第36話 青い海と白波の猫耳
「海ーーーーーーーーーーっ‼」
雲ひとつない夏の青空の下、白良浜のプライベートビーチに琴音さんの元気な叫び声が響き渡った。
東条家の所有する静かな離れのヴィラを拠点に行われる、猫耳同好会・初の夏合宿。今回の合宿には、絶対に譲れない鉄の掟が存在していた。
「男子禁制!!」
「……詩織様、本当に行ってしまわれるのですか。現地には西園寺家の警備も……」
「ダメです、西園寺さん!今回は女子だけの『ゆるゆる合宿』なんです!」
出発前、悲しそうな顔で竹箒を握りしめていた西園寺さんと、「セキュリティ端末は常時接続しておくからね!」と涙目で送り出してくれたお兄ちゃん。男たちからの過保護な視線から解放され、私たちは解放感たっぷりの砂浜に立っていた。
参加メンバーは、私と琴音さん、お義姉さん、ツンデレな華小路麗華さん、そして「面白そうだから」とロンドン仕込みの水着で参戦した本家の紫苑様、さらには同好会の後輩女子たちという豪華なフルメンバーだ。
「見て詩織ちゃん!この日のために特別に用意したのよ!」
お義姉さんが取りだしたのは、濡れても大丈夫なシリコン&防水レース素材で作られた『マリン仕様・猫耳カチューシャ』。水着に合わせたカラフルな猫耳を全員で装着すると、静かな砂浜が一気に華やかな『猫耳ビーチ』へと変貌した。
「ちょっと、詩織さん!なぜ私の分までピンクの貝殻モチーフの猫耳がありますの!?」と真っ赤になって抗議する麗華さんだったが、紫苑様に「あら、良く似合っているわよ麗華」と微笑まれると、「……紫苑様がそう仰るなら」とあっさり受け入れてしまう。
「詩織さん、まずは海に入ろうよ!」
琴音さんに手を引かれ、私たちは波打ち際へ走った。ひんやりした青い海に足を浸すと、眩しい太陽の光と心地よい潮風が全身を包み込んだ。
「冷たくて気持ちいい……!」
かつては人の視線が怖くて、水着を着て海にくるなんて絶対に考えられなかった。でも今は、頭の上にぴこっと乗ったマリン仕様猫耳と、周りで弾ける大好きな仲間たちの笑顔がある。
砂浜では、麗華さんと紫苑様が「どちらが美しいビーチパラソルの配置か」で優雅な(?)火花を散らし、お義姉さんはパラソルの下でパシャパシャと楽しそうに写真を撮りまくっている。
「詩織ちゃん、はいチーズ!」
カメラを急に向けられても、もう昔のような不安や怯えは一切なかった。
海から上がった午後は、ヴィラのテラスで『新作スイーツ』の試食会。琴音さんが持ち込んだかき氷機で削ったふわふわな氷に、私が考案した『猫耳型の特製練乳ゼリー』と甘酸っぱいブルーベリーシロップをたっぷりとかける。
「ん~~っ!冷たくて最高に美味しい!」
「和の甘みと果実の酸味が完璧ですわ……!」
打ち寄せる波の音を聞きながら、冷たいかき氷をつつき、とりとめのないえしゃべりに花を咲かす後輩たち。
「男子がいないと、本当に気楽でゆるゆる出来ますわね。あの過保護なお兄様や西園寺様がいたら、今頃ビーチが厳重警戒区域になって楽しむどころではありませんでしたわ」
麗華さんの言葉に、全員が大爆笑する。
夕暮れどき、空が美しい茜色に染まる頃。テラスに並んで座り、波間へと沈む夕日を静かに見ていた。
「私……みんなとここに来られて、本当に良かった」
ポツリと呟いた私の手に、琴音さんと麗華さんがそっと手を重ねた。
男たちのいない、女子だけの特別な夏休み。波音に包まれたひだまりのような時間は、私たちの絆をさらに深く、温かく結びつけていくのだった。




