第33話 宵闇のステップ
「……ええっ!?お兄ちゃんが緊急の海外出張……!」
新緑の風が心地よい離れの縁側で、詩織の叫び声が響き渡った。
事の発端は、帰国した紫苑(本家の一人娘で評価1位)が主催する、政財界の重鎮や外交関係者を招いた『東条家主催・夜桜を楽しむチャリティーダンスパーティー』の開催だった。
鮮烈な社交界デビューを果たし、評価2位となった詩織の出席は絶対。しかも今回は『ダンスパーティー』ということで、女性には信頼できるパートナーのエスコートが必須となる。
当然、過保護なお兄ちゃん(樹)がパートナーを務めるはずだったのだが……なんとヨーロッパの提携企業で大規模なシステム障害が発生し、緊急で現地へ飛ぶ羽目になってしまったのだ。
「大丈夫だよ詩織、通信ログと会場のカメラは現地から監視するから!でも……パートナーはどうするんだ!?」と、羽田空港から悲痛な電話をかけてくるお兄ちゃん。
「どうするもこうするも、西園寺様がいらっしゃるではありませんの」
離れでお茶を飲んでいた華小路麗華が、扇子を優雅にパチリと閉じる。
「だめだ!!」
即座にスマホのスピーカー越しに叫ぶお兄ちゃん。
「西園寺に詩織の手を取らせるなんて……!僕が飛行機をキャンセルして戻る!」
「お兄ちゃんダメだよ。お仕事でしょ!」
混乱する現場に、涼やかな足音が近づいてきた。
「騒がしいわね。パートナーなら、もう決まっているでしょう?」
現れたのは、パーティーの主催者であり、自ら仕立てた最高のタキシード風パンツスーツに身を包んだ紫苑だった。
「紫苑様……!」
「詩織、私と一緒に踊りなさい。東条家の『1位』と『2位』が手を取り合ってフロアの中央に立つ……これ以上の演出も、これ以上の安全なエスコートもないでしょう?」
「えっ紫苑様と……!」
「ふふっイギリスで紳士のステップは叩き込まれているわ。それに……大切な妹を、まだ怪しい男たちに渡す気はないもの」
紫苑がチラリと視線を向けると、庭で竹箒を握りしめながら「ぐぬぬ……紫苑様が相手では手も足も出ない……!」と歯噛みする西園寺 蓮の姿があった。
スマホの向こうのお兄ちゃんも「紫苑様なら……紫苑様なら完璧だ!よろしくお願いします!」と半泣きになりながら納得し、こうして詩織のダンスパートナーは、東条家最強の女王様・紫苑に決定したのだった。
パーティー当日。
絢爛豪華なホテルの大ボールルーム。詩織はお義姉さんが仕立ててくれたペールグリーンの美しいドレスに、エメラルドが繊細に揺れる特別仕様の『猫耳ティアラ』を戴いて登場した。
「息をのむほど美しいわ、詩織」
紫苑様が優雅に手を差し伸べる。
ダンスの経験が浅く、大勢の視線に「ひゃい……」と足がすくみそうになる詩織だったが、頭の上の猫耳ティアラにそっと触れ、紫苑様の手をキュッと握り返した。
オーケストラが奏でるワルツの旋律に乗せて、二人はフロアの中央に踏み出す。
凛とした紫苑様のリードは完璧で、詩織をまるで羽毛のように優しく、滑らかに導いていく。不安そうだった彼女の表情は、紫苑様の力強くも優しい瞳に見つめられるうちに、ふっと柔らかい笑顔に変わっていった。
「見てごらんなさい、東条家の二人が……」
「なんて気品と、新しい時代を感じさせるペアなんだろう」
会場中から感嘆の溜息と惜しみない拍手が送られる。
バルコニーからは、エスコートの座を紫苑に奪われつつも「詩織様が……お美しい……」と涙ぐむ西園寺 蓮の姿や、満足そうに頷く本家当主の姿があった。
そしてヨーロッパのホテルの一室では、パソコン画面に映し出される高画質ライブ映像を見ながら、「詩織……最高に綺麗だよ……!」とハンカチを濡らすお兄ちゃんの姿があった。
曲が終わり、紫苑様の手を取って深々と一礼する詩織。頭の上の猫耳ティアラが、眩しい照明を受けて誇らしげにキラキラと輝いていた。
「紫苑様、ありがとう……!すっごく楽しかった!」
「ふふっお礼は今度の最高のお茶会でいただくわ」
お兄ちゃん不在の大ピンチを、最強の従姉妹の絆で華麗に乗り越えることが出来た。社交界における私の存在感と『魔法の猫耳』の魅力は、知らないうちに揺るぎないものとなっていった。
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紫苑様と詩織さんのワルツです
https://53016.mitemin.net/i1287939/
こちらはパーティーに臨む詩織さんです




