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第二十九章 【遠い冷たさ】
私の周りには、優しい人たちばかり。
「──伯爵代行を立てます。どうか、閣下はご静養ください」
けれど今は、その真綿のような優しさが、私の首を絞めていく。
「──あなたがおられずとも回せています。どうか、ご体調を戻すことに専念なさってください」
“これは罰だ”と言われたほうが……悪意のほうが、よほど耐えられた。
優しさは、拒めない形をしていた。
治癒院の指揮からも、伯爵としての決裁権も一時的に外された。
どこへ向かおうと、休んでいてください、と返される。
どこか距離のある世界が、削がれていく。
私は今──“何”として、今ここにいればよいのか、わからない。
雪よ。
父の、弟の亡骸を抱く雪よ。
私の心を閉じていくおまえの冷たさも、もう、遠い。
第二十九章 了




