第17話 本当の誇り
「……ご先祖様が、そんなものを?」
週末、本家の重厚な客間。上座に座る伯父様は、テーブルに置かれた古いからくり箱と手紙を前に、信じられないといった様子で絶句していた。
あの日見つかった手紙と写真を、お父さん、お兄ちゃん、お義姉さん、そして私の4人で本家へ持参したのだ。
手紙の崩し字を追う伯父さんの手が、かすかに震えている。
「『東条の家名よりも、お前の笑顔の方がずっと愛おしい』……か」
お兄ちゃんが静かに、けれど力強い声で言葉を重ねた。
「伯父上、我が家で本当に大切に受け継がれてきたのは、形式や面目ではなく『大切な人の笑顔を守る心』だったのではないでしょうか。詩織の猫耳は、家名を汚すものではなく、東条家の優しさそのものです」
伯父様は目を閉じ、深く息を吐き出した。
厳格で威厳に満ちていた顔つきが、少しずつ毒気を抜かれたように穏やかになっていく。
「……身内を縛り付けることが家の伝統だと思い込んでいたのは、私の方だったのかもしれんな」
伯父様は手紙をそっとからくり箱に戻すと、私に向かって小さく頭を下げた。
「詩織、苦労をかけた。……お前のその猫耳、先祖の言う通り、なかなか似合っているよ」
険しかった本家との溝が、時を超えたご先祖様の優しさによって、すっと溶けていくのを感じた。
帰り道、本家の立派な門をくぐると、突き抜けるような秋の青空が広がっていた。
「よかったね、詩織ちゃん」
お義姉さんが私の手をとって微笑み、お父さんもどこかすっきりした表情で「さあ、離れに寄ってお茶でも飲んで帰ろうか」と笑った。
もう誰も、私の大切なものを否定しない。
ご先祖さまから受け継いだ温かな魔法を胸に、私は大好きな家族と並んで歩いていく。
離れで心配して待っているお母さんの顔を思い浮かべながら、良い報告を持ち帰ることができた嬉しさで顔がほころんでしまう。
私のゆるゆるで愛おしい日常は、明日も変わらず続いていくのだった。




