第19話 海を越えた魔法
「東条会長!離れの門の前に、海外からの旅行者みたいな人が来ているんだけど……!」
ある放課後、後輩の会員が息を切らせて駆け込んできた。
急いで離れの玄関に向かうと、そこには大きなバックパックを背負った青い目の女の子が立っていた。彼女は私と目が合うと、胸の前でキュッと拳を握りしめ、つたない日本語で一生懸命に声をかけてきた。
「ハジメマシテ!あなた、テレビで見た『猫耳のシオリ』ですか……!?」
彼女の名前はミアちゃん。フランスの大学で日本の伝統文化を学んでいて、あのニュース番組の動画を見て『どうしても詩織たちに会いたい』と、わざわざ日本までやってきたのだという。
「日本の『和』と『カワイイ』がこんなに優しく溶け合っているなんて、感動しました!私にも、その魔法の秘密を教えてほしいです!」
瞳をキラキラさせるミアちゃんを、私たちは喜んで秘密基地へと招き入れた。
言葉の壁に最初は少し緊張したけれども、お茶を点て(たて)、お気に入りの和柄の猫耳カチューシャを彼女の乗せてあげると、ミアちゃんの顔がパッと華やいだ。
「サ・セ・ミニョン(それ可愛いね)……! 伝統の着物と合わせると、なんだか心が踊ります!」
その言葉に、私は胸がキュッとなるほど嬉しくなった。
それから数日間、同好会のみんなと、お兄ちゃん、お義姉さんも巻き込んだ『ミアちゃん おもてなし大作戦』が始まった。
和装デザイナーであるお義姉さんは、腕の見せ所と張り切って、ミアちゃんにアンティーク着物の正しい着付けとモダンなアレンジを教授していた。お兄ちゃんは海外の電圧でも安全に使える、LEDで柔らかく光る和風猫耳カチューシャをプレゼントした。そして私と春日さんは、庭を眺めて楽しめる野立ての茶席を用意して、『可愛い練りきりの和菓子』の食べ比べを楽しんだ。
(これは日本文化の紹介の一環だから罪はないのです……)
お兄ちゃんの何か言いたげな視線に、心の中で正当性を主張した。
「私、フランスに帰ったら、日本のこの素晴らしい『優しさとカワイイの文化』をみんなに広げます!」
滞在最終日。自分で着付けた着物に、光る和風猫耳をつけたミアちゃんは、とびきりの笑顔でそう宣言してくれた。言葉や国境なんて関係ない。私たちが大切にしてきた『猫耳がくれる温かさ』は、たしかに海を越えて届いたのだ。
夕暮れ時、離れの縁側でミアちゃんを見送ったあと、春日さんが私の隣にちょこんと腰かけた。
「詩織さん、私たちの『ゆるゆるな日常』って、いつの間にか世界と繋がっちゃうくらい、すごい場所になっちゃったね」
「ふふっ本当だね。でも、やることは変わらないよ。ここでお茶を飲んで、笑いあうだけ」
頭の上の猫耳カチューシャにそっと触れる。
私の『ゆるゆるな日常』は、これからもたくさんの笑顔をつないで、どこまでも広がっていくのだった。




