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第1話 お守り

「お守り」と聞いて興味をひかれたのか、先ほどの女の子はトコトコと戻ってくると、私の隣でちょこんと首をかしげた。


「なんで猫耳がお守りなの?」


私は文庫本をそっと膝の上に置き、小さく微笑んで記憶の糸をたぐり寄せた。


「あのね、私がまだ小さかった頃、すごくいやいや期でね……お出かけする前に機嫌を損ねて、泣いてばかりいた時期があったの」


幼い頃の私は、着物の帯がきついとか、草履が痛いとか、理由をつけては家から一歩も出たがらない子どもだった。ある春の日、家族で満開の桜を見に行く予定だったのに、やっぱり玄関でうずくまって大泣きしてしまったのだ。

困り果てたお父さんとお母さん。でもその時、お兄ちゃんが自分のポケットからコソコソと取り出したのが、この猫耳カチューシャだった。


「はい、これ!これを付けるとね、猫ちゃんみたいに身軽になって、どんな遠くへもお散歩に行きたくなる魔法がかかるんだよ」


お兄ちゃんは得意気に私の頭に猫耳をぽんと乗せてくれた。


お母さんは「あら、本当だわ。とっても可愛い子猫ちゃんになっちゃった」と大げさに驚いて見せ、

お父さんは「これは大変だ、美味しい団子を買って機嫌をとらなきゃな!」と笑った。


家族みんなの温かなぬくもりに包まれて、さっきまでの大泣きが嘘みたいに心がフッと軽くなるのを感じた。それ以来、この猫耳は私にとって「外の世界へ楽しく踏み出せる魔法のお守り」になったのだ。


「……だからね。これを付けると、どんな場所でもぽかぽか温かい気持ちになれるの」


そう話すと、女の子は「そっかぁ、魔法なんだ!」と目を輝かせて、満足そうに今度こそお母さんのもとへ走っていった。


風が吹き抜け、桜の花びらがパラパラと私の膝に降り積もる。猫耳にそっと触れながら、私はまたのんびりと文庫本に目を落とした。

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