第04話 きゃるーん☆
「せぇ~~のっ!」
私はその場でくるりと回った。
右の人差し指を頬に当て、左手は腰に突きながら折った左足を軽く跳ね上げる。
「やっぱり可愛いお市ちゃん、大勝利ぃ~~っ!」
ニッコリと笑い、左目をウインク。
擬音で例えるなら、『きゃるーん☆』だ。
「お市様、バンザイ!」
「お市様、バンバンザイ!」
「……ばんざーい」
桶狭間の戦いから一夜明け、鳴海城には大歓声が湧き上がった。
皆が私の名前を呼んで讃えてくれる。
気分が良くなった私は、ふふーんと胸を張った。
「……義元は逃がしたがな」
しかし、勝利の余韻に水を差す者が一人いた。
私は後ろを振り返り、鼻息を抜きながら信長の肩に優しく手を置いた。
「うーーーん……。どんまい?」
信長は私の手を叩き、勢いよく跳ね除けた。
「言葉の意味は分からんが、腹が立つ!」
「お前だ! お前のせいだろうが!」
「お前が義元と悠長に喋っているから、逃げられたんだろうが!」
あまつさえ、ビシビシビシッと三回連続、私の眼前に指を突き付けた。
そう、桶狭間で今川義元を討つことができず、逃がしてしまった。
これで歴史は変わった。
今後、どうなってしまうのだろうか。
私は澄み渡った空を見上げ、目を細めた。
「私……。自惚れていたよ。井の中の蛙だったんだね」
「ど、どうした? ら、らしくないぞ?
……へ、変なものでも食べたか?」
昨夜、私は深く反省した。
反省して、反省して、決意した。
「尾張だけじゃ駄目なんだよ
私の可愛さをもっと世に知らしめなくっちゃ!」
「……いつものお前だった」
私は目をくわっと見開いた。
感極まり、力強く握った右拳を勢いよく天高く掲げた。
「さしあたって、京へ行こうかな!
日本の中心で、可愛いを革命しちゃうよ!」
「素晴らしい! お供します!」
「おらも、おらも!」
「……俺は嫌だ」
柴田勝家と木下藤吉郎が拍手喝采する。
前田利家も拍手するが、ゆっくりでやる気がない。
私がギロリと睨むと、慌てて拍手を本気でし始めた。
「許す……。そして、もう帰ってくるな。
母上には、俺が上手いこと言っておく。あと、織田の名は絶対に出すなよ?」
だが、一番許せないのは信長だ。
深々と溜息を漏らし、手で私をシッシッと追い払った。
「ドロップキックっ!」
「のわっ!?」
私は助走もなく、信長の胸に飛び蹴りを叩き込んだ。
******
「竹千代……。久しぶりだな」
「お久しぶりです。吉法師殿」
戦後処理が始まった。
首実検を済ませ、今は捕虜の引見だ。
男の顔なんて見てもつまらない。
次々と決まってゆく処遇を右から左に聞き流し、私はぼんやりと空を見上げていた。
「どうだ? 独立しないか?」
「そ、それは……。」
さっさと清州城へ帰りたかった。
早く帰って、女の子たちにキャーキャー言われたかった。
だが、信長に叱られた。
お前が始めた戦いなのだから、最後までいろ、と。
「支援もしよう。
お前が三河を治めてくれるなら、俺は安心ができる」
「……矢面に立てと?」
ついでに、戦場における携帯椅子『床几』の文句を、私は訴えたい。
この椅子、女が座るように出来ていない。
どうしても足を開いて座る形になってしまうのだ。
「今や、俺も尾張の当主だ。
昔の友誼だけで、判断はできん。損得を考える必要がある」
そうしたら、信長に怒られた。
確かに、今の私は浴衣姿だ。
敗北者らに私の大事なところを見せるのは、ご褒美が過ぎる。
「……分かりました。
独立は我らが悲願。お受けいたします」
だから、前田利家を椅子にしようとしたら、もっと怒られた。
普段、信長は前田利家を犬と呼んでいるのだから、私が躾けてあげようと思ったのに。
「よし!
勝家、席を詰めてくれ。竹千代、俺の隣に座れ」
「なんと! そこまでの厚遇を私に!」
「ふっ……。俺とお前の仲ではないか」
今川義元挙兵の報を聞きつけ、清州へ帰ってきた前田利家。
大決戦を前に心残りを晴らしたいと、私に松と別れてくれと必死に土下座してきた。
そういうことなら、松自身に答えを聞いたほうが早い。
利家の目の前で、私と松はねっとりと仲良くしてみせた。
すると、利家はナマクラの槍を暴発。
触れてすらいないのに、ポッキリと折れてしまった。
私は大爆笑。松も吹き出した。
利家は泣き出した。
「次が最後になります」
「ようやくか……。連れてこい」
しかし、怪我の功名。
松が利家を慰め、ナマクラの槍は輝きを取り戻した。
その結果、私と松は旦那公認の仲になった。
無論、ヒエラルキーは私、松、利家の順である。
私は利家に触れさせなかったが、たまには三人で仲良くなるのも楽しいなと思った。
「くっ……。押すな! 自分で歩ける!
私を誰だと思っている! 私は……。」
暇すぎて、松の痴態を思い出す。
私の乙女回路がキュンキュンと濡れ始めた。
床几の座りが悪くなり、腰をもぞもぞ動かした、その時だった。
「……お前は、あの時のヒヒ女っ!?」
酷い暴言が飛んできた。
女性蔑視、大反対。
私は可哀想な女性を慰めようと、その姿を探す。
だが、左を見ても右を見ても、後ろを見ても、むさくるしい男どもばかり。
首を傾げ、隣を見ると、信長が無言で私を指さした。
「はぁっ!? お市ちゃんは可愛いだろうが!」
私は床几を蹴って立ち上がった。
「ま、待て! お、俺じゃない!」
「シャイニングウィザードっ!」
「ぶべらっ!?」
床几に座る信長の右膝を駆け上がって、その顔面に膝蹴りを炸裂させた。




