第13話 お兄ちゃんの背中
「……よし、まずは『自称・彼氏候補』たちの撃退からだね」
お兄ちゃんは腕まくりをすると、いつになく鋭い眼差しでスマホの画面を操作し始めた。実は企業のリスクマネジメント関連の会社を経営する優秀なセキュリティエンジニアであるお兄ちゃんの本領発揮だった。
まず、私のSNSに殺到していた悪質なダイレクトメッセージや特定班の投稿を、手際よく弁護士・警察相談用の証拠として自動スクレイピングでアーカイブ。悪質なアカウントには法的な警告通知を一斉送信し、大学周辺の野次馬対策として学生課やガードマンと連携した警備体制を即座に整えてしまった。
「ネットの悪意や勘違いな熱狂は、情に流されず論理と法で対処するのが一番だからね。詩織はもう心配いらな……っと、噂をすれば本家の伯父さんからだ」
着信画面に映る『東条本家』の文字。私が身構えるより早く、お兄ちゃんは迷わず通話ボタンを押し、スピーカーモードにした。
「樹、お前か!聞けば詩織を止めもせず、むしろ煽っているそうだな!東条の血筋がテレビで猫の耳などをつけて醜態を晒すなど、言語道断だ‼」
受話器の向こうから雷のような怒号が響き渡る。私が怯えそうになったその瞬間、お兄ちゃんが毅然とした、けれどどこか涼やかな声で割って入った。
「伯父上、お言葉ですが『醜態』とは何のことでしょうか?」
「何だと!?」
「詩織がやったのは、伝統的な和服の魅力を現代の若い世代や海外の方に広め、大学や地域社会から表彰された素晴らしい貢献です。テレビの取材も、彼女の真摯な活動が評価された結果ですよ」
お兄ちゃんは一切ひるむことなく、フェスティバルでの経済効果や地域貢献のデータ、大学学長からの感謝状の件を淡々と、完璧な論理で並べ立てていく。
「時代に合わせた和文化の継承こそ、歴史ある東条家が誇ることではありませんか?それを『猫の耳』という表面的な言葉だけで否定し、健気に励む若者の芽を摘むようなお考えこそ、我が家の名にそぐわないかと存じます」
「ぐ……、ぬぬぬ……!」
ぐうの音も出ない伯父様に、お兄ちゃんは最後に柔らかく、けれど絶対に譲らないトーンで付け加えた。
「詩織のあの笑顔と日常は、僕が……僕たち家族が責任を持って守ります。これ以上、彼女の邪魔をするようでしたら、僕も相応の対応をさせていただきますよ」
そう言って電話を切ると、お兄ちゃんはいつもの優しい『お兄ちゃん』の顔に戻り、私の頭を優しく撫でてくれた。
「……はい、これで本家も当分は黙るはずだよ」
「お兄ちゃん……カッコよすぎるよ!」
お義姉さんと春日さんも「キャー!お兄さん最高!」と大はしゃぎだ。あれほど巨大に見えていたトラブルが、お兄ちゃんの頼もしい背中によってあっという間に片付けられてしまった。
「さて、邪魔者は追い払ったし……いつものカフェで特大のパフェでも食べて、ゆるゆるな日常を取り戻しに行こうか」
お兄ちゃんかが優しく微笑む。
頼もしいヒーローに守られながら、私の愛おしい『ゆるゆるな日常』は、無事に私のもとへと戻ってきたのだった。




