第16話 時を超えたお守り
第一回お茶会が大成功に終わり、離れは同好会の憩いの場としてすっかり定着した。
秋も深まったある日、ここの管理人をつとめる白川さんと広い離れを掃除していた私たちが、押し入れの奥で偶然見つけたのは、ホコリをかぶった古い木箱と一冊の絵日記だった。
それは幼い頃、この離れで暮らしていたときに私とお兄ちゃん、そして許嫁と知る前のお姉さんと一緒に描いた懐かしい思い出の記憶。ページをめくると、子どもたちの拙い絵で『ひみつのたからもの』の地図が描かれていた。
「これ……昔、みんなで庭に埋めたタイムカプセルだ!」
懐かしさで胸がいっぱいになった私は、さっそくお兄ちゃんとお義姉さん、そして春日さんたちを呼び出して宝さがしを始めることに。
しかし、宝の地図が示す池のほとりの脇にぽつんとあるわらべ地蔵の下を掘り起こしてみると、そこに出てきたのは私たちが埋めたはずの箱だけではなかった。
私たちが埋めた木箱のすぐ下に眠っていたのは、東条家の先祖が遺したと思われる、もうひとつの『本物の猫にまつわる古いからくり箱』。
苔を払い落とすと、箱の表面には見覚えのある模様が刻み込まれている。
父から譲り受けた、あの『漆塗りの猫耳かんざし』とまったく同じ繊細な蒔絵だ。
離れの縁側にみんなで集まり、息をのんで見守る中、私は髪から抜いたかんざしの先端を、箱の側面にひっそりと隠されていた小さな穴へ差し込んだ。
カチリ、と心地よい金属音が響き、ゆっくりと箱の蓋が開く。
「何か入っているわ……手紙と、古い写真?」
お義姉さんがそっと取り出したのは、少し色褪せた和紙の手紙と、明治時代あたりのものと思われる一枚の手彩色の写真だった。
写真に写っていたのは、和装に身を包んだ若い女性。その頭にはーーなんと、私たちがつけているものにそっくりな猫耳の飾りが乗っていた。そしてその隣には、優しく微笑む当時の東条家の当主らしき男性。
手紙の崩し字をお兄ちゃんがゆっくりと読み解いていく。
(病弱で外に出るのを恐れていた妻へ。この猫耳の飾りを贈る。これを身につける時、お前は自由で、どこへでも行ける猫になれるのだ。東条の家名よりも、お前の笑顔がずっと愛おしい)
手紙を読み終えた瞬間、部屋の中に優しい沈黙が流れた。
「……伯父様は『東条の恥だ』なんて言っていたけど」
春日さんが泣き出しそうな笑顔で呟く。
「東条家で一番最初にお守りの猫耳を作ったのは、ご先祖様だったんだね」
本家の厳しい決まりごとや形式ばったプライドよりも、大切な人を笑顔にしたいという優しい想い。それこそが、この東条家に代々受け継がれてきた本当の『血筋』だったのだ。
「伯父様にも、この手紙と写真を見せてあげなきゃね」
私がそう言うと、お兄ちゃんとお義姉さんは深くうなづき、私の頭を愛おしそうに撫でてくれた。
のどかな秋の風が、離れの風鈴をちりんと鳴らした。
時代を超えて受け継がれてきた、温かな魔法のお守り。
ご先祖様の優しい想いに包まれながら、私のゆるゆるな日常は、これからもずっと大切に紡がれていく。




