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19【変わり身】


「そんな……まさか、お前が」



 

「あーあ。バレちゃった」


 なおも鳴り響く金属探知機。その人物は、いつものように微笑みながら、呆気なく自白した。


「ボク、アンドロイドなんだよね」


 当該人物――ハイペリオンは、取り繕うこと無くあっさりと暴露したのだ。


「そんな……!」


 ハイペリオンから、慌てて距離を取る。予想だにしない人物の告白に、皆、驚きを隠せなかった。

 シドはハイペリオンの前に立ちはだかる。


「ハイペリオン。……いや、お前は誰だ? ……いつから成り変わっていた?」


 このハイペリオンは、いつからハイペリオンでなくなったのだろう。であれば、今ここにいる彼は誰なのか。そしてなぜ誰一人としてこの瞬間まで異物に気が付けなかったのか。謎は深まるばかりだ。


「そんな怖い顔をしないでよ、船長。ボクの機体名はArtemis‐N‐tep‐HPL。ハイペリオンに成ったのは半年前かな。ほら、君たちがアルテミス社のアンドロイド輸送機を襲ったでしょ? あの時、この船にこっそり乗り移ったんだ。ぼけーっと呑気にしている奴がいたから、殺して皮を貰ったよ。あのプラントヒューマノイド、ほとんどガーデンに引きこもっていたみたいだし。人目に付きにくくて色々と都合が良かったんだよね」


 半年前、ということは俺が彼と出会ったときには既にこの男はアンドロイドだったということだ。ハイペリオンという人物の皮を剥いで被っているなど、誰が想像できるだろうか。あまりにも自然な振る舞いに、誰一人として本人では無いと疑いさえしなかった。

 付き合いの浅い俺が彼の正体に気が付かないのはある意味仕方がないことであるが、他のクルーが気が付かないのは相当だろう。意気揚々と喋る彼はいつものハイペリオンなのに、彼ではない。その矛盾がなんとも奇妙だ。


「じゃあ本物のハイペリオンはどこにいるんだ?」


「今頃ガーデンの植物達の肥料になってるよ。多分形も残ってないけど。あはは!」


「なんてこった! まさか、お前……菜園に埋めてないよな、それ」


 エンブラントが青ざめる。それを見て、ある事を察したジャックスが凍り付く。


「――最悪だ!」


 食堂で提供されている新鮮な野菜たちは死体の養分を吸っていた? 皮を剥がれた腐乱死体――さぞかし良い肥料だっただろう。身体に死体の養分が吸収される画を想像し、胃酸が喉元にこみ上げた。


「どうだったかな」


アンドロイドは光を灯さない目で、冷ややかにそう言い放った。


「それじゃあ、あれは? お前、よく光合成してるじゃないか!」


ガーデンを訪れると、光合成をするハイペリオンを目にする機会がある。アンドロイドなら必要の無い行為だ。俺が問いかけると、アンドロイドは可笑しそうに笑った。


「演技だよ。信じていたの? 君ってば本当に純粋だなぁ。――いや、ボクにアンドロイドじゃないと言って欲しかったのかな? ふふ、残念でした」


 アンドロイドは悪びれること無く俺にそう言ってのけた。あのお喋りも、植物を愛でる穏やかな時間も。全て演技だったというのか。比較的仲が良いと思っていただけに、裏切られた気分だ。


「ふざけるなよ、お前……!」


 殴りかかろうとするジャックスを諫め、シドが鋭い目つきでハイペリオンを睨みつける。


「……君の目的はなんだね」


「いや、別に目的は無いんだけど。……というか、達成した。廃棄されたくなかっただけなんだよ。ボク。元々ボクが乗っていたのは、廃品ばかり乗せられた船だったんだ」


「廃棄を免れる為にこの船に潜り込んだという事か? じゃあ、わざわざハイペリオンを殺さなくても良かった筈だろう?」


「だって! 君達、アルテミス社のアンドロイドを憎んでいるようだったから……。バレてはいけないと思ったんだ。彼には悪い事をしたと思っている。……けど! よく考えてみてほしい。ボクの模写は完璧だ。彼の人格、記憶、行動パターン全て、ボクがそっくりそのままインストールしている! 現に、こうなるまで気が付かなかったでしょ? ボクとハイペリオン、何が違うって言うんだい? 再現率は九十九%を超えているんだよ? それにさ、ボクは最新型のコンピュータを積んだ高機能アンドロイドだ。何が不満?」


「……確かに。実は元のハイペリオンよりもハイスペックなんじゃね?」


「不謹慎だぞアハルテケ」


 アハルテケの戯言にジャックスが突っ込む。しかし、アハルテケの言うことも一理ある。本質的に、ハイペリオンとこのアンドロイドは変わらないから、問題が無いという事だ。さらにそれが、優秀な人工知能を備えた生きるスーパーコンピュータだとしたら、実害は無いのではないだろうか。(ハイペリオン本人を殺害したのは別として)

 シドは顎髭を擦りながら逡巡していた。皆が彼の次の言葉を待った。


「……クルーを殺した落とし前は付けてもらわねば困る。だが、お前が有用である事を証明するのであれば、正式に仲間にしてやらんでもない」


「本当? やったぁ! ボク、がんばりまぁす!」


 アンドロイドは、飛び跳ねてピースサインをして見せた。一方で、シドの言葉にクルーは納得していない様子だ。特に、ジャックスは不快感を顕わにしていた。


「船長! ……俺は反対です。アンドロイドは戦争に使えないよう宇宙条約によってヒューマノイドに危害を加えないプログラムを施されている筈ですが、コイツはハイペリオンを殺しました。……つまり、コイツはヒューマノイドの敵になり得ます。俺たちに更なる被害をもたらすでしょう。……こいつは一般的なアンドロイドとは訳が違います」


 ジャックスの説得を聞いて、アンドロイドはさも可笑しいとでも言うように笑った。


「あんなプログラム、その気になれば自分で書き換えられるよ? 他のアンドロイドたちは、なぜかできなかったみたいだけど。それにボク、ちゃんと反省しているよ? もう悪さはしないって誓うよ」


 上目遣いでシドを見上げるアンドロイド。


「ありえない! プログラムの書き換えをアンドロイド自身ができるはずがない! 大問題だ」


「できたんだよなぁ、これが! ボクは天才アンドロイドだったみたいだ」


 胸を張って得意げなアンドロイド。このやかましさも元のハイペリオンから譲り受けたものなのだろうが、いちいち動作が騒々しくて鼻につく。


「クソ……本物そっくりなのが腹が立つ!」


「ジャックス。お前の言う事も一理ある。だが、それは我々ヒューマノイドとて同じ事。誰だって敵・味方になる可能性を孕んでいる。それに、この船には誰一人として罪を負っていない者はいないだろう」

「それはそうですが……」


「Artemis‐N……。……いや、もうややこしいからハイペリオンと呼ぼう。君に約束をしてもらう。一つ。我々に危害を加えないこと。二つ。我々に協力すること。三つ。与えられた仕事をこなすこと。……守れるか?」


 三本指を突きつけられたアンドロイドは、ぱぁっと顔色を明るくした。


「うんうん! 守るよ! ボクは義理堅いアンドロイドだからね!」


 アンドロイドに義理堅さなどあるのだろうか。星が飛び出しそうなほどのかわい子ぶりっ子。これが天然の物だというから、恐ろしい。結果的に、ハイペリオンは一週間のトイレ掃除を命じられ、今まで通り過ごすことを許された。


「なにはともあれ、ようやくロッツォとヘリオス殺しの犯人が見つかったって訳ですね……まさかアンドロイドが犯人だったとは思いませんでしたよ」


 ジャックスが一件落着と締めようとしていたところである。ハイペリオンはきょとんとした表情を浮かべた。


「え? ……僕はヘリオスを殺してないよ?」


「…………え?」


 首を傾げるハイペリオン。一同は固まった。今までの殺人事件の犯人が分かって、平和な船内に戻ると思い込んでいたところに投下された一言は、不意打ちだった。


「ハイペリオンは皮を貰うために殺したでしょ? ロッツォは、ボクの事を疑っていたから殺した。……でもヘリオスの件は、知らないよ。ボクが第一発見者ってのが怪しいのは分かるけどさ」


「待てよ。ロッツォの首の後ろには、インサージェントの仕業特有の傷があったんじゃなかったか? アンドロイドが犯人だって?」


「偽装だよ。まんまとインサージェントの仕業だと疑ってくれたね。あはっ! ボクってば天才的」


「くそ、くそっ。じゃあ誰がヘリオスを殺したっていうんだよ!」


 アハルテケがハイペリオンの胸倉を掴み揺する。皆、落胆の声を漏らした。――気疲れして、誰もアハルテケを止めようとしない。


「知らない、知らないよ! 暴力反対!」


「それに、ヒューマノイド総数がハイペリオンを引いても、マイナス1のままです。……結局、何かが俺らの中に紛れているという事実には変わりません」


「……ヘリオスの件は、後日改めよう。……皆、引き続き周囲に気を配るように。解散」


 珍しくシドの声が落ち込んでいる。相当参っているのだろう。

 ――犯人が不明で締まらない雰囲気の中、こうして第二の殺人事件は仮初めの終わりを迎えることとなった。リュウの所在に関しても、未だ有耶無耶のままだ。多くの謎を抱えたまま、この日は散り散りになった。

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