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15【襲撃】


「諸君。聞け」


 昼時――大勢の海賊達に混ざりながら昼食を取っているときだった。シドが突然やってきたかと思えば、突然大声で話し始めた。それまで賑わっていた食堂内が、一斉に静まりかえり、異様な空気に包まれた。


「……明後日、貨物輸送船を襲撃する」


 シドがそう言うと、歓声が沸いた。奇声を上げながら飛び跳ねる者。両手を挙げて喜ぶ者、様々だ。どうやら海賊達にとっては一大イベントらしいが、俺のような一般人からすると、その略奪行為は度し難い。


「待てよ! ……民間の宇宙船だろ?」


 俺の発言が、場の空気をしらけさせるのは予想ができた。案の定、冷たい視線が向けられるが、目立ってでも、声を上げずにはいられなかった。


「何言ってんだ、喜べよアイザック。俺達ゃ海賊だぜ? 奪ってなんぼだ」


 ヘリオスが俺の背中を無遠慮に叩く。その馬鹿力のせいで前につんのめりそうになりながら、抗議を続ける。


「俺は海賊じゃないから喜べない」


「でもさぁ、この会議に呼んだってことはアイザックにも活躍して欲しいって事でしょ? 船長」


 通りすがりのハイペリオンがにやにやしながらシドの表情を覗き込んだ。


「……まぁ、そういうことだ。ルルイェ人の力を見てみたい。アイザックよ、この船で生活している以上、今回はお前にも参加してもらうぞ。働かざる者食うべからずっていうじゃないか。なにか手伝いをしてもらいたいと思ってね」


「……だから、俺は……」


 命を救ってくれたことには感謝こそすれど、海賊の一員になった覚えは毛頭ない。確かに、彼らに馴染みたいと思っていたが、悪事に直接加担するのはどうも気が進まない。


「まぁ聞け。……相手の船もカタギじゃない」


「どういうことだ?」


「お前も知ってるだろ? 悪名高いアルテミス社の事を」


 アルテミス社。――故郷ルルイェ星に不法投棄を繰り返すあの船の、無情な光景を思い出した。荒野に廃棄されたアンドロイド為の悲壮な表情が、今でも脳裏にこびりついている。お前もゴミなのだと、アンドロイドたちが俺を恨み、道連れにしようとしていたような気がしてならなかった。


「ちょうど良い。……皆聞くがいい!」


シドは観衆に語りかける。


「アルテミス社は悪徳会社だ。アンドロイドを企業に売り付けまくってヒューマノイドの仕事を奪った! 奴等のせいで人類史上最大規模の失業難が発生したのは、有名な話だ。だろう? ……エンブラント」


「あぁ……。間違いないね」


 厨房から顔を覗かせたエンブラントが同意する。


「それだけではない。ゴミの不法投棄による環境破壊は深刻だ! 宇宙デブリの多くはアルテミス製だというじゃないか。それに、生産工場設立の為だと言って、先住民達が難民となっている問題を知らないとは言わせない。……この中にもいるだろう? 故郷を追われた哀れな者が」


 数人のクルーが立ち上がる。


「そうだ! 奴らを許すな!」


 怒りに燃えるその瞳。難民問題は、やはり根深い。

 

「……奴らは富の為に弱者をとことん蔑ろにする畜生共だ! ……思わないか? 奴らが居なければ、俺達は業を背負う必要はなかった!」


 シドの話は、聞く者の心を打った。海賊達が真剣に聞き入っている。真っ直ぐにシドを見つめる彼らの表情は硬く、憎悪と憎しみが入り交じっていた。彼らもそれぞれに深い事情があって、その果てに海賊へとなり下がったのだろう。


理解(わか)らせてやろう! 宇宙はヒューマノイドのものだと! そして! 我々がその正義の鉄槌を下すのだ!」


 突き上げられた拳。海賊達は、同様に、雄叫びと共に拳を高く突き上げた。皆の目はやる気に満ち溢れている。――それでも、俺には理解ができない。


「……でも、彼らにも家族や恋人がいる」


「アイザック。気持ちはよくわかるが、考えてみてくれ。君の故郷を汚したのは誰だ? 仕事を奪ったのは誰だ? ……君達ルルイェ人は、ずっと不遇な扱いを受けていただろう? アルテミス社を含む大企業はな、自分たちの都合の為にパブリックエネミーを作り出すのだよ。ルルイェ人もその一つだ。――ルルイェ星は貴重な鉱石が眠る星。利権獲得の為に、先住民たる君ら先住民を隅っこに追いやったのだ。君が宇宙で難破するきっかけは、すべてアルテミス社の悪行に繋がるとは思わないかね? 君の同胞に対する復讐を果たせる――そう捉えることもできよう。仲間の為に力を振るうことは、そんなに悪いことか?」


 シドは俺の目を見つめた。

 ……俺は、反論ができなかった。何か言わなくてはと思っても、適切な言葉が出てこなかったのだ。それは、その通りかもしれないと思ってしまったからに相違ない。

 シドの言う通り、ルルイェの資源はもともとルルイェ人の物だったのに、余所者たるアルテミス社の人間にかすめ取られてしまったのは、一つの小さな星を緩やかに死に至らせるには、十分な打撃だった。その結果先住民であるルルイェ人の多くが低い賃金で雇われ、不当に労働させられている。ルルイェの民が団結し、その気になれば、奴らなんて追い出せるのに。それをしないのは、思慮深い民族なのだからだ。その優しさに漬け込んで、奴らは悪用したのである。


「アイザック。お前の活躍に期待している。――女神は、お前を赦してくれるだろうよ」


 シドは俺にふわりと微笑んだ。その微笑みには強い強制力が含まれており、俺の逃げ道を塞ぐ。


「皆準備に取り掛かるように。打ち合わせは個々で行う」


 シドが退室すると、皆、中断していた食事を食べ始めた。団欒のテーマは、専ら襲撃のことだった。俺は肩身が狭くなって、急いで食事を終え、食堂を飛び出した。

 部屋に戻る道すがら、考え事に耽る。先ほどのシドの話が、自分の役割について考えるきっかけになっていた。

 俺は何者なのだろう。ルルイェ人で、インサージェント、リュウのパートナーであり、シドのコレクション……。更に、海賊の一味としてカテゴライズされるのならば、俺には荷が重すぎる。身軽に生きたいと願っていた筈なのに、気がつけば色々なことで雁字搦めになってしまっていた。

 愛する人と、平和に生きたいだけだったはず。何故、こんなことに巻き込まれたのか……。数奇な運命を心底恨むのであった。

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