第40話 スポットライトと、いつものお守り
「……詩織様、こちらが本日撮影を担当される、世界最高峰のファッション誌『VOGUE USA』撮影クルーです」
西園寺さんの案内で『秘密基地』である離れの庭に足を踏み入れたのは、ニューヨークから来日したトップクリエイターたちだった。
「On…Amazing!この静けさ、この伝統的な和の空間……素晴らしいロケーションです!」
外国人カメラマンの歓声に、私は思わずひゃいっと肩をすくませてしまう。
東条家で評価2位となり、長老たちにも認められたとはいえ、やはり大勢の大人、それも海外のトッププロたちに囲まれると人見知りの本領が発揮されてしまう。
だが、この日の私は違っていた。
横を見れば、バインダーを抱えて鋭い目でスタッフの動向と契約条項を厳しくチェックする『専属マネージャー』のお兄ちゃんの姿。
「カメラのレンズライン、および撮影データの暗号化通信の安全基準はクリアしている。……詩織、無理しなくていいからね」と優しく耳打ちしてくれる。
さらには、お義姉さんが仕立てた現代の和装と伝統の京友禅を融合させた特別なドレス、そして琴音さんと一緒に考えた『最高峰のパール仕立ての猫耳カチューシャ』が、私の心を静かに落ち着かせてくれた。
「詩織、準備はよろしくて?」
見学に訪れた本家の紫苑様と麗華さんも、庭の縁側で優雅にお茶を飲みながら温かい視線を送っている。
「……はい!よろしくお願いいたします」
私は頭の猫耳にそっと触れ、カメラの前に立った。
撮影が始まると、カメラマンの要求は次第に熱を帯びていく。「もっと東条家としての威厳を!完璧なポーズを!」
その言葉に少し固くなりかけたものの、お兄ちゃんがすっと撮影の合間に差し出してくれた温かいお茶を飲むと、肩の力がふっと抜けた。
「私……東条家の『お嬢様』として完璧になろうとは思っていません!」
フラッシュがたかれる中、カメラの向こうにいる世界中の読者へ向けるような、自然体の柔らかい笑顔で語りかけた。
「人見知りで臆病な私でも、この猫耳という小さなお守りと、温かい仲間たちがいてくれたから、自分らしく立つことが出来ました。このスタイルが、世界中の誰かにとっての『勇気のお守り』になれたら……それだけで嬉しいんです」
その瞬間、シャッター音が連続して響き渡った。
作られた『完璧なお嬢様』ではなく、自分の弱さを愛し、伝統と自分らしさをしなやかに纏う少女の姿。レンズ越しに見せる詩織の凛とした、けれどどこか儚く優しい表情に、百戦錬磨の撮影クルーたちも息をのんだ。
「Wondeful……!これこそが、今の時代が求めている本当の『ラグジュアリー』だ……!」
撮影は大成功のうちに終了した。
数週間後。
世界中で発売された誌面の表紙を飾ったのは、緑豊かな離れの庭で、猫耳カチューシャを頭に戴き、温かいお点前を披露する詩織の姿だった。
「詩織ちゃん、世界中から大反響よ!『ミステリアスで最高にキュートな日本の新しいアイコン』だって!」
お義姉さんが嬉しそうに雑誌を掲げ、琴音さんや麗華さん、紫苑様も「さすが私の目を付けた方ですわ」「誇らしいわ、詩織」と自分のことのように喜び合ってる。
「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんが背中を押してくれたから、私、頑張れたよ」
喧騒から少し離れた縁側で、お兄ちゃんにそっと笑顔を向けた。
お兄ちゃんは少し照れくさそうにパソコン画面から目をそらし、頭の上の猫耳を優しくなでた。
「僕の方こそ、ありがとう。……さあ、世界一のマネージャーとして、そろそろ本日の『お茶会』のスケジュール管理に入るとしようか」
「ふふっ、うん!今日もみんなで、ゆるゆるいこうね!」
世界的な脚光を浴びても、どれだけ遠くへと羽ばたいても。お兄ちゃんの隣で猫耳をぴこぴこと揺らしながら仲間たちとお茶を楽しむ『ゆるゆるな日常』こそが、東条詩織の永遠のホームグラウンドなのだった。




