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第十二章【異なる強さ】

 騎士団は陣形・役割・規律を重んじて戦闘に臨む。それは、仲間を守るために磨き上げられた戦い方だ。

 だがリュクスは違った。無理をしない。退く判断が早い。それでいて、踏み込む瞬間の決定打だけは異様なほど鋭い。

 彼は勝つためではなく──生き残るために戦っている。

 シルヴァンには、そう見えた。


 それは卑怯でも、逃げ腰でもなかった。

 ただ、生き延びることを最優先に据えた戦い方。


 ──騎士団では教えられない強さが、今、目の前で形を持って動いている。


 ややあって戦闘が終わり、ワイバーンの血に濡れた槍の穂先を拭う間まもなく、ルシアンが興奮気味にリュクスへ質問を矢継ぎ早に投げかけ始めた。


「好奇心旺盛だなぁ、ルシアンだっけか」

「はい、ルシアンです!それで最後のあなたの一撃の──」


 雪明かりにも負けない煌めきを放つあの目はもはや、強さを見ている目ではない。生き方を見ている目だ。


 ──ああ、彼は、憧れを抱き始めている。


 リヴィアはいつか気付くかもしれんが、今は誰にも言えない。

 止めればいい話では済まないからだ。


 ルシアンは“逃げたい”のではなく、“選びたい”のだ。

 だから、俺は止めることはしない。


 それでも、その道がどこへ続くかを知っているのは、見送る側だけだった。


 ルシアンの視線はもう戦場ではなく、あの男の“選び方”を追っていた。

 実の弟であるレオン以上に俺を慕ってくれるルシアンは、道を選ぶことを知った、“一人の青年”となったのだ。


「シル兄……ワイバーンって、あんな速さで来るんだな……」


 少し震えた実弟の声に、少しだけ肩の力が抜ける。

 彼は未来も覚悟も分からない。だからこそ、今を生きている存在だ。


 二人が同じ戦場に立つ日は遠くはない。


 レオンはまだ、強さに憧れてはいなかった。

 ただ──ここに立っていた。


 兄として先輩として、この胸の痛みをほぐすように、風に乱れた髪を掻き混ぜてやった。




 第十二章 了

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