第十五章【まだ、立てる】
空になった薬瓶の詰められた箱を倉庫の片隅に運び終え、リヴィアは備品庫で洗った包帯を整頓する作業に入っていた。
アシェルに魔力を分け与えられたとはいえ、治癒魔法を使用するにはまだ足りない。
だから雑務をしつつ回復を待っているのだが……戻りが、いつもよりも遅い。おそらく、増幅剤を短時間で多用した副作用だ。
もどかしく思う中、丸めた包帯のひとつを取り落としてしまった。
転がっていった先に、杖を突いた負傷兵が立っている。付き添いの後輩治癒士が包帯を拾い上げ、リヴィアに手渡してくれた。
「あの、どうされました……?」
後輩に礼を告げ、負傷兵にそう問うた。
動けるとはいえ傷は痛むだろうに、わざわざこんなところまで。
「負傷者を代表し、あなたに礼を伝えたく参りました」
ヒュ、と小さく喉が鳴ったと同時に、近くで屋根の雪が落ちた。
「あなたがいてくれたから、我々は命を繋いでいる。感謝が尽きません」
「リヴィア様の働きで、助かった人は多いのです。あなたのような治癒士になりたいという声がそこかしこで上がってますよ」
助かった人は多いかもしれない。
けれど──けれど、“多い”だけだ。取りこぼした命もあるという事実が胸に迫る。
まっすぐな感謝や尊敬の眼差しがとても痛くて、それを覆い隠す仮面をリヴィアは被った。
「……生きてください。それが、私の喜びです」
穏やかな笑みを浮かべ、決して嘘ではない言葉を紡ぐ。
それを受け取った負傷兵と後輩は、深く一礼をしてその場を後にしていく。
ゆっくりとした足音が遠のいていくのを感じながら……手の中にある一巻きの包帯が、どこか重く思えた。
大丈夫──まだ、立てる。
そう言い聞かせる声は、驚くほど静かだった。
第十五章 了




