第3話 お兄ちゃんとの再会
温かな思い出に浸っていると、ふいに頭の上から「にゃあ」と小さく鈴のなるような鳴き声が聞こえた。
視線を向けると、満開の桜の上に、一匹の小さな三毛猫がちょこんと座っている。その首元には、私がつけている猫耳とお揃いのような、桜色の小さな鈴がついた首輪が巻かれていた。
「あれ……?」
どこか見覚えのあるその鈴に見とれていると、風がふっと強く吹き抜け、猫はひらりと枝から飛び降りて路地の奥へ去っていく。まるで「ついでおいで」と誘っているかのような猫のあとを追いかけることにした。
川沿いの賑やかな通りを一本外れると、そこは時間が止まったかのような静かな裏路地。古い木造店舗が並ぶ一角で、猫はとある小さな喫茶店のドアの前で立ち止まり、行儀よくお座りをした。
木造の看板には、古びた文字で【喫茶 桜結び】と書かれていた。
ドアを開けるとカウベルがからんと涼やかな音を立て、中からはあたたかな珈琲の香りが漂ってきた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へおかけくださいね」
生来の内気な性格からか、つい奥のテーブル席に視線が向いてしまう。
そこには見覚えある大好きな二人がいた。目が合って驚いたようにカップを浮かせたお兄ちゃんと「詩織ちゃん、こんなところで会うなんて偶然ね」と嬉しく微笑むお義姉さんがいた。
「ふふ、あの猫ちゃんが連れてきてくれたのかな?」
お義姉さんが自分の隣の席をトントンと叩いて招く。テーブルの上には、二人が頼んだと思われる季節限定の桜パフェと珈琲。そしてお義姉さんの鞄からは、あの思い出の「大人っぽい猫耳カチューシャ」が少しだけ覗いていた。
「お兄ちゃん、お義姉さん!散歩してたら不思議な三毛猫に導かれて……」
隣に腰を下ろすと、お兄ちゃんが「相変わらず猫には縁があるね」と嬉しそうに目を細め、私のために温かい紅茶を注文してくれた。
先ほどの三毛猫はというと、店内の一角にある日当たり良いソファの上で、丸くなって気持ちよさそうに目を閉じている。
「ここはね、私たちが昔デートでよく通っていたお店なんだよ」とお兄ちゃん。
「そうそう、今日はお天気もいいから、久しぶりに二人で来てみたの。詩織ちゃんも合流できて嬉しいな」とお義姉さん。
届いた紅茶の湯気越しに二人を眺める。幼い頃は「お兄ちゃんをとられた」なんて泣いていたけれど、今こうして三人でお揃いの空気を纏い、穏やかな時間を過ごせていることが、たまらなく愛おしい。
お義姉さんは「今度、三人でお揃いの猫耳をつけて京都市内を散歩しない?」なんて楽しそうに提案し、お兄ちゃんは「それはちょっと照れるな……」と苦笑いを浮かべる。
窓から差し込む来るの光の中、からん、と再びカランが鳴った。
変わらない二人のぬくもりに包まれながら、私のゆるゆるな日常は、今日も優しく続いていく。




