第12話 奪われたゆるゆるな日常
「……嘘でしょ、これ!」
TV放送の翌朝。スマホの画面を確認した私は、あまりの通知の数にフリーズしてしまった。
ニュース番組での特集は大反響を呼び、私のSNSアカウントには何百通ものメッセージが殺到。その大半が「彼氏に立候補したいです!」「一目惚れしました、デートしてください!」といった、見知らぬ男性たちからの熱烈なアプローチだった。
さらに最悪なことに、大学の正門前には『TVで見た猫耳の女の子』を一目見ようと、野次馬や怪しいカメラを持った人たちが群がっていたのだ。
「東条さん、裏門へ向かおう!私が引きつけるから!」
春日さんの咄嗟の判断でなんとか講義室に逃げ込んだものの、私の心は恐怖と困惑で押しつぶされそうだった。せっかく手にした温かな日常が、またしても暴走したネット上の狂騒によって壊されていく・・・
だが、本当のピンチはそれだけでは終わらなかった。
放課後、スマホの画面に表示されたのは、めったに連絡してこない父からの着信だった。恐る恐る電話に出ると、受話器の向こうから重々しい声が響く。
「……詩織か。本家の兄上から連絡があった。『由緒あるわが一族の娘が、テレビで猫耳などをつけて醜態を晒すとは何事か』と、酷くご立腹だ。今すぐ同好会を辞め、実家に戻って謹慎しなさい」
私の家系は、古い歴史を持つ(五摂家の末裔)格式高い本家に連なる家柄だった。父は分家筆頭として一族のまとめ役を担っている。厳格な本家の伯父様にとって、私の活動は『家名の面汚し』にしか映らないのであった。
彼氏希望の押しかけ、野次馬からの無遠慮な視線、そして本家からの圧迫。
これまでで最大のピンチが押し寄せ、私は完全に追い詰められてしまった。
(私のゆるゆるな日常……本当に終わっちゃうのかな……)
誰もいない放課後の教室で、私は小さく丸まり、膝に顔をうずめて涙をこぼした。
その時、ドアが激しく開いた。
「詩織ちゃん‼」
息を切らせて飛び込んできたのは、お兄ちゃんとお義姉さんだった。二人とも普段の穏やかな表情ではなく、真剣そのものの顔で私を見つめている。
「話は春日さんから聞いたよ。本家が何か言ってきたんだね」とお兄ちゃん。
お義姉さんは私の前にしゃがみ込むと、優しく涙をぬぐってくれた。
「大丈夫よ、詩織ちゃん。彼氏希望の群れも、本家の頭ガチガチの伯父様も……私たちがまとめて追い払ってあげるわ。あなたの大切な『ゆるゆるな日常』は、絶対に守るから!」
二人の強い言葉に、私の胸の奥に再び小さな灯火がともる。
平穏な日常を取り戻すための、決死の交戦が始まろうとしていた。
前半最大の山場となるように考えました。
抗戦内容はGemini先生に指導いただきました。それが次話のお兄ちゃんの活躍につながります。




