第14話 お詫びと新しいゆるゆる
「……詩織、本当にすまなかった」
週末、実家から呼び出されて見た光景は……居間で父が深く深く頭を下げている姿だった。
テレビの反響と本家からの理不尽な叱責に怯えた私を、心配するどころか追い詰めてしまったこと。そして、お兄ちゃんからコンプラ違反になりかねない過剰な介入を指摘されたこと。
論理的な反論を叩きつけられた今、本家の兄共々ぐうの音も出せない状態にあった。
冷静になって事の顛末をすべて理解した父は、娘にかけた苦労と自分の情けなさを心から恥じていた。
「本家の兄上には私から厳重に抗議しておいた。もうお前にあんな心ない言葉をかけさせはしない……
だから、許してくれとは言わないが、これだけは受け取ってほしい」
申し訳なさそうに父が畳の上に滑らせたのは、一通の古い封筒と、重厚な木箱だった。
「……ふんっ」
私は頬をふくらませ、あからさまに不貞腐されてみせた。
普段なら「お父さん大丈夫だよ」なんて優しく許してしまうところだけど、今回は本当に怖かったし、大好きな日常を壊されかけたのだ。
(簡単には許してあげないんだから)
「なによこれ。いつものお団子屋さんの、季節限定の詰合せなら許してあげてもよかったのに」
噂になってるあのお団子が頭に浮かぶ……
(これは決して、食い意地を張っているわけではないのです)
「詩織、そんなこと言わず、まずは見てみなよ」とお兄ちゃんに促され、少しそっぽを向きながら木箱の蓋を開けてみる。
そこに収められていたのはーーー息をのむほど美しい、蒔絵が施された漆塗りの小さな猫耳の簪だった。
「それはな、東条の古い蔵に眠っていた明治時代の職人の品だ。そしてその封筒は……」
父が誇らしげに、けれど恐縮しながら説明を続ける。
「本家が所有している、あの川べりに建つ古い離れの鍵と譲渡書だ。あそこを「猫耳同好会」の専用茶室……いや、好きに使っていいサロンとしてお前に譲ると、兄上にも認めさせてきた」
「えっあの川べりの、風情あるお屋敷の離れ!?」
思わずふてくされていた顔が吹き飛んでしまった。
あの桜並木が見渡せる最高の立地にある、風情溢れる和風建築。あそこが自分の……そして、同好会のみんなで好きに使っていいなんて!
「……本当にもらっちゃっていいの……?」
「ああ、お前が守ろうとした『自分らしさ』を、今度はその場所でめいいっぱい楽しむといい」
父の言葉に、私はチラッと横にいるお兄ちゃん、お義姉さんを見つめた。
二人は満足そうに優しくうなづいている。
「……じゃあ、お父さん。今度その離れでやる第一回お茶会、ホストとして招待してあげるね」
そっと語りかけると、父の顔がパッと明るくなった。
今回の件で手に入れたのは、明治の職人が作った特別な猫耳の簪と最高のロケーションを誇るわたしたちの秘密基地。
私の心はすっかり晴れ渡り、新しいお気に入りの場所で始まる『至福なゆるゆるな日常』を想像して、胸を躍らせるのだった。
https://53016.mitemin.net/i1271718/ 猫耳かんざしのイメージです




