第42話 手に触れる伝統
第1回の講義成功を受け、さらに大きな教室へと変更された第2回特別講義『現代サブカルチャーと伝統文化の融合論』
今回のテーマは、神楽坂教授と事前に話し合って決定した『五感で触れる伝統ーーあなたの好きをデザインする実践ワークショップ』だった。
「座学だけでは、伝統の本当の温かさは伝わりません」という私の提案により、受講生200名全員に、老舗菓子舗『かすが』の琴音さんとお義姉さんが全面協力した『特製和菓子制作キット』と『ミニ猫耳型抜き』が配布されるという、大学史上初の試みとなった。
「皆さん、こんにちは……!東条です」
壇上に立った私の頭の上には、大学の雰囲気に合わせた、落ち着いたエンジ色の秋ライン・猫耳カチューシャが乗っていた。
最前列には、受講生に紛れてノートパソコンでスライド操作をサポートするお兄ちゃんの姿。さらに後方の見学席には、西園寺さんが『西園寺グループの最先端手技撮影カメラ』を自ら構えて控え、麗華さんと紫苑様は『講義の視察』として優雅に並んで腰かけている。
「今日は、皆さんの手で直接『伝統』に触れていただきます。上手く作ることよりも、自分が『愛おしい』と思える形を作ってみてください」
私の合図とともに、ワークショップがスタートした。
最初は「和菓子なんて作ったことない!」「練り切りって難しそう」と戸惑っていた受講生たち。私は、教壇を降りて、受講生のデスクを巡回しながら、一人ひとりに優しく声をかけていった。
「あ、すごく綺麗なピンク色となりましたね!その端っこを、こうやって少しだけキュッとつまむと……ほら、可愛い猫耳が出来ましたよ」
「本当だ!可愛い!詩織助手、私にも教えてください!」
極度の人見知りだったはずの私でしたが、『大好きな和菓子と猫耳の魅力を伝えたい』という一心で接するうちに、自然と受講生たちとの距離が縮まっていった。
「伝統工芸は敷居が高いと思われがちですが、こうして自分の手で小さな『可愛い』を込めた瞬間から、それは皆さんだけの特別な文化になります」
教壇に戻って微笑むと、教室のあちこちから「出来た!」「見てこれ、めっちゃ愛着湧く!」「SNSに載せてもいいですか?」と賑やかな歓声があがった。
講義の締めくくりとして、神楽坂教授がマイクをとって総括を語った。
「文化とは、教科書の中で暗記するものではなく、こうして人から人へ『情熱と愛おしさ』が手渡されていく営みそのものだ。東条助手が体現しているのは、まさにその本質と言える」
教授の言葉に、200人の受講生から惜しみない拍手が送られた。
「詩織様……!感動いたしました。次回の講義予算は西園寺家から……」感極まる西園寺さんを、お兄ちゃんが「西園寺さん、静かに。講義終了のアンケート集計中だから」と冷静に押しとめる。
「ふふっ詩織ちゃん。大成功ね!」と手を振るお義姉さんに、麗華さんも「まあ……悪くない講義でしたわね。次回は私も少しだけ手伝って差し上げてもよくてよ」と満足そうに扇子を揺らしていた。
講義を終え、片付けしながらもホッと胸を撫で下ろした。
「お兄ちゃん、私……みんなが自分の手で『可愛い』を作って笑顔になってくれたのが、すごく嬉しかった」
「ああ、君の伝えたいことが、ちゃんとみんなに届いていたよ」
大学の講義室という新しい舞台でも、頭の上の猫耳はぴこぴこと嬉しそうに揺れていた。
伝統と若者たちの『好き』を優しく繋ぐ詩織助手の講義は、キャンパスの名物授業として、さらに大きな話題とかっていくのだった。




