第十九章【針山の爵位】
「少なくとも、喪に服している間は認められません」
継承手続きも葬儀も終え、伯爵府へ“前線への復帰”を願い出れば、そんな答えを突き返されてしまった。
氷を飲み込んだかのように、胃の腑が冷えていく。
それは拒絶ではなかった。正当な判断であり、彼女自身も理解できてしまう答えだった。
「伯爵としてのご立場をご理解ください」
「……承知しました」
父が戦線へ出ることを許されていたのは、弟や私がいたからだ。
今のスノウレイ家に残されているのは、私一人。
けれど──けれど。
戻れないのならばせめて、と治癒院へ赴けば、見知った顔たちが“痛ましいものを見る目”向けてくる。
「私たちだけでも回せます」
「無理をせず、今はお休みください」
いいえ、私は、休みたくなどないのです。
そんなことを口走れば、治癒士として尚更のこと休息を奨めてくるだろう。
この場所は諦め、重い足取りで邸宅への帰路につく。
心休まるはずの実家でも、空気は張り詰めていた。
気を遣う使用人たちは誰も、私に涙を見せまいと気丈に振舞っているのが、感じ取れてしまった。
一度、ヴァルモンド伯が訪ねてこられたけれど……幼い子供にするように、そっと私の髪を撫でるだけだった。
静寂に包まれた部屋で、相続などの書類に目を通し、ペンを手に取って紙面に走らせる。
ペン先が紙を引っかく感触が指先に伝わってくる。
──リヴィア・スノウレイ伯爵──
ああ、戻れないところに、来てしまったのだ。
ペンを置くこともできないまま、目元を覆って静かに俯いた。
第十九章 了




