だけで帝都に侵入しようぜ」

 俺はこれ以上キリアとアヴェルに「汚いモノ」を見せないよう、そっと外壁の布を降ろした。

 布が厚いらしく、未だ何か叫んでいるガロの声は幾分か控えめになる。

「え、ええ。そうね。でも、その前にミナト、あなたの持っている『治癒キュア』でガロ様を回復できないかしら?」

 そこは流石はキリアか。

 普通の女子なら、一生もののトラウマになるか、最低でも三日は泣いて暮らすような光景だったが、前向きに解決策を考えようとしている。

 両目から流れる涙は見なかった事にしよう。

「どうなんだろ、俺は魔法に詳しくないから何とも言えないけど、『治癒キュア』って毒を治す事ができるのか?」

「いえ、病や毒を治す魔法は『回復ヒール』や『恢復リカバー』が有効だと聞き及んだ事があります。ですが、我々獣人も余り魔法に明るくありませんからな……」

「俺が今まで使って来た感覚だと、『治癒キュア』は怪我を治すのには有効だと思うけど、多分病気とか毒には効かないんじゃないかな」

「そうですか……でも、とりあえず使うだけ使ってみてもらえませんか?」

「いや、それも止めといた方が……ああ、でもあんなに傷だらけなのに汚物塗れになれば傷が膿んですぐ死ぬか……内臓を痛めてるのか血反吐も掃いてるっぽいし」

 牢の中の汚物に、明らかに赤黒いものが混じっている。

 汚くて判りづらいが、顔や体中に自傷の跡が見られるのでこれは危険だろう。

 体力が戻った際に、再び暴れだす事を危惧したが、その前に死なれれば流石に後味が悪い。

「『治癒キュア』」

 本当は嫌だったが、已む無く軽い治療を施した。

「それで、子供達が連れて行かれたのは、何人でどれぐらい前なんだ?」

「え?」

「え、じゃないよ。一応、助けれるものなら助けてくる。だから情報を寄越せよ」

「ミナト……いいの?貴方は家に帰らなければならないんでしょう?」

 キリアが意外そうな顔で俺を見た。

「おお……おお……ありがとうございます!何卒なにとぞ、何卒お願い申し上げます!!」

「だあ!まだ礼を言わないでくれ!助けられるかどうか解らないんだから!」

 長老と獣人達も、俺に意外そうな顔をした後、眼に涙を浮かべて地面に頭をぶつける勢いで俺達に懇願してきた。

 だが、間違ってもこいつら獣人達のためじゃない。


 キリアが泣いていた。

 だから、助けようと思っただけだ。


 俺がこの異世界に来てしまった原因は確かにこいつのせいだ。

 だが、決してはそれは悪意ではなかったと、ここまでの付き合いで十分にわかっているし、そもそもキリアは「友達」だ。

 キリアは俺の事を「弟子」だとか言っているが、あいつは単にあの国の中で、同年代の親しい奴がいなかったのだろう。

 一ヵ月以上も近くで見てきたが、俺以外に同年代で一緒にいる奴を見たことが無かったのだ。

 多分「姫」と言う立場もあったし、それにあの「強さ」だ。

 最初、異世界人はみんな超人なのかと思ったが、帝国の兵隊達やさっきのタパナを見る限りでは、キリアの強さはかけ離れている。

 「異常」だと言っても過言ではない。

 そんな中、何も知らない俺は普通にキリアと親しくなることができた。

 最初からキリアの資質を理解していれば、俺も近寄りがたい存在だと思ったに違いない。

 既に「友達」になってしまったから、もう関係ないんだ。


 だから友達キリアが泣いていたら、その涙は俺が止めてやる。


「ふふっ。やっぱり貴方は変わりませんね、お兄様・・……」

 頭を下げられ慌てふためく俺を見て、アヴェルが何か呟き微笑んでいたが、俺の耳には届かなかった。




 結局帝都には、三人で向かう事になった。

 獣人の集落で長老が食糧をわけてくれる話をしていたが、それでなくてもひもじい状況下で、これ以上食糧をもらえる程俺達の面の皮は厚くなかった。

 結局、無手で集落を出ることになり、集落に寄った行程分ただ時間と食糧を無駄にしただけだった。

召喚サモンマリア!クロスケも出てきていいぞ!」

 集落が完全に視界から消えた事を確認してから、しばらくカードに入れっぱなしにしていた女王巨人蜘蛛マリアと、俺の影に紛れっぱなしだったクロスケを平原に解放してやった。

 俺を中心に半径数百メートルにもなる巨大な金色こんじきの魔法陣が現れ、そこからゆっくりと大きな蜘蛛がその巨体をのぞかせようとしている。

「ちょっとミナト!いきなり、何してるのよ!?」

「え?だって、ずっとカードの中にいれば可哀想だろ?」

「可哀想ってミナト……そんな理由で六ツ星の魔物モンスターを召喚しないでよ」

「そんなもん?」

 すっかり体全部を魔法陣から取り出した女王巨人蜘蛛マリアは、心なしかのびのびとした様子に見える。

 やっぱり、カードの中は窮屈なのだろう。

 召喚よびだして正解だった。

「別に、魔物モンスターは『カードの中』に住んでいるわけじゃないんだけど……」

「え!?そうなの?」

「召喚カードはあくまでもキーよ。普段、彼女マリアが住んでいるのは、未だ聖樹の森のままよ」

「えええ!?じゃ、じゃあむしろ俺のした事ってむしろ、家で寛いでいる所を無意味に呼び出した雇い主……!?」

 どんな時でも、カードがあれば無理矢理勝手に呼び出せてしまうとは。

 まるで、電話一本で強引に休日出勤させるブラック企業のようだ。

《R゛R゛問題ゴザイマセン、御主人様。イツデモ御呼ビ下サイ。イエ、ムシロ御用ガ無クトモ御呼ビ頂ケル事ハ望外ノヨロコビデアリマスレバ》

 独善的に呼び出した俺に、マリアが優しい言葉を継げてくれる。

 マリアの厚い忠誠心が胸に堪える。

 ええ女や……蜘蛛だけど……。

「じゃ、じゃあ折角呼んだし、ちょっと帝都方面まで乗せてもらおうかな」

《R゛R゛!カシコマリマシタ。有リ難キ幸セニゴザイマス》

 ぐっ!痛い、痛いよ忠誠心が!

「ミナト、楽をしようとしないのよ。折角、修業のメニューを色々と考えていたのに」

「キリア、俺にはこんな可愛いマリアを無下にすることはできない。頼むから彼女に乗ってやってくれ……」

「ちっ……しょうがないわね」

(舌打ちしやがったよ、お姫様こいつ!)



「おー、速いのじゃー!」

 マリアの上で、アヴェルが楽しそうにはしゃいでいる。

 少し遅めに進んでくれと言ったが、マリアは時速六十キロぐらいの速さで、ずんずんと平原を北へ北へと進んでいく。

 日本にいたときの車で同様の速度に乗った経験があるはずなのに、フロントガラス等が無いだけですごい早く感じる。

 と言うか怖い。

 それに風に煽られてアヴェルもキリアも髪やら服装が大変な事になってしまったので、さっきから俺が常時『風の盾(ウィンドシールド)』を発動させっぱなしだ。

 ちなみに、『風の盾(ウィンドシールド)』の冷却時間クールタイム中は、キリアから借りた『大気の壁(エアフィルター)』を使わされる徹底振りである。

 尚、どうせ髪型なんていくら整えても、すぐに大暴れして崩れるじゃんと言ったら、かなり本気の殺気を浴びせられ色々なモノが漏れそうになったことは内緒だ。


「さて、ここに石があるわ」

 マリアの上に居る時間も有効に使おうと、やはり修業は修行で行われるらしい。

「うん。それで?」

「握力だけで砕きなさい」

「は?何言ってんの?できるわけないないじゃん」

「でしょう?そう思ってるから、ミナトは『竜爪』が使えないのよ」

 『竜爪』ってあれか、キリアが得意としている大木を折ったり、帝国の何か強かった銀髪の槍を切ったりしたあの技か。

「そういや、前に一回教わった時は全然できなかったな。『武器強化ウェポンストレングス』で自分の指を武器として認識して、魔法で強化するんだっけ?」

「そうそう。『武器強化ウェポンストレングス』は、使用者が『これは武器だ』と認識しているものしか強化できないわ。だから、指が武器だと認識できるようになるまで鍛えなさい」

「言いたいことはわかるけど……」

「具体的に言えば、指による攻撃で敵にダメージを与えられるなら、それは立派な武器でしょう?」

「まあ、そうだね」

「だから、指を鍛えるのよ」

 なんだろう。理論的には納得できるけど、感情的には納得できない俺がいる。

 俺は今までこぶしを怪我するのが嫌なので拳を魔法で覆って来たわけだが、指で攻撃なんてますます怪我するに決まっているじゃないか。

 突き指で済めばいいが、こんな鉄の鎧がある世界なら、下手すりゃ攻撃したこっちの指が圧し折れるんじゃないか?

「しょうがないわね。じゃあ『武器強化ウェポンストレングス』だけは使ってもいいわ。『攻撃強化パワーアップ』は使っちゃダメよ」

「はあ!?だから、その『武器強化ウェポンストレングス』が効かないから……」

「だーかーらー!発想がそもそも間違ってんのよ!魔法はね『弱点を補う防具』じゃなくて『長所を研ぎ澄ます武器』なのよ。これがわからない奴は、いくらやっても魔法に振り回されるだけよ」

「……!!」

 図星だった。

 確かに俺は魔法を使って、様々なトラブルを切り抜ける事ばかり考えていた。

 しかし違うのか。

 あくまでも危機を退けるのは俺であって、魔法はそのための道具でしかないのか。

「……しゃあない。やってみるよ」

「そうそう、弟子は素直が一番よ」

「一応訊くけど、キリアは当然できるんだよな?」

「もちろんよ、ほら」

 特に力を込めた様子も無いが、ばきりと音がしてキリアの手の中の石が粉々に砕け散った。

「馬鹿力……」

「あ?なんだって?」

「あ、いえ何でもナイデス」

 怖ぇええええ!

 何でだ!?何をどうすれば、女の子の細腕であんな事ができる!?

 一瞬だが魔力を感じたのでもしかしたら無意識レベルで『武器強化ウェポンストレングス』が発動しているのだろうか。



 あれから特段何事も無かったので、過程を省略してみた。

 だって、既に三時間が経過しようと言うのに、石一つ砕けるどころか、ヒビ一つ入らないのだ。

「ウ、『武器強化ウェポンストレングス』……」

 間違いなく魔法としては発動しているのに、その魔力が指に集約せず漏れていくのだ。

 指や手の平の皮も剥け血が滲んで痛い。

 最初は逐一『治癒キュア』で治療していたが、すぐに出血するので段々面倒くさくなってきたのだ。


 アヴェルとキリアは、俺が教えた「あっちむいてほい」で楽しそうに遊んでいる。

 最初は、魔物モンスターが出る度にキリアが張り切っていたが、マリアが瞬く間に駆逐してしまうので、キリアの出番が無く暇そうだったので教えてみたのだ。

 意外にもこういった遊びを知らなかったらしく、延々とアヴェルと遊んでいた。

 かなり長時間やっているが飽きないのだろうか。

 ん?かなり長時間?

 時速六十キロで三時間が経過しているという事は、途中で止まる事もあったけど約百八十キロメートルは進んでいる計算になる。

 百八十キロメートルと言えば、東京から長野ぐらいまで余裕で行ける距離だったように思う。

「なあ、キリア」

「ん?もう石割れたの?」

「いや、全然割れる気がしないよ。そうじゃなくて、かなり進んでいると思うんだけど、帝都の影も見えないぞ?方向こっちであってるのか?」

「方向はあってるわ、前もこの変を通った記憶があるし。そうねえ……前来たときはじいと、昼夜を問わず全力疾走しても三日ぐらい掛かったから、このペースでいって、ちゃんと休憩も摂れば後六日か七日ぐらいで帝国城が見えるんじゃないかしら……」

「おいおいおい……」

 久々に出たな。突っ込みどころ満載発言。

 その発言の通りだと、全速力で走ればキリアとテッサさんは、この女王巨人蜘蛛クイーンジャイアントスパイダーよりも速く走れる事にならないか?普通自動車ぐらいの速度が出ているのに?

 相変わらず無茶苦茶なスペックだ。

 基本性能というよりは、人種が俺と違うんじゃないだろうか。


「ほら、時間に余裕があるからってのんびりしないで、さっさと石一個目を割りなさいよ」

「は!?一個目!?」

「そうよ?一日で石十個割れるようになったら取りあえず合格ね。それができたら、段々使う指を減らしていって、最終的には二本指で割れるようになったらクリアーだから」

「既に指の感覚が無いんだけど……」

「大丈夫よ。『治癒キュア』があるでしょう?」

 こっちも久々に出たよ!キリアの「イイ笑顔」!

「無理なもんは、無理だって!人間の骨密度は、どんなに頑張っても石よりも硬くならないんだよ!」

 ただ、俺がどれだけ訴えても、キリアの方針は頑として変わらないらしい。

 むしろ、俺が困っている顔をみて悦に浸っている様子すらある。

 リアルドSはマジで怖いんだよ!誰か助けてくれえええええ!


 ん?骨密度?あ、いけるかも……

一人のうちにこっそち更新をがんばります。

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