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第十六章【穂先が示す道】

 伝令から書簡を渡された夜から、四度目の夜を迎えた。

 最前線に出ていた三部隊のうち帰還したのは、一部隊にも満たない人数だった。


 せっかく回復した魔力が尽きないよう調整しながら、リヴィアは負傷者の傷を癒していく。

 そして比較的傷の浅い第一部隊長の傍らに膝を突いたとき──彼は、口髭の下で奥歯を噛み締めていた。


「……リヴィア嬢」

「フェズロード伯、今は安静に」


 彼は、第二部隊長であった父と同期の、騎士団の盾役だ。

 治癒を施そうと翳した手を、彼が掴んだ。その大きな右手は、微かに震えている。


「これを──」


 掌にそっと置かれたのは、折れた槍の穂先だった。


「彼は……立派だったよ」


 ほんの一瞬だけ間を空け、リヴィアは静かに父の“役目を果たした証”を握った。


「ありがとうございます」


 ──それでも、父は帰ってこなかった。


 一度だけ握り直した、冷えきった槍の穂先を膝に置き、改めてリヴィアはフェズロード伯の抉れた鎧の上に掌を翳した。

 父はもういない。その実感が追い付いてくる前に、一人でも多くの傷を癒さなければ。


 *


 負傷者の容態が落ち着き、リヴィアは弟の姿を探して砦のあちこちに視線を走らせた。

 帰還した者たちの中に父の姿がなかったことには、気付いているはずだ。だから……今は一人でいるだろうと、思った。


「リヴィア姉」

「レオン……」


 弟の親友が、槍を磨いていた手を止めて声をかけてきた。


「もしかして……ルシアン、探してる?」

「ええ」

「……見張りに入ったよ。たぶん、一人になりたいんだろうな」


 レオンも察していたようだが、リヴィアの両手に握られている折れた槍で確信を持ったようだった。

 あっち、と指差すことで弟の居場所を示してくれた彼に礼を残し、リヴィアはしっかりと歩を進めていく。


 砦の防壁に上がり、篝火のそばに人影を見つけた。


「ルシアン」

「……姉上」


 兜で覆い隠された瞳は、揺れているようには思えなかった。


「今日は冷えますね。そのせいか……星がよく見えます」


 強い憧れを抱いていた父の背を見ることは、もうない。

 それを、弟はもう受け入れているのだ。


「ルシアン。フェズロード伯が……これを」


 寒さに冷えた手で差し出した、父の形見。


「私は治癒士だもの。持つにはあなたが相応しいわ」

「……はい」


 姉弟が見上げる夜空はとても澄んでいて──星々の瞬きが、ひどく冷たく見えた。




 第十六章 了

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