第十八章【喪失】
スノウレイ一族は歴史ある伯爵家だ。
けれど、爵位を賜っていた父も、後継者である弟ももういない。
必然的に、リヴィアが受け継ぐことになる。
その手続きのため、一時帰宅を余儀なくされた。
邸宅を守ってくれていた使用人たちに労いの言葉をかける。誰もが沈痛を隠しきれておらず、嗚咽せぬよう言葉を発することを控えている。家令のみが、お帰りなさいませ、と苦しそうに頭を下げるのみだった。
リヴィアの帰宅を確認した伯爵府より、使者が送られてきたのは、ややあってからだった。
「スノウレイ伯爵家当主の継承に関する手続きのため、リヴィア・スノウレイ様にご出頭を願います」
蒼天戦域よりも穏やかな空。生ぬるく頬を撫でる風。
静かな謁見室に、官僚の無感情な声が響く。
「スノウレイ伯爵、国歴千百六十七年星二月十六日、蒼天戦域において戦死と認定」
「……」
「遺体の回収は叶わず。代替として、武装の一部が確認されております」
提出する他なかった形見が、公的な証拠へ。
「直系男子の死亡により、スノウレイ伯爵家の爵位および義務はリヴィア・スノウレイ様に継承されます」
宣誓を、と促され、リヴィアは跪いたまま口を開いた。
「私は、スノウレイ伯爵家当主、として……」
これを最後まで紡げば、もう戻れない。
当主になどなりたくない、と腹の底で静かに呟く。声が震えても、途中で詰まっても、待たれるだけ。拒むことは許されない。
「……王国と、領民に対する責務を……引き受けることを、誓います」
「正式に、スノウレイ伯爵閣下となられました」
その言葉に、頷いたのかどうか、自分でも分からなかった。
爵位の継承官僚を宣言され、間髪入れずに告げられた。
「葬儀の日程については後日ご連絡いたします。喪主は、伯爵閣下となります」
戦場では、誰かが死ねば泣くことが許された。
けれどここでは、死はただの“引き継ぎ事項”だった。
第十八章 了




