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11【尋問】

 

 ――朦朧とした意識が、次第に覚醒していく。金属の擦れ合う冷たい音で、俺はようやく現実へと引き戻された。手首に触れる冷たい感触は、鋼鉄製の手枷だった。見上げると、そこから伸びた鎖が天井のフックへと繋がっており、俺は天井から吊されていることを理解した。手枷に体重が掛かって腕に食い込み、ジリジリと痛む。

 辺りを見渡すと、いくつかのトレーニング器具と思しき器械がぽつんと置かれた、妙な部屋にいた。アハルテケに運んでこられたらしい。


「お目覚めか?」


 声の主は機械に腰掛け、愉快そうに俺の姿を眺めている。俺は精いっぱいの侮蔑を込めた眼差しで彼を睨みつけた。


「……クソ野郎」


「ははッ。ルルイェ人と言えど、拘束されてちゃ大したことねぇな」


「薬なんて卑怯なもの使われていなければ、俺が勝ってた」


「おっと。これから始まんのは尋問なんだぜ? 口の利き方に気をつけるこったな」


「……痛いのは慣れてる」


 虚勢を張るが――本当は、痛いのは嫌いだ。ルルイェ人の高い治癒能力故に大抵の傷は治ってしまうが、痛みが軽減されるという訳ではない。ルルイェ人の歴史上、処刑で死んだ者は、痛みに悶え苦しみながら、中途半端に生きながらえながら、死ねない責め苦を味わってきた。


「ルルイェ人が痛みに強いってのは有名な話だ。だから特別コースにしてやるよ。……でも、お前がちゃんと俺の質問に答えられたら痛いのはナシにしてやる。解放だってしてやるかもな」


 そう言うと、アハルテケは俺の首に謎の装置とケーブルで繋がった、分厚いベルトのようなものを巻き付けた。内側に毛のように微細な、短い針がずらりと並んだ、革製のベルトだ。皮膚にそれらが刺さる痛みを想像して、悪寒が走った。せめてもの抵抗としてアハルテケの手に噛み付こうとしたところを、一発殴られる。


「大人しくしないと……。な?」


「…………」


 にっこりと笑いながら、アハルテケが俺の首にベルトを取り付ける。おぞましい感触と痛みを伴い、針の筵が首筋に刺さった。


「いっ……なんだこれ……外せ……!」


「血の首輪。さぁ、これを見ろ」


 顎を掴まれて無理矢理机の上に置かれた装置を見せつけられる。メトロノームの様に、針が付いていて左右に振れる仕様のようだ。


「これはポリグラフだ。……嘘はすぐばれるからつかない方が身のためだぜ。お前が嘘をつく度に俺はお前を殴る」


 ――ポリグラフ。いわゆる嘘発見器だ。太古の昔から、尋問に使われていたと言われる装置である。


「さぁ。答えてもらおうか。いいか、できるだけ簡潔に答えろ。イエスかノーが望ましい。……お前はロッツォを殺したか?」


「何のことだかわからない」


 ピクリとも動かない針を見て、理不尽に腹を一発殴られた。鳩尾に響く鈍い痛みと恐怖で膝が勝手に震えた。


「はっきり答えやがれ! ほら! ポリグラフが反応しねぇだろ!!」


 どうやら曖昧な答えをポリグラフは判別できないらしい。


「ロッツォを殺したか?」


「……ノー」


 ポリグラフの針が左に、ぐいんと振れた。アハルテケは手元に置いてあった用紙に何かをメモして次の質問に移った。


「……お前は俺たちに害なす者か?」


「……ノー。そんなつもり、無い」


 ぴー。右に針が振れ、甲高い機械音が鳴った。


「違う! 違う、違う……! その機械、壊れているんじゃないか!?」


 海賊とはいえ、一応は命の恩人たちである。叛逆しようとか、乗っ取ろうとか、そのような考えに至るほど恩知らずではない。にも関わらず、ポリグラフは”YES”を示した。リュウと脱出する際に、もしかしたら戦闘がおこるかも、と思った程度で、決して争いたい訳ではない。俺が必死に弁明しようとするも、アハルテケに脇腹を蹴られる。


「うぅ……」


「何を企てている? まさか産業スパイだったりすんのかよ?」


「知らない、知らない……!」


 尋問は続く。いくつか意味の分からない質問をされ、答える度に暴力を振るわれた。何故、このような目に遭わなくてはならなかったのだろうか。そんなことを考える暇もないまま、次々と質問に答え続けた。


「お前はルルイェ人を探している?」


「……! リュウの事を知っているのか」


「イエスかノー」


「……う……イエス」


「そいつとはどんな仲だ? 聞かせろ」


「……友人だよ」


「あっそ。オトモダチね……オーケー、もういい」


 満足したのか、首に巻かれたベルトを外される。針が刺さっていた部分から細い線を描いて血が垂れた。ようやく尋問が終わったのだと理解して、安堵に包まれた。


「それじゃあ教育の時間だ」


「……え?」


「お前が最も嫌がる方法で痛めつける」


「え? ……尋問は終わったんじゃ……」


 解放されると思っていたのに、手首の拘束具はそのまま、ズボンを下着ごとずり下ろされる。


「………………え?」


 血の気が引いていく。まさか、まさかこいつ。嫌な予感がする。


「お友達とこういうことしてた感じ?」


「なんで、それを」


「バァーカ!! カマ掛けただけだよ! 決まりだ、これに決めた!」


 馬鹿正直な自分の失言を恨んだ。俺は今から、この男に犯される。


「やめろ……それだけは……!」


「俺ァな、ヒトが一番嫌がることをするのが好きなんだよ」


 ゴツゴツして冷たい手で、ぬるりと尻を撫でられて鳥肌が立った。気持ちが悪い。胃液が込み上げてくる。


「うっ…………」


 思わず声を漏らすとアハルテケはにっこりと俺に微笑みかけた。


「さぁ、楽しもうぜ」

 

 

 …………。何時間経っただろうか。 怖い。寂しい。痛い。……悲しい。それらの感情がごちゃ混ぜになって、胸に溢れ返る。リュウとは、暴力的な衝動を発散し合うために身体を重ねていたが、一度だってこんなに酷い抱き方をされたことはなかった。対等な関係の元、信頼して身体を委ね合っていた。対して、これは暴力だ。相手を屈服させる為の手段に過ぎない。

 リュウは、どうして助けに来てくれないのだろう?

 今だって、どこからか俺のことを見ているのではないのか?

 ……誰でもいい。女神でも、邪神でも、何でもいい。誰か助けてくれ。――そう、頭の中で祈った。

 祈って祈って、――俺は全てに見放されているのだと、理解した。

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