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第44話 国境を越えたスクリーンの向こう

TV放映の大反響を受け、第4回を迎えた『現代サブカルチャーと伝統文化の融合論』は、ついに大学の枠組みすら飛び越えることになった。


東条家の海外人脈を駆使し、フランスのソルボンヌ大学やシンガポール国立大学、紫苑様の留学先であるイギリスの名門オックスフォード大学、さらには西海岸の提携校であるシカゴ大学の4大学を結び、『世界同時インタラクティブオンライン講義』として開催されることになったのである。


メイン会場となる大学の特設スタジオ。


巨大なマルチスクリーンには、時差を超えて接続されたフランス、シンガポール、イギリス、アメリカの各国の学生たちの顔が所狭しと映し出されていた。


「これより、第4回講義を国際連携講義として開始します……!」


神楽坂教授の開会宣言とともに、画面中央に私の姿が映し出された。


今日の装いは、海外の受講生に日本の『和の四季』を感じてもらうための、最高級の西陣織で仕立てられた淡い桜色の振袖。そして頭の上には、世界中の画面越しでも優雅に映える『京都の金糸とパールをあしらった特別仕様の猫耳髪飾り』が輝いていた。


「……Hello,everyone……あ、あの、皆さん、こんにちは!東条詩織です……!」


画面越しに一斉に手が降られ、チャット欄には英語、フランス語、マレー語、中国語など、世界各国の言語で「KAWAII!」「Shiori-sensei!」といったコメントが凄まじいスピードで流れ始める。


スタジオの調整室では、お兄ちゃんが「国際回線の帯域確保完了。サイバー攻撃対策および同時自動翻訳システムの稼働率100%」と冷静にオペレーションをこなしつつ、モニター越しの妹に「詩織、翻訳ラグがあるからゆっくり話してね」と優しくインカムで指示を出す。


最前列の来賓席では、このグローバル展開の立役者である紫苑様がエレガントに座り、「ふふっオックスフォードの後輩たちも大興奮ね」と満足げに微笑んでいた。


今回の講義のメインテーマは『言葉を超えるおもてなしと、世界をつなぐアイコン』。


私はスタジオの中央に設けられた特設の茶席で、静かに、そして美しい所作を意識してお茶を点て始めた。


「日本の伝統である『茶道』は、型を守るだけのものに見えるかもしれません。でも、一番大切なのは『目の前にいる人に、少しでも温かい気持ちになってもらいたい』という思いです」


画面越しに、私が点てたお抹茶と、琴音さんがこの日のために世界各地へ事前空輸した『急速冷凍仕様・ねこみみ練り切り』が紹介される。事前抽選で受け取っていた100名の受講生たちが、カメラの前で一斉に練り切りを口に運んだ。


「Oh my god…it's so delicious!(なんて美味しいんだ!)」

「So cute and warm!(可愛くて、心が温かくなる!)」


スクリーンの向こうで、様々な国籍や文化を持つ学生たちが、和菓子一口で一斉に笑顔になっていく。


「私がつけているこの猫耳も、言葉が通じなくても『可愛いね』『素敵だね』って笑顔でつながれる、小さな魔法なんです。伝統も、サブカルチャーも、誰かを笑顔にするための『温かいお守り』であることに変わりはありません」


私の素直な言葉が、お兄ちゃんが調整した最新のAI翻訳を通して、世界中の学生たちの心にダイレクトに響いていく。


講義終盤の質疑応答では、オックスフォード大学の女子学生から質問が飛んだ。


「Shiori!私は自分に自信がもてなくて、いつも周りの目を気にしてしまいます。どうすれば貴女のように『自分らしさ』を誇ることができますか?」


私は画面をまっすぐに見つめ、頭の上の猫耳にそっと手を添えて優しく微笑んだ。


「私も、昔は人が怖くて、ずっと誰かの後ろに隠れて泣いていました。……でも、完璧にならなくていいんです。小さな『好き』を一つだけ胸に抱いてみてください。その『好き』が、きっと貴女を守る一番強いお守りになります」


その答えに、海外の受講生から国境を越えたスタンディングオベーションが送られた。


講義終了後。


「大成功ね、詩織。オックスフォード大学の校長から、『今度はぜひ当校で特別講義を』とラブコールが届いているわ」


紫苑様がスマートフォンを手に微笑み、西園寺さんも「西園寺グループのプライベートジェットを今すぐチャーターいたします!」と息を荒げている。


すかさずお兄ちゃんが割り込み、「海外出張なら僕も全日同行する。パスポートの更新と現地のセキュリティチームの選定に入ろう」と仕事の早いマネージャーぶりを本領発揮していた。


「……ふふっ、今度はイギリス!」


離れの仲間たち、家族、そして今や世界中の学生と繋がりながらも。頭の上の猫耳をぴこぴこさせ、いつも通りの『ゆるゆる』な笑顔で、お義姉さんが淹れてくれた温かいお茶を楽しむのだった。

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