第三十三章 【雪に溶ける真珠】
人の目に触れないようにだとか、隠れるようにだとか、考えてもいなかった。
けれど確実に、リヴィアは人の気配の少ない道を進んでいた。
その道の先に広がるのは、国のはずれの雪原。
父や弟の眠る場所は、こんなに穏やかではないのだろう。
それでも……家族に、会いたかった。
力無く倒れるように、白銀に身を埋める。
天を仰げば、ふわりと落ちてくる雪の花が、世界の音を吸っていく。
──この白は、父や弟の魂のかけらなのだろう。
このまま身を包んでいくのを待っていれば、お父様とルシアンに会えるだろうか。
肌が雪を溶かす音すら消えていき、雪にぬくもりすら感じなくなってきた。
それでも、空だけが異様に近い。
*
雪原に寝転がっている人影を視界に捉えたリュクスは、それが“あの治癒士”だと直感した。
──危ねえな、と察知はしていたが、まさか今日のうちにやらかすとは思わねえだろ。
調達した物資を馬に括り付け終えたその手で手綱を引き、彼は落ち着き払った足取りでリヴィアへと歩み寄っていく。
一歩の距離まで近付いても靴先の頭は身じろぎすらしない。リュクスの馬が、リヴィアの頬へ鼻先を寄せてもだ。
「何やってんだ、おまえ」
返事はない。屈んで呼吸を確認してみれば、か弱いが規則正しく繰り返されている。
馬が鼻先で雪を払った青白い頬に触れて体温を確認した瞬間、リュクスは小さく肩を下げた。
「アウト寸前だ。頼むわ、フォルド」
フォルド、と呼ばれた馬は短く鼻を鳴らす。
それを受け取ったリュクスは白い女と共に馬上の人となり、自分の上着を彼女に巻き付けた。
「……会えな、かった」
独り言のように落ちた呟き。
「そっか」
この瞬間、彼は知ってしまった。
リヴィアは“強い治癒士”でも、“伯爵”でもない。
──“帰りたい場所を失った人間”なのだと。
第三十三章 了




