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第5話 見えない猫耳がくれたもの

月曜日の朝。大学のキャンパスは、講義に向かう学生たちの足音と話し声でざわついていた。


人込みを前にして、私は思わず立ち止まる。いつもなら下を向いて、誰とも目を合わせないようにコソコソと足早に通り過ぎてしまう場面だ。鞄の奥には、いつもの猫耳カチューシャが大事にしまってある。


(大丈夫……お義姉さんが言ってくれたじゃない)


胸に手を当てて、深く息を吐き出す。そして、頭の上にそっと手を伸ばし、目に見えないけれど確かにある【お守り】を乗せるイメージを強く浮かべた。


(今の私は、世界で一番お気に入りのお召し物を着て、とびきり可愛い猫耳をつけている!)


スッと背筋を伸ばしてみる。それだけで、不思議と視界がいつもより一段明るく開けた気がした。


「あ、すみません!」


混雑する講義室の入口で、前にいた女性が落としたプリントを拾い上げる。普段の私なら固まってしまうところだけど、頭の上の【見えない猫耳】がピコンと跳ねた気がして、自然と声が出た。


「これ、落としましたよ」


「あ、ありがとう!助かった~」


女性はパッと表情を輝かせ、私を見て微笑んだ。


「その着物風のカーディガン、すごく素敵だね。どこで買ったの?」


「えっ……あ、これは、地元の和雑貨屋さんで・・・」


思いがけない誉め言葉に頬が熱くなる。けれど、もううつむく必要はなかった。


「私、東条って言います。よかったら、隣りの席座ってもいい?」


「うん!もちろん!」


席に座り、教科書を開きながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた


魔法をかけてくれたのはカチューシャそのものじゃない。一歩を踏み出す勇気は、ずっと私の中にあったんだ。


放課後、スマホを開くと、お兄ちゃんとお義姉さんからのグループメッセージが届いていた。

(今日の見えない猫耳の調子はどう?)


私はすっかり軽くなった足取りで、満開の桜並木の下を歩きながら、返信を打ち込む。

(大成功!新しいお友達が出来たよ。今度、二人にも紹介するね)


頭の上の【見えない猫耳】にそっと触れる。春風が心地よく頬を撫でていき、私の新しい日常が、爽やかに色づき始めていた。

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