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第27話 静かな熱狂と玻璃の心

「東条家の詩織様……噂以上の、なんと凛としたお方なのだろう」


華やかなパーティーの夜以来、政財界の社交場は、詩織の話題で持ちきりだった。


かつては『内気で表に出せない娘』と囁(ささや)かれていたはずが、蓋を開けてみれば、ブレない芯を持ち、若者から伝統芸能の重鎮までも魅了する不思議な包容力の持ち主。彼女の控えめながらも気品ある振る舞いは、『東条家に咲いた新しい大輪の花』として、名家たちの間で一気に評価を高めていた。


そんな中、彼女に一目惚れし、雷に打たれたような衝撃を受けていた青年がいた。


旧財閥系・西園寺(さいおんじ)グループの御曹司、西園寺 蓮(れん)。


端正な容姿と冷徹までなビジネスセンスを持ち、これまで数々の名家の令嬢からのアプローチを「退屈だ!」と一蹴してきた彼が、あの日、バルコニーで夜風に当たりながらそっと猫耳カチューシャに触れる詩織の横顔から、目を離せなくなっていたたのだった。


「彼女のことを、もっと知りたい」


蓮はすぐさま東条家へ正式な訪問を申し入れた。本家の伯父は大喜びで彼を『秘密基地』である離れへと案内する。


そして対面の日。


高級外車から降り立った完璧な仕立てのスーツ姿の蓮を前に、詩織は「ひゃいっ」と小さく跳ね上がり、お兄ちゃんの背中にサッと隠れてしまった。


「お久しぶりです。詩織様」


膝をつかんばかりの勢いで深々と一礼する蓮。その瞳には、隠しきれない情熱が宿っていた。


「あの夜の貴女のお言葉。そして凛とした佇まいに心を奪われました。よろしければ、私と……」


「あ、あの!申し訳ありません!」


私はお兄ちゃんの背中からひょっこりと真っ赤になった顔を出しながら、頭の上の猫耳カチューシャをきゅっと直して、まっすぐに蓮を見つめた。


「私、すごく人見知りで、普段はここで仲間たちとお茶を飲んだり、猫耳をつけてゆるゆる過ごすのが大好きなだけの……本当に普通の学生なんです。西園寺様が思っていらっしゃるような、立派な『東条家の令嬢』ではありません」


完璧なお嬢様像を期待されていると思い、必死に自分の『等身大の姿』を告白する詩織。


だが、その飾らない言葉を聞いた瞬間、蓮の瞳はさらに輝きを増した。


「……素晴らしい。家柄や虚飾に頼らず、ご自分の『好き』と素の自分をそれほどまでに愛していらっしゃるなんて……!ますます惹かれました!」


「ええっ!?」


斜め上の反応に目を丸くしてしまう。


いつでも介入できるようダブレットを握りしめて警戒していたお兄ちゃんが「……害はなさそうだが、別の意味で面倒な奴が来たな」と苦笑し、お義姉さんは「あらあら、詩織ちゃんに大モテ期到来ね!」と楽しそうに笑っている。


自分の意図とは裏腹に、その素直さと「魔法の猫耳」が生み出す魅力で、ますます周囲が騒がしくなっていく。


旧財閥の御曹司という規格外のファン(?)を得て、私の『ゆるゆるな日常』は、またひとつ新しい賑やかさを迎えるのだった。

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